環境条約シリーズ 401法律と契約との連携 カリ基金への支払いの奨励
2025年08月13日グローバルネット2025年8月号
前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)
CBD(生物多様性条約)の締約国会議決定によって、DSI(塩基配列情報)の使用から生じた利益の配分に関する任意の規則(カリ基金への定率支払いを含む)が定められ、それを国際標準として機能させることが想定されている(本誌25年7月)。それが法的義務としてではなく任意の規則として定められた背景には、利益配分は契約によって実施されるとCBDが定めていること、また、契約を規制管理するための根拠規定はCBDには置かれていないことがある。
ところで、採択された標準規則には、任意支払いの奨励・勧誘にとどまらず、DSIの使用の実態報告などの監視措置も含まれている。また、カリ基金への支払いに使用者を誘導するための法令・行政・政策的措置を取るよう締約国を勧誘すること、その措置の実情を考慮して定率方式を見直すことも定められている。さらに、今後の再検討の際の考慮項目には、DSIに限らず遺伝資源へも多国間メカニズム(MM)を任意適用する可能性が掲げられている。
このように、特定の行動が法律分野で任意とされ奨励されている場合に、自発的な行動を強く促すことに加えて、当該行動へ誘導するための措置(経済的・技術的な支援措置、優遇措置、不利益措置など)や拡大適用を定めることはこれまでも行われてきた。そのような手法は規制的ではなく誘導的であるが、特定の場合には半強制的になることもあり、国際標準規格や認証制度とも通じている。
それらに加えて近年は、当該行動を義務付けるような契約の推奨・普及・標準化が進められてきており、上記のDSIの使用に伴う支払い規則もその流れの中にある。CBDは契約を規制できないため、カリ基金への定率支払いが奨励され、その支払いを勧誘・誘導するための措置が定められ、その支払いを義務付ける契約が提唱され、その契約が国際標準化されようとしているのである。もちろん当事者間でそれとは別の支払い手法を定めた契約を結ぶことも可能であるが、交渉手続き面での負担増が避けられない。
