環境条約シリーズ 400遺伝資源に関するDSIの使用者 事業収益から定率支払い

2025年07月16日グローバルネット2025年7月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

生物多様性条約(CBD)の第15回締約国会議(COP15)では、名古屋議定書の「遺伝資源の利用」の定義(遺伝資源に該当しない派生物の利用を含む)に、同様に遺伝資源に該当しない「DSI(塩基配列情報)の使用」が含まれることが確認され、その使用から生じる利益の配分のための多国間メカニズム(MM)が設立された。それを受けてCOP16では、DSI使用者(企業等)によるMMの下のカリ基金への任意支払いが要請され、また、カリ基金の資金の開発途上国等への分配手法も定められた(本誌23年5月25年5月)。

カリ基金への任意支払いについては、DSI使用から利益を得るとされた指定業種に属する企業等に対して、以下のような事業規模に応じた定率方式が用いられる。具体的には、最新の決算書に基づく直近3年間平均で3要素(総資産2,000万ドル、収入5,000万ドル、収益500万ドル)のうち2要素を超えた企業等は、収益の1%または収入の0.1%をカリ基金に支払うべきとされている。重複支払いの回避、学術目的などの非商業的使用の除外についても定められている。なお、締約国には、この支払い方式へDSI使用者を誘導する法令・行政・政策措置の策定が求められている。

このように、DSIの「使用」が利益配分の起因とされたのでDSIはCBDの基本であった「遺伝資源の取得時点に基づく不遡及原則」から切り離されて、CBD発効前に取得された遺伝資源から生成されたDSIも、公開データベースを通じて自由利用されてきた(公共領域の)DSIも、今後は使用すればカリ基金への任意支払いが求められる場合が増えてくる。ただし、国内法や取得時のABS(取得・利益配分)契約に別の定めがあれば、それが優先される。他方、その支払いは、遺伝資源の利用者による成果物の販売利益の配分支払いという従来の手法ではなく、DSIの使用者による企業規模に応じたその事業収益からの定率支払いとなる。

CBDは、ABS規則は国内法が設定することを大前提にしつつ、DSI-ABS契約に関する任意の国際標準規則を上記COP決定によって設定したのである。

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