NSCニュース No. 156 2025年7月定例勉強会報告「(PFAS等)有害化学物質から子どもを守るためには~食品安全委員会のリスク評価の問題点~」
2025年07月16日グローバルネット2025年7月号
NSC幹事
(株)環境管理センター 基盤整備・研究開発室チーフ
青木 玲子(あおき れいこ)
5月20日、弁護士、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議(JEPA)代表理事、有害化学物質から子どもを守るネットワーク(子どもケミネット)代表世話人、高木基金PFASプロジェクトの中下裕子氏より、「(PFAS等)有害化学物質から子どもを守るためには~食品安全委員会のリスク評価の問題点~」と題しリスク評価の課題を紹介いただいた。
【JEPA・子どもケミネットの活動】
≪JEPA≫
ダイオキシン(以下DXN)・環境ホルモン汚染の危機回避のため1998年に設立。DXN類緊急対策提言により特措法立法の実現、鉛リスク、ネオニコチノイド(以下、ネオニコ)系農薬の使用中止、持続可能な農業の農薬管理、多摩地域PFAS血液検査、農薬再評価制度等の提言を行ってきた。
≪子どもケミネット≫
近年の社会的関心の低下に対し世論喚起のため2023年に設立。子どもの発達や健康に有害な化学物質対策の立法を行政へ提言。
【発達障害・生殖危機とその要因】
≪発達障害児の増加≫
子どもの発達障害が国内で増加中。ネオニコ、有機リン系やピレスロイド系農薬、PFAS、プラスチック中の内分泌撹乱物質等の脳発達への悪影響が疫学や動物研究で指摘されている。
≪生殖危機-少子化が止まらない≫
2023年出世数は72万人で統計史上最低、生殖障害の発症率は国内外で増加。
内分泌系や神経系にも撹乱作用のある「シグナル毒性」を持つ化学物質曝露の環境要因が示唆される。
≪EUでの環境ホルモン対策強化≫
2000年頃の一部の「環境ホルモン空騒ぎ論」により日本では環境省の物質リスト廃止や研究縮小を強いられたが、環境ホルモン問題は未解決である。
EUは1999年にEDC戦略策定、以降も農薬や殺虫殺菌剤の規制化、2020年は消費者製品への規制化着手。
【化学物質リスク評価の重大な問題点】
◆PFAS評価書の例
2024年6月の食品安全委員会(以下、食安委)設定のTDI(耐容一日摂取量)に基づき、環境省は水道水のPFOS・PFOAを水質基準に格上げしつつも現行の暫定目標と同値に据え置く方針を今年2月に示した。
近年、欧米諸国はPFASのTDIを大幅に低下させ、現在も見直し中である。
食安委のPFASリスク評価で事前選定文献257報(最重要分類した122報を含む)のうち190報を途中で除外し、事前選定では選外だった82報を含む201報へ非公式会合で差し替えられたことが高木基金PFASプロジェクトによる検証結果で今年3月に判明した。
非公式の文献大量差し替えに対し、複数の有識者は「評価途中で追加はあっても外すことは普通しない」「POD(TDIの根拠の研究結果)を差し替えると導きたい結果へ結論を変えることができてしまう。リスク評価が根底から崩れた」「非公開のルールは恣意的なものでしかない。プロセスが不明瞭なことが評価の信頼性を損なう」と指摘。
リスク評価は科学的でなければならず、科学とは第三者による検証可能なものでなければならない。
◆農薬再評価(イミダクロプリド)の例
2018年の農薬取締法改正で農薬の安全性を最新の科学的根拠で再評価する制度が導入され前進したが、再評価申請に必要な試験データや公表文献の報告書を農薬製造者の申請者自身が提出する方式にはその妥当性に疑問がある。
試験データはOECDガイドライン準拠で行い、試験法は開発に長期間を要することから10~30年前の知見に依拠し、最新の知見が反映されないため、大学や研究機関による最新の科学技術に基づく公表論文の活用が重要となる。
食安委は2024年に再評価したイミダクロプリドの発達神経毒性について、試験データでは網羅し切れていない影響(不安関連行動、自発運動量減少等)が低用量で示された最新の公表論文2報をリスク評価に用いなかった。
◆子ども達を守るリスク評価のあり方
現行のリスク評価体制では子ども達を守れない。早急に見直す必要がある。
質疑応答
(進行:川村雅彦NSC勉強会担当幹事)
国内の現状や政策のあり方の課題が見えた。企業はリスク対応が必要。
講評(後藤敏彦NSC共同代表幹事)
国際的なバリューチェーンへの影響やEU規制の域外適用により、国内規制の有無を問わず化学物質管理やESG対応の必要性を日本企業は認識すべき。