NSCニュース No. 158 2025年11月メガトレンドとサステナビリティ経営~将来、企業はどのような世界で経営するのか~

2025年11月18日グローバルネット2025年11月号

NSC 勉強会担当幹事
(株)Sinc 統合思考研究所所長・首席研究員
川村 雅彦(かわむら まさひこ)

戦後80年、プラザ合意40年を迎えた2025年の今年。米中対立を軸に世界は多(無)極化への兆しがある。日本では「失われた30年」の議論もあり、時代は大きな節目を迎えている。

それでは、企業は将来どのような世界で経営することになるのだろうか。

1. 2015年は文明史的なサステナビリティの到達点のはずだった!!

表 サステナビリティの系譜

◆サステナビリティの系譜
 国連主導により1972年のストックホルム宣言で「地球環境」を認識し、1987年のブルントラント委員会報告で「持続可能な発展」が定義され、1992年には世界初の地球サミットがブラジルのリオデジャネイロで開催された。他方、OECDは1976年に、責任ある企業に期待される多国籍企業行動指針を策定した。
 今世紀に入っても、このようなサステナビリティの系譜は、世界的に継承された。2015年はその到達点として、特にSDGsとパリ協定が象徴的であった(参照)。

◆否定されたサステナビリティ
 これで21世紀の枠組みが確定し、「サステナビリティの世紀」になるとの高揚感に包まれたが、2年を待たず2017年に米国でトランプ政権が誕生し、状況は一変した。
 自国第一を唱え、国際協調に背を向け、長期視点が必要な地球環境・社会のサステナビリティを否定した。ただし、今年の第二次政権誕生で言われた「トランプは結果」は、おそらく正しい。米国内の産業構造の変化で、切実な問題として米国民の半数は賛同しているからである。
 ベストセラー『世界秩序が変わるとき』の著者で投資コンサルタントの齋藤ジン風にいえば、冷戦終結後30年続いた「新自由主義」の時代は終わり、新たな世界観の時代が到来したのである(視界不良ではあるが)。

2.メガトレンドを映す長期ビジョン

◆メガトレンドのリスク・機会
 企業の長期ビジョンは、メガトレンド(人口動態、資源・エネルギー、地球環境、テクノロジー、政治・経済、価値観)を背景に、将来の目標や在りたい姿を明確にした指針である。それに基づき経営戦略が決定される。
 しかるにメガトレンドとは何か。旧IIRC統合思考枠組の「外部環境」に相当し、世界全体の「在り方」を変える力を持ち、新たな経営課題を企業に突き付ける巨大な潮流である。そこにサステナビリティ課題も含まれる。
 企業はメガトレンドがもたらすリスクを克服し、機会を活用しなければ、時間軸の中で存在価値を失っていく。自分は大丈夫という「ゆでガエル現象」に陥らぬよう、適宜ビジネスモデルや事業ポートフォリオを戦略的観点から見直す必要がある。

◆「長期」ではない長期ビジョン
 GPIFの最新調査では、日本の上場企業の長期ビジョン年数は、「10年以上」が45%となった。3年の中期経営計画が中心で、「5年未満」が過半を占めた2020年以前に比べれば、進展がみられる。しかし、「20年以上」はなお6%に過ぎない。
 このような状況にあって、経営戦略と連携させたサステナビリティの長期ビジョン・目標を先駆的に策定した企業がある。例えばトヨタ、ブリヂストン、リコー、INPEXである。

3.「未来」は単一ではない!?

 TCFD提言により日本企業にもシナリオ分析が浸透した。気温上昇が進んだ場合(複数)、どのような事業・財務・戦略上の影響が起きるのか、そして、どう対処するのか。まさに逆算の長期思考が求められている。
 不確実性の中で、いかに「未来」を読むか。これが経営者の仕事の一つである。しかし、メガトレンドには方向性は確実だが、いつどのようになるかよくわからない事象が多い。それ故、いくつかのシナリオ(世界像)を想定し、戦略を練る必要がある。
 言うまでもなく、企業は長期的にはサステナビリティの範囲内でしか事業ができないことを銘記すべきである。

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