INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第88回 5ヵ年計画における環境保護の位置付けの変遷

2025年02月14日グローバルネット2025年2月号

公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

2025年は第14次5ヵ年計画(2021-2025年)の最終年であり、計画目標の達成に向けて施策を加速する1年でもある。今回は過去の5ヵ年計画における環境保護の位置付けと環境保護分野の5ヵ年計画制定の変遷についてレビューしてみたい。

1949年に中華人民共和国が建国され、1955年に最初の5ヵ年計画(1953-1957年)が全国人民代表大会(全人代)での審議を経て決定されて以降、途中紆余曲折はあったが、現在の第14次5ヵ年計画に至っている。通常5ヵ年計画と呼ばれているものは、全人代での審議を経て決定される「中華人民共和国国民経済と社会発展第〇次5ヵ年計画」(以下、「最上位の5ヵ年計画」という。)を指す。この最上位の5ヵ年計画の下に各分野別、地域別、専門領域別等の5ヵ年計画が策定されるが、これらは全人代の審議を経て決定されるわけではなく、国務院、複数の省庁の連名あるいは単独の省庁により決定あるいは承認されるなどさまざまであるから、“計画(および目標)の重み(格付け)”の比較に当たっては注意が必要である。また、地方政府等も国の5ヵ年計画を参考にして独自に5ヵ年計画を策定する。

1.第6次~第8次5ヵ年計画期間(1980-1995)

最上位の5ヵ年計画の中で独立した項目を立てて「環境保護」に言及したのは、1982年12月に全人代で承認された第6次5ヵ年計画(1980-1985年)が最初であり、「(10)環境保護を強化し、環境汚染の更なる悪化を制止する」の項目を立てて記述した。また、環境保護分野に係る専門の5ヵ年計画が初めて策定されたのは第7次5ヵ年計画期間(1986-1990年)で、国務院環境保護委員会により「第7次5ヵ年計画時期国家環境保護計画」が策定された。第8次5ヵ年計画期間(1991-1995年)には国家計画委員会の指導の下で、国家環境保護局により「環境保護十年計画と第8次5ヵ年計画(1991-1995年)」が策定された。

2.第9次~第10次5ヵ年計画期間(1996-2005)

第9次5ヵ年計画期間(1996-2000年)になると、国家環境保護局、国家計画委員会および国家経済貿易委員会の3部門により「国家環境保護第9次5ヵ年計画と2010年長期目標」が策定され、国務院がこれを承認した。国務院が承認する形式が取られたのはこの計画が初めてで、国務院の承認により計画の権威を高めた。また、この計画の中で「第9次5ヵ年計画期間における全国の主要汚染物質の排出総量規制計画」と「世紀を跨ぐ中国グリーンプロジェクト計画」という2つの大きな行動計画が策定実施され、工業汚染企業の排出基準達成と重点都市の環境質の基準達成を全面的に推進した。

第10次5ヵ年計画期間(2001-2005年)中にはこれまでの国家環境保護総局、国家計画委員会および国家経済貿易委員会の3部門に財政部を加えた4部門により「国家環境保護第10次5ヵ年計画」が策定され、同じく国務院が承認した。この計画では数値目標が数多く掲げられたが、最上位の5ヵ年計画本文中に書かれた「主要汚染物質の排出総量を2000年に比べ10%減少させる」という目標を具体的に記述した「2005年に二酸化硫黄、粒子状物質(ばい煙と工業ばいじん)、化学的酸素要求量、アンモニア性窒素、工業固体廃棄物等主な汚染物質の排出量を2000年に比べ10%減少させる」という目標は、次の5ヵ年計画の目標設定の在り方にも大きな影響を与える重要な目標であった。また、第9次5ヵ年計画期間に確定された環境保護重点地域である「酸性雨規制区」と「二酸化硫黄規制区」で、「二酸化硫黄排出量を2000年と比べて20%削減し、降水の酸性度と酸性雨の発生頻度を下げる」という目標も同様に注目すべき重要な目標であった。しかし、水・大気の主要汚染物質である化学的酸素要求量と二酸化硫黄の排出総量削減は目標達成に遠く及ばず、化学的酸素要求量はわずか2.1%の減少、二酸化硫黄は逆に27.8%も増加した。

3.第11次~第12次5ヵ年計画期間(2006-2015)

この反省に立ち、最上位の第11次5ヵ年計画(2006-2010年)では再び主要汚染物質である化学的酸素要求量と二酸化硫黄の排出総量を2005年比で10%減少させるという目標を設定するとともに、この目標を拘束性目標に指定し、政府の強い決意を示した。この拘束性目標という目標の性質の分類は第11次5ヵ年計画で初めて導入された。強制的かつ固定的な目標で、国のマクロコントロールの意図を示しており、達成が義務付けられた目標と解説されている。この他に予測性目標がある。その他の環境保護分野の拘束性目標として、森林被覆率の増加(2005年18.2%→2010年20%)を定めた。

第11次5ヵ年計画期間中もこれまで同様に「国家環境保護第11次5ヵ年計画」が制定されるが、これまでよりさらに格付けが高くなった。即ち、国家環境保護総局と国家発展改革委員会が合同で制定したが、これを国務院が同意した後、国務院の文書として直接公表通知した。国務院の名前で公表通知することによりこれまでよりさらに権威を高めた。そして、国務院は通知文の中で、第10次5ヵ年計画の目標として掲げたものの達成できなかった主要汚染物質(二酸化硫黄と化学的酸素要求量)の排出総量削減を重点中の重点とし、2005年比10%削減の確保を強調した。

第12次5ヵ年計画期間(2011-2015年)では、最上位の第12次5ヵ年計画(2011-2015年)において、気候変動対応を強調したのが新たな特徴である。引き続き主要汚染物質の排出総量削減目標および森林被覆率増加の目標を拘束性目標として掲げるとともに、新たに気候変動対応に係る拘束性目標として、単位GDP 当たりの二酸化炭素排出低下率(5年間の累計で17%低下させる)を定めた。また、計画本文中で「第21章 地球気候変動に積極的に対応」の一章を起こした。また、2011年12月に「国家環境保護第12次5ヵ年計画」が制定され、国務院の名前で通知されるが、この計画の中には気候変動対応に係る記述はない。この当時は気候変動対応は国家発展改革委員会が所掌していたので、別の枠組みで扱っていた。

4.第13次~第14次5ヵ年計画期間(2016-2025)

最上位の第13次5ヵ年計画(2016-2020年)ではこれまでにも増して環境保護を重視し、拘束性目標も増加させた。これまでの3項目の目標に加えて、新たに大気質および水質に係る拘束性目標を追加した。特に大気質の目標については、2013年以降顕在化した微小粒子状物質(PM2.5)を主因とする激甚な大気汚染対策として「PM2.5がまだ基準に達していない地区級以上都市のPM2.5濃度を18%低下させる」ことを定めた。そして、2016年11月に「第13次5ヵ年生態環境保護計画」が制定され、国務院から通知された(注:「生態環境」という言葉は、この計画から従来の「環境」に代えて用いられるようになった)。

第14次5ヵ年計画期間(2021-2025年)には、最上位の5ヵ年計画は「国民経済と社会発展第14次5ヵ年計画と2035年長期目標」として、全人代での審議を経て決定された。生態環境分野の拘束性目標は若干整理され、重要な主要指標として表中に掲げられたものは4項目(単位GDP 当たりの二酸化炭素排出量の低下、大気質、水質および森林被覆率に係る目標)に減り、主要汚染物質排出総量削減の目標は本文中でのみ対象物質と削減割合が記述されるようになった。ほぼ100%環境基準を達成している二酸化硫黄は対象物質から外れた。

一方、第14次5ヵ年計画期間中これまでのような総合的な生態環境保護5ヵ年計画は公表されてなく、第14次5ヵ年生態環境モニタリング計画、第14次5ヵ年土壌、地下水および農村生態環境保護計画など専門領域別の5ヵ年計画が発表されているだけである。制定あるいは公表しない理由については定かではない。

以上簡単ではあるが、過去の5ヵ年計画をレビューしてみた。古い時代の5ヵ年計画に関する資料については原文を見ることができないものもあり、生態環境部環境規画院の報告「国家生態環境保護計画の発展の歴史と展望」を参考にした。

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