ホットレポート公開セミナー「日本の経験は、IPCC気候変動と都市報告書にどのように貢献できるか?」報告
2025年06月16日グローバルネット2025年6月号
グローバルネット編集部
今年3月19日、同報告書の第一回主執筆者会合が大阪で開催されたのに併せて横浜市で開かれた公開セミナー「日本の経験は、IPCC気候変動と都市報告書にどのように貢献できるか?」のパネルディスカッション参加者のプレゼンテーションの概要を紹介する。
ウィンストン・チョウ氏(IPCC第Ⅱ作業部会共同議長)
IPCCの報告書というのは政策に対して中立であるべきですが、この特別報告書は特に市長など実践者にアピールするもので、IPCCとして初めて都市に特化した報告書となります。昨年アウトラインが決まり、第1章:枠組、第2章:傾向、課題、機会、第3章:都市のリスクと排出削減のための行動と解決策、第4章:変化を促進・加速する方法、第5章:都市の種類・地域別の解決策、という5つの章から構成されることになりました。この構成は科学的に確かなものであると同時に、地方自治体にとって実践的なものであるよう設計されています。報告書は、都市規模の気候変動対策の現実を反映するために、専門家による査読を受けた文献と、グレー・リテラチャー(Gray Literature)、ケーススタディ、実際の現場での体験と融合させる予定です。
今年10月と2026年半ばに見直し案が提出され、最終承認は27年3月になる予定です。地域が関与することが重要であり、日本の都市専門家、都市関係者、研究者の皆さんには、データの提出や利害関係者の協議への貢献など、積極的に参加していただきたいです。
デブラ・ロバーツ氏(IPCC都市特別報告書統括執筆責任者/調整役代表執筆者)
今回の報告書は都市の実務家にフルに活用していただきたいと思っています。この報告書は人間中心のアプローチを取っているということが「特別」なのです。多くの人が住み、働き、遊び、より良い生活を目指す場所である都市についての報告書だからです。
都市というのは人、お金、権力、政治及びインフラなど多くの要素が集中する場所であり、気候変動の課題が社会的な行動力と交差する場所です。気候変動との戦いは世界の都市で方向性が決まります。それぞれの地域に特化した行動が求められます。パリ協定で合意に至った目標の達成は難しいのではないかという厳しい現実がある中で、気候変動対策は都市にとってどんな意味をなすのかということを改めて考えなくてはいけません。しかし、政情不安や失業問題、貧困、生物多様性の損失、資源不足など全てが課題となり、気候変動は常に優先されるわけではありません。
行動が何よりも大切です。都市における気候変動の課題と対応の中で、政策や実践に関連する側面を優先する必要があります。そして資金も必要です。開発の相乗効果、何もしない場合のコストも見ていく必要があります。
現実的な観点を持つことも重要です。特に発展途上国の貧困地域では多くの気候変動に関わる課題が日々突きつけられています。気候変動対策と経済発展との兼ね合いをどうすればいいか、開発の推進と気候変動対策の促進に関してのコベネフィットも追求しなくてはいけません。脆弱性や貧困、公平性の問題、何十億ものグローバルサウスの人々の抱える課題についても目をつぶるわけにはいけません。
バス・ファン・ルイヴェン氏(IIASAエネルギー・気候・環境プログラム主任研究員)
都市はイノベーションのハブです。イノベーションを起こし、解決策を提供し、実行に移すことができる場所です。しかし同時に都市は気候変動による課題に直面している場所でもあり、そのような都市を変革することは大きな挑戦です。プロジェクトの第2フェーズでは、日本の自治体を対象とした全国調査で、気候ガバナンス体制やデータの活用など、都市がどういうことができるか、どのようにそれを行っているのか、都市同士がどのように学び合っているかという、ガバナンスにフォーカスしています。
中間的な考察結果として、多くの都市は気候変動に対しCO2排出を減らし影響を最小化するため、緩和・適応の特別な枠組みや実施計画を持っている一方で、法律で定められている以上のことを実施し、リーダーシップを発揮しているところはごく一部である、ということがわかりました。
多くの制度、特に補助金制度では、最初は社会の何かを変えたい、人々の行動を変えたいと思っていることが多いですが、しばらくするとそれ自体が関心事となり、企業や市民は実際に行動を変えることよりも、お金が目当てになってしまいます。そのため、制度をどのように進化させれば行動を変えることができるのかを学ばなければならなりません。
また、最終的に得られる知識の多くは、経験に基づく暗黙知です。データや情報に焦点を当てた都市間の学習プラットフォームはたくさんありますが、私たちはその方法を見つけ、学ぶ必要があります。ですから、何かを学ぶ必要がある都市の専門家と、そのことをすでに実践している別の都市の専門家とのマッチングは、非常に効果的です。フロントランナー都市であることは、他の都市にどうすればそれができるかを教える責任を生み出し、他の都市と知識を共有することが重要なのです。
伊藤 貴輝氏(横浜市脱炭素・GREEN×EXPO推進局 脱炭素社会移行推進部担当部長)
横浜市は4つの戦略的な柱を通して緩和策に注力しており、模範となることを目指しています。市は公共施設への太陽光発電の設置を進めており、当初は2040年までに設置可能なすべての施設に導入することを目標としていましたが、導入ペースを倍増することで2035年までに設置を完了させる予定です。太陽光発電の導入ペースの加速のために電力購入契約(PPA)により、事業者が設置・運転費用を負担する仕組みとしています。そして市では公共施設へのLED照明の導入も加速させており、100%LED化を達成する目標年を2030年から2027年に前倒しました。
昨年の夏の酷暑により、市民が気候変動を直接体感しています。水害や熱中症など気候災害のリスクも高まっていることから、市では、雨水貯留施設、グリーンインフラ整備、ハザードマップや防災アプリによる情報発信などの適応策を進めています。特に災害発生時において、市民の適切な避難行動につなげるコミュニケーションが重要であり、対象となる市民に的を絞った情報を伝達する方法を採用しています。
さらに市では冷房の効いた公共や民間のスペースを「クールシェア・スポット」として整備・紹介しており、すでに600ヵ所以上になりました。
エリック・ザスマン氏(IGESサステイナビリティ統合センター リサーチリーダー)
私たちのプロジェクトは、気候、健康環境、関連するSDGsとその関連計画の間の相乗効果を活用するために、ツール、証拠、経験を提供することを目的としています。対象地は人口150万人の神奈川県川崎市、75万人の新潟市、20万人の青森県八戸市で、気候変動と健康との関連性を都市がより可視化し、さまざまな関連性に基づいたエビデンスに基づく行動を取れるよう手助けをしようとしています。表向きは世界的な問題でありながら、地域ではどのようなメリットがあるのかを実証するのです。
都市の政策立案において気候と健康を統合することは重要です。私たちはさまざまな部門の行動を見るのに役立つツールを開発しました。より体系的な関連付けができるようにしようとしています。また、猛暑と健康との関連性を調べ、エビデンスに基づいた行動を促すことを目指しています。さらに、コベネフィット分析を行おうとしています。ネットゼロの目標を達成することで、呼吸器系疾患の症状が改善されるということもわかってきています。そして特に高齢化社会の状況下にある日本において高齢者の健康は重要です。