フォーラム随想原村の「9条の碑」

2025年06月16日グローバルネット2025年6月号

千葉商科大学名誉教授
「八ヶ岳自給圏をつくる会」代表
鮎川 ゆりか(あゆかわ ゆりか)

 戦後80年の5月3日、憲法記念日に、長野県諏訪郡原村で「9条の碑」の除幕式が行われた。98人にも及ぶ人が集まり、そのことを祝った。私も「呼びかけ人」の一人として参加し、あいさつをした。この式の締めとして、諏訪大社の氏子であることを印象付けるように、御柱祭でうたわれる木遣りがうたわれ、原村らしさが示された。
原村は人口8,000人ほどの村ではあるが、話が出てから早速に資金も目標を上回る額が集まり、原村在住の石彫刻家が地元産の安山岩を用いた碑を創作し、原村の中心地区の郵便局前にあるパン屋の敷地に設置することが決まった。この素早い動きには驚くが、やはりロシアのウクライナ侵攻やイスラエルとガザなどで、悲惨な戦争が行われているからだろう。
 その地に据えられた「9条の碑」には、白い鳩のマークと「守れ、9条」「No War! ETERNAL」が記されている。碑の裏側には、憲法第9条の文言が、ルビ付きで書かれていて、誰でも読めるようになっている。

 

 「9条の碑」を建てる動きは全国的に広まっている。1985年の沖縄県那覇市から始まり、2024年までに設置されたのは50市町村。今年の4月までには、さらに3市町村。5月3日には、原村を含め、6市町村が設置した。長野県は沖縄県の8市町村に次いで多い7市町村だ。
 1930年代に長野県から満蒙開拓に出かけた人は多く、悲惨な目に遭って無事帰国した人々もその後、苦労して長野県各地を開墾した。
 原村は41年前の1984年の世界的な反核運動の年にも「非核平和の村宣言」をしており、その看板がこのたび、別の場所から役場前、小学校の前に移設された。
 「原村は、平和憲法の精神にのっとり、『非核三原則』を将来ともに遵守し~~核兵器の全面撤廃と軍縮を推進し、もって世界の恒久平和達成をめざすものである」と村のホームページにその宣言文が載っている。長野県の全自治体はこの「宣言」をしている。
 原村はこの「非核平和の村宣言」と「9条の碑」で、真に平和を希求する村であることを示すこととなった。
 日本は戦争の悲惨さに懲りて、第二次世界大戦が終わってから、この「憲法9条」によって、80年間、戦争を知らないで過ごすことができた。
 しかし今日、世界各地で戦争が行われており、核兵器の使用まで脅しに使われている状況で、日本も軍事予算を増やしている。そうした中で、地方自治体の住民が、「9条の碑」や「非核平和の村宣言」で、「平和」への意思表示をすることは、非常に大事なことである。

 

 世界を見渡せば、軍備放棄を定め、永世中立を掲げて平和国家を維持している中央アメリカの国、コスタリカがある。2016年に公開された映画『コスタリカの奇跡~積極的平和国家のつくり方』を思い出した。コスタリカは、軍事国家は人権や自由を抑圧するものだから、ということで1948年に軍隊を廃止し、「非武装中立」を誓った。他国から侵略されたら?ということに対しては、実際に2014年に侵略してきたニカラグアに対し、国際刑事裁判所に訴え、ニカラグアはそれを受け入れた。コスタリカは軍事よりも教育や福祉にお金をかけることで国民の支持を得て、今では「地球幸福度指数(HPI)」の上位国となっている。
 コスタリカは、「平和」のためには、貧困、人種差別、格差問題などの社会的不平等をなくすことが最も重要で、生物多様性、気候変動対策など、自然との共生も、欠かせない要素と考えている。そのため国の森林やそこにすむさまざまな生物を守ることなどで、国民一人当たりのCO2排出量も抑えている。
 日本も「平和」に欠かせない貧困の撲滅、差別や不平等の解消、人権、生物多様性、気候変動対策などに重点を置くことで、戦争を回避し、日本の「憲法9条」に誇りを持ち、諸外国とこれを共有する方向で「世界平和」を目指すべきだ。

タグ:,