INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第90回 「無廃都市」の建設

2025年06月16日グローバルネット2025年6月号

公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

今回は中国国内での取り組みが加速している「無廃都市」の建設の動向について、概要を紹介してみることとしたい。

まず「無廃都市」とは何かということから紹介しなければならないが、中国語での表記をそのまま使うと、「無廃城市」になる。「城市」は都市という意味の一般的な表現であるが、「無廃」についてはなかなかしっくりとする日本語の訳語がない。「ゼロ廃棄物(廃棄物ゼロ)」とか「ごみゼロ」とか「ゼロウエイスト」とか翻訳される場合もあるが、このような訳だと意図される意味を読者が誤解する恐れがあるので、私は中国語の表現をそのまま使って「無廃都市」と呼ぶことにした。一見非常にわかりにくいが、誤解を生む恐れは小さい。また、わからないから「何だろう?」と関心を持ってもらえる。

後で出典根拠について触れるが、ここでいう「無廃(都市)」とは廃棄物の発生量をゼロにする(都市)とか、廃棄物を完全に循環利用する(都市)という意味ではない。「『無廃都市』とは、イノベーション、協調、グリーン、開放、共有という新しい発展理念を羅針盤に据え、グリーンな発展方式とライフスタイルの形成を推進することで、固体廃棄物の発生段階における減量と資源化利用を持続的に推進し、埋め立て処理量を最大限減らし、固体廃棄物の環境影響を最小限に抑える都市発展モデルである。」と説明されている。一種の先進的な都市管理の理念として新しく作られた言葉である。この「無廃都市」の理念は中国工程院の杜祥琬院士を代表とする専門家らによって提案されたと言われている。

それでは、「無廃都市」の建設の進展について、中国共産党および国務院の重要文書からの引用を中心に説明することとする。

■国務院の「無廃都市」建設パイロット業務計画に係る通知
 2018年初、中国共産党中央全面深化改革委員会は、「無廃都市」建設の試行を2018年の改革業務任務に組み入れた。これを受けて国務院は「無廃都市」建設パイロット業務計画を起草し、中央全面深化改革委員会の審査を受けた後、2018年12月に国務院弁公庁名で「無廃都市」建設パイロット業務計画(以下、「業務計画」)を公表通知した。この業務計画ではその冒頭の部分で、上述したような「無廃都市」の理念等について説明(定義)している。
この業務計画では、中国全土の範囲から10程度の条件が整った、基礎があり、規模が適当な都市を選定して、2020年(末)までを目標として全市の範囲で「無廃都市」建設のパイロット業務を実施することとした。そして、重慶市、深圳市等11の都市と雄安新区等5つの特殊地区が選定され()、「無廃都市」建設パイロット業務が実施されることになった。

■中国共産党中央委員会・国務院の「汚染防止攻略戦を徹底的に戦うことに関する意見」
 2021年11月に出されたこの「意見」では、(二十四)「無廃都市」の建設を着実に推進、の一項目を立て、「無廃都市」建設に関する制度・技術・市場・規制制度を整備し、都市固体廃棄物の精密管理を推進し、第14次5ヵ年計画(2021-2025年)中に100程度の地区級以上都市で「無廃都市」建設を推進し、条件のある省では全域で「無廃都市」建設を行うことを奨励することとされた。

■第14次5ヵ年計画期間における「無廃都市」建設業務計画
 上記の「意見」を受けて、「無廃都市」の建設を着実に推進するため、2021年12月に生態環境部、国家発展改革委員会、農業農村部など18部門が共同で「第14次5ヵ年計画期間における『無廃都市』建設業務計画」を制定通知した。この計画では業務目標として、100程度の地区級以上都市で「無廃都市」の建設を推進し、2025年までに「無廃都市」における固体廃棄物の発生強度を比較的早く下降させる、総合利用(リサイクル)レベルを顕著に上昇させる、汚染物質排出削減と二酸化炭素排出量の低下のシナジー効果を十分に発揮させるなどの目標を掲げた。各都市・地区からの申請と審査を経て113の都市と8つの特殊地区が「無廃都市」候補に選定された。

■中国共産党中央委員会・国務院の「美しい中国建設の全面的推進に関する意見」
 2023年12月に出されたこの「意見」(連載第87回、2024年12月号参照)では、(八)固体廃棄物と新汚染物質対策の強化、の項の中で、「無廃都市」の建設を加速し、都市農村の「無廃」実現を推進するとした上で、2027年までに「無廃都市」の建設の割合を60%まで到達させ、固体廃棄物の発生強度を顕著に低下させ、2035年までに「無廃都市」の全国での建設を実現させ、東部の省では率先して全域で「無廃都市」を構築するという長期目標を示した。

■地方政府における条例化の動き
 以上のような中国共産党中央委員会、国務院等のトップレベルからの指導方針を受けて、地方政府でも既存の固体廃棄物環境汚染防止条例の改定や新たに無廃都市建設条例の制定などの動きが出てきている。例えば河北省では固体廃棄物環境汚染防止条例に「県級以上の人民政府は無廃都市の建設を強化すべきである」という一項を加え、浙江省、山東省、福建省でも同じく「県級以上の人民政府は全域で無廃都市の建設を推進すべきである」という一項を加えている。また、上海市は2024年に全国で初めて、6章55条から構成される無廃都市建設条例を制定した。上海市は2019年にも全国に先駆けて生活ごみ管理条例を制定し、生活ごみの強制的な分別回収を実施するなど、この分野での先頭に立っている。

■先行事例と今後の展望
 「無廃都市」に選定された各都市や地区では、それぞれの地域の特性や直面している課題に応じた特色ある取り組みが行われている。例えば最初のパイロット業務に参加した安徽省の銅陵市では、特色ある産業循環チェーンを形成し、工業固体廃棄物の発生量の減少と総合利用レベルの向上を実現させた。福建省の光沢県では、農業由来の固体廃棄物について、廃棄物ごとに低環境負荷、高利用効率の合理的な再利用手段を特定するなどの工夫をしている。山東省の威海市では生活由来の固体廃棄物について、「無廃生活」による洗練都市モデルの形成を目指して緻密な管理メカニズムの構築と緻密な都市管理、緻密な公共サービスと緻密な固体廃棄物回収の実践に取り組んでいる。その他重慶市や深圳市では危険廃棄物について周辺地域と広域連携してコスト削減と効率化を促進している。

以上は先行して実施した「無廃都市」の取り組み事例の一例であるが、来年になれば後発で実施している「無廃都市」の事例も数多く出てくるであろう。私見であるが、「中国は(失敗覚悟の)試行錯誤と事例の積み重ねにより成長する発展パターンが特徴である」ことを思えば、次の目標年次の2027年、さらにはその次の目標年次の2035年にどのような姿に発展しているのか楽しみである。引き続きフォローしていきたい。

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