《第1回》牛肉・大豆と森林減少との関係:私たちの食べているものがアマゾンの森林を破壊している?

英国とEUでは、森林減少に由来する農作物コモディティの規制法が誕生。アメリカでも追随する動きが・・・。

  1. 企業のESG対策 森林減少ゼロ
    ESG課題の一つとして注目される「森林減少」。 2021年11月、EUが森林減少に由来するコモディティの禁止法を発表。
  2. リスク管理のデューデリジェンス
    「森林減少ゼロ」を表明する国際企業の多くが、デューデリジェンス(リスクを特定・評価・緩和するプロセス)を導入。
  3. 森林リスクの高い農作物コモディティ
    森林減少の要因の約80%は、農作物コモディティ生産のための農地への転換だと言われている。
  4. 牛と大豆~森林減少以外のリスク
    アマゾン地域で生産される畜牛・皮革と大豆は、森林減少・GHG (地球温暖化ガス)の大きな原因。

企業のESG対策、「ゼロ・デフォレステーション(森林減少ゼロ)」

気候変動と生物多様性、さらには熱帯林地域の人権問題や貧困などに深く関わる持続可能な森林管理。その重要性は1960年代頃からすでに指摘されていたものの、特に貴重な天然林の森林減少・劣化は加速化する一方です。

そんな中、企業が対応すべきとされるESG(環境・社会・ガバナンス)の課題の一つとして再び森林減少が注目を浴びています。その重要性を象徴するのが、昨年2021年11月の気候変動枠組条約のCOP26の直後、EUが発表した森林減少に由来するコモディティの禁止法です。この動きは2010年に成立したEUの違法木材の禁止法(EU木材規制)に続くもので、今や森林減少の要因が木材収穫だけでなく農作物にあることを示しています。

実は2010年頃から多くの国際企業はすでに「森林減少ゼロ」という国連の森林に関するニューヨーク宣言(以下、「NY宣言」)やその他のイニシアティブに参加をしています。つまり、自社のサプライチェーン中の森林減少や劣化のリスクを排除するコミットメントを表明する企業が増えています。NY宣言にコミットしている企業の多くはコンシューマー・グッズ・フォーラムという企業のフォーラムの会員で、森林リスクはビジネスリスクであると位置づけられていると言えます。

リスク管理の「デューデリジェンス」

さらにそうした企業の多くは、自社のサプライチェーン中の森林リスクを管理するためのデューデリジェンス(リスクを特定・評価・緩和するプロセス)を導入しています。デューデリジェンスは当初、木材のサプライチェーン管理として現在は日本にも2017年に制定が開始されたクリーンウッド法のもと導入されているプロセスです。現在企業に起こりつつあるのは、それが木材以外のコモディティへも適用される動きです。

森林の危機を加速化させる農地への転換

では実際に、サプライチェーン中に森林リスクを抱える企業には、どんな企業があるでしょうか?CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)は、日本でも多くの企業が格付けの対象となっている、いわゆるESG格付けを行う組織の一つです。このCDPでは2013年からCDPフォレストという森林リスクに特化した格付けが始まりました。業種別に見ると、評価の対象となっているのは、小売、製造、素材と並んで「食品・飲料・農業関係」が多くなっています(※1)。農作物には森林リスクがあるということです。

森林リスクの高い農作物コモディティ

Xico Putini / Shutterstock

現在の森林減少・劣化の最大の要因は、森林の農地への転換です。減少している森林の90%は熱帯林ですが、森林減少の要因の約80%は、農作物コモディティ生産のための農地への転換であるという推定があります(※2)。熱帯地域で生産される、畜牛(皮革)、大豆、木材、パーム油は4大森林リスクコモディティとして多くのリスク評価ツールで評価の対象となっています。さらに、前述のEUのコモディティ規制法では、コーヒーとカカオが加えられています。

牛と大豆:森林減少以外のリスク

Paralaxis / Shutterstock

これらのコモディティのうち、企業による対応が最も遅れ、さらに森林減少・劣化のレベルが心配されているのが、アマゾン地域で生産される畜牛・皮革と大豆です。アマゾンで生産される大豆の大部分は(90%以上という推定もあります)家畜の飼料となります。つまり、食肉や皮革というコモディティには、目に見えるより向こう側にさらに広範囲の森林リスクが広がっているということです。

さらに、食肉・皮革のリスクは、森林減少だけではありません。森林減少は気候変動とも密接に繋がっていますので、飼料にする作物を育てるために伐採された森林やその土壌からGHG(地球温暖化ガス)が排出されます。また、非直接的な排出も含め家畜の排出するGHGは、人間活動によって排出されるGHGの14.5%になると推定されています(※3)。こうした背景から、世界的に食肉の消費レベルを減らしていこうとする動きはすでに代替肉やプラント・ベースの食品の増加に現れています。

食肉・皮革の「アニマル・ウェルフェア」のリスク

前回の記事ですでに述べた通り、食品企業が原材料として調達する畜産物に関するアニマル・ウェルフェアに注目する「畜産動物のアニマル・ウェルフェアに関するビジネス・ベンチマーク(BBFAW;Business Benchmark on Farm Animal Welfare)」(※4)は、2012年から毎年、世界の食品関連企業を評価しています。世界的にはすでに、アニマル・ウェルフェアは企業のサプライチェーン・リスクとして評価の対象となっています。

アニマル・ウェルフェアは日本ではまだ馴染みが浅い概念ですが、ウェルフェアは「福祉」という日本語訳が付けられます。アニマル・ウェルフェアは簡単に言うと動物の幸せを確保する、ということになり、「最終的には人間の食用となる動物の幸せをどう確保するというのか?」という問いも当然出てきますが、ビジネスリスクの文脈では、家畜の飼育方法の具体的なスタンダードが守られていないことが、リスクと捉えられます。さらに、新型コロナウイルスは感染源が未だに明確に特定されていませんが、鳥インフルエンザなど人間にも感染するウィルスがあります。アニマル・ウェルフェアの考慮されない劣悪な飼育環境では病気が発生・蔓延しやすくなりますが、今後、そうした側面からもアニマル・ウェルフェアを考えていくことになるかもしれません。

このように、食肉・皮革には環境(森林)・社会(人権)の他に、アニマル・ウェルフェアという新たなリスクも潜んでおり、森林減少や気候変動と平行してますます重要視されてくることが予想されます。

まとめ

世界の森林保全という視点から、森林減少ゼロへのコミットメントを表明する企業は日本国内でも増えてきています。さらに、実際にサプライチェーン中の森林リスクを管理するために、調達方針やプロセスの中に、デューデリジェンスの考えを組み込むケースも多くなっています。ただ、NY宣言では5年間の振り返りをした報告書で、コミットメントの中身が伴わないケースも多いとしており、森林減少は実質上43%悪化しているとしています(※5)。

そこで出てきたのが、前述のEUによる森林減少に由来する農作物コモディティの規制法で、イギリスでも同様の規制法がすでに誕生しています。アメリカでもこれに追随する動きがあり、日本での法制化は別として、ビジネスの場面では、農作物コモディティの森林リスクはESGリスクとして今後ますます重要性を増してくると考えられます。

(第1回おわり)

(※1) CDPフォレスト2020年日本版報告書(https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/004/412/original/2020_Forests_Japan_report_JP_Yuhei%E6%9C%80%E7%B5%82%E7%89%88.pdf)

(※2) https://ourworldindata.org/drivers-of-deforestation

(※3) https://www.fao.org/news/story/en/item/197623/icode/

(※4) https://www.bbfaw.com/media/2126/bbfaw-report-2021_final.pdf

(※5) https://forestdeclaration.org/resources/protecting-and-restoring-forests-2019-nydf-executive-summary/

作成日:2022年10月03日 11時00分
更新日:2022年10月31日 15時43分