環境条約シリーズ 395世界無形文化遺産に登録 日本の伝統的酒造り
2025年02月14日グローバルネット2025年2月号
前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)
無形文化遺産保護条約の第19回政府間委員会(本誌09年12月、19年3月、21年2月)が24年12月2~7日にアスンシオン(パラグアイ)で開かれた。本会合では、ハンガリー:伝統的なチャールダーシュ踊り、トルコ・北マケドニア:伝統的バグパイプの製作・演奏、パレスチナ:ナブルスせっけんの製法、中央アジア南アジア諸国・ミャンマー・中国・モンゴルなど:新年祭事、アルジェリア:女性の儀式用衣装、ガーナ:伝統的な織物、タイ:トムヤムクン、中国:木造アーチ橋の伝統的建造技術、韓国:醬の製法・慣習、日本:伝統的酒造り、ブラジル:ミナスチーズの製法など61件が代表的一覧表に、ボツワナ:ウォサナ雨乞い儀式など2件が緊急保護一覧表に、ウクライナ:伝統楽器(コブザとハーディガーディ)の保護など3件が優良保護活動一覧表に登録された。登録総数は150ヵ国788件、日本からは23件となった。
日本の伝統的酒造りとは、酒蔵の職人(杜氏・蔵人)による麹菌を使った手作業の酒造技術を指す。蒸した米や麦に麹菌を付着・培養して麹を作り、醪(米などの主原料+麹+酒母(増殖させた酵母)+水)を発酵させる。それは「並行複発酵」という世界でも珍しい酒造技術であり、主原料に含まれる澱粉を麹菌が糖に変える過程とその糖を酵母がアルコールに変える過程が同時に進む。その技術の原型は500年以上前の室町時代に成立した。その後、各地に拡がり地元の気候風土に合わせて発展し、日本酒、焼酎、泡盛、みりんなどの製造を通して受け継がれてきた。
本会合に先立って開かれた政府間委員会の下の「評価機関」において、日本の伝統的酒造りについて、神々からの聖なる贈り物とされる酒は、祭りや婚礼、通過儀礼、社会・文化的な場で不可欠であり日本文化に深く根差していると評価されていた。しかし、そのような祭事も麹の利用も現代の生活では必ずしも身近ではないため、他の無形文化遺産と同様に、伝統を現代に適応発展させ価値を見出して次世代に受け継ぐための努力と支援が欠かせない。