環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページ私が市民運動に取り組む理由

2025年06月16日グローバルネット2025年6月号

気候アクティビスト
市民ライター
田中 芙美子(たなか ふみこ)

気候変動に関心を抱いたきっかけ

私が大学1年生の頃だった。物心がついてから初めて訪れた「途上国」、フィリピンでのこと。朝からクラクションが鳴り響く大通りで、人々の活気に触れ、旅先での散歩を楽しんでいた。突然、シャツの裾を引っ張られ振り返ると、10歳くらいの子が立っていた。驚いて、「どうしたの?」と声をかけると、まっすぐにこちらを見て、「money」とだけ答える。生まれて初めての物乞いとの遭遇に慌てた私は、その場から早歩きで逃げた。

動揺していた。なぜ、学校に行かずに物乞いをしなければならない子どもがいるのだろう。日本で暮らし、生活に困ったことのなかった私には衝撃で心揺さぶられる出来事だった。先進国と途上国の差に関心を持ち、調べるうちに、貧困層の子どもや女性たちが真っ先に気候変動による被害を受けるということを知った。しかも気候変動を止めるにはリミットがある。「気候変動を何とかしないといけない」。焦燥感を抱いた。

 

大崎町で感じた「市民の力」

とはいえ、気候変動というあまりにも大きい問題に対して、何をしたら良いのかはわからなかった。なるべく環境や人に優しい選択をしてみると、想像以上に楽しく心地良い。一方で、一人でそういった活動をしていても無力感があった。自分の生活を見直すことだけで社会は良くなるのだろうか、と感じつつ、かといって周囲の人に積極的に働きかける勇気がない自分にもやもやもしていた。そんな状況にあった昨年、興味本位で参加したセミナーで鹿児島県の大崎町を訪れたことが私の行動を変えるきっかけの一つになった。

大崎町は、かつて埋め立て処分場が逼迫する状況に追い込まれ、焼却処分場を建設するか、埋め立て処分場の延命化を図るか、という選択を迫られた。そこで将来世代への負担を減らすため、「埋め立て処分場の延命化」を決めた大崎町が実行しているのが、自治体をあげての生ごみの回収・堆肥化、そして27品目ものごみを分別し、リサイクルするという施策だ。生ごみの回収や資源ごみの回収場所に出向いてのごみ出しは、住民の協力なくしては成り立たない。それでも、住民と行政で何度も話し合ってさまざまな工夫を行い、町全体でシステムを作っていることに感銘を受けた。大崎町を知ったことで、ごみ問題に限らず、「自分たちの手で理想を作り上げられる可能性」を感じることができた。

 

北九州市で取り組みたいこと

大崎町訪問をきっかけに、地方自治や市民活動に興味を持った。気候変動に関して活動する人たちを知れば知るほど、私も社会課題に対して何かアプローチしたいという思いが芽生えた。とはいえ、自分の住む自治体がどのような取り組みをしているのかわからない。まずは自分の暮らす北九州市の状況を知ろうと思い、初めて環境審議会の傍聴に行った。有識者や市議会議員・公募委員を含む審議委員によって、さまざまな議論が行われていた。「環境未来都市」を掲げる市だけあって、CO2削減計画や環境計画は比較的高い目標を打ち出しているように見える。もう6年もこの地に暮らしているが、私が知っている以上にいろいろな取り組みがされていた。

もちろん、課題も多くありそうだ。北九州市は産業分野のCO2排出が多くを占めるため、2035年目標を達成するためには企業の協力が必須だろう。そのためには、職業や世代にかかわらず、あらゆる立場の人が気候危機という「人類共通の課題」に対して関心を持ち、少しでもましな世界にしようという思いを持てば、とてつもないパワーになるはずだ。

私の今の行動のモチベーションは、より多くの人が気候変動に対して関心を持つことだ。今年度末には北九州温暖化対策計画の中期目標の見直しも行われるというから、少しでも多くの人に気候変動に対して関心を持ってもらいたい。気候危機に向き合い、自分の考えや思いを伝える活動に情熱を注いでいきたいと思う。

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