森林減少ゼロとアニマル・ウェルフェア~サプライチェーンのESGリスク

本プロジェクトでは、森林関連コモディティや畜産動物におけるアニマル・ウェルフェアについて海外の最新情報を提供していきます。

  1. 拡大する企業の役割
    2015年のSDGsやパリ協定をきっかけに、ESG課題が種類・範囲共に拡大
  2. サプライチェーンに潜む新たなESG課題、アニマル・ウェルフェア
    気候変動、食品ロス、脱プラスチック、森林減少の抑制、人権尊重と並ぶESG課題の一つ
  3. アニマル・ウェルフェアへの対応で低い日本企業への評価
    「畜産動物のアニマル・ウェルフェアに関するビジネス・ベンチマーク(BBFAW)」では最低評価の日本企業
  4. 森林コモディティとアニマル・ウェルフェア
    欧米では、森林リスクコモディティを取り扱う企業にデューデリジェンスを義務付け。アニマルウェルフェアは?

拡大する企業の役割

グローバル化が進む世界で気候変動や経済格差、ジェンダーなど、さまざまなサステナビリティ分野の課題が顕在化する中、その解決に向けて企業に求められる役割が大きくなっています。従来から、自社の事業活動が環境や社会にどんな影響を及ぼしているのか、企業が把握し、情報開示することは求められていました。2015年のSDGs(国連持続可能な開発目標)やパリ協定の合意をきっかけに、企業が対応すべきとされるESG(環境・社会・ガバナンス)の課題はその種類が増えるだけでなく、範囲もバリューチェーン全体に広がり、期待される役割も大きくなっています。

サプライチェーンに潜む新たなESG課題、アニマル・ウェルフェア

Emel Arımana / Pixabay

食品業界を例に見てみましょう。農水省が公表した報告書では、食品業界との関連が強く特徴的なESG課題として、気候変動、食品ロス、脱プラスチック(容器包装)、森林減少の抑制などの生物多様性問題、人権尊重と並んで、「アニマル・ウェルフェア」という言葉が挙げられています。一般に「動物福祉」という日本語が充てられていますが、簡単に言えば動物にとっての「幸せ」を指します。さらに、同報告書は、原材料が多岐にわたり、サプライチェーンが長い食品産業にとっては、「責任あるサプライチェーンの構築」に関わる課題が近年大きくなっていると指摘し、アニマル・ウェルフェアをサプライチェーンに潜む新たなESG課題の一つと位置づけています。

アニマル・ウェルフェアへの対応で低い日本企業への評価

食品企業が原材料として調達する畜産物のアニマル・ウェルフェアに注目する「畜産動物のアニマル・ウェルフェアに関するビジネス・ベンチマーク(BBFAW;Business Benchmark on Farm Animal Welfare)」は、2012年から毎年、世界の食品関連企業を評価しています。最新の2021年版では、小売・卸、製造、飲食の3つの食品業界セクターから規模の大きな企業150社が評価され、日本企業で対象となっている5社(イオン、マルハニチロ、明治ホールディングス、日本ハム、セブン&アイ・ホールディングス)は、いずれも残念ながら6段階で最低の評価を受けています。これらの日本企業は気候変動や水分野でのESG評価で高い評価を受けている(イオンはCDP気候変動でAリスト、明治はCDP水でAリスト)ことから、BBFAWでの評価が芳しくない背景には、日本社会全体におけるアニマル・ウェルフェアに対する関心の低さがあると考えられます。

欧州で顕著に見られる食肉や乳製品、皮革などにおけるリスク意識の高まりは、他のESG課題とも相互に関連しています。例えば、欧州グリーンディールの一環として出された「農場から食卓へ戦略(Farm to Fork Strategy)」では、アニマル・ウェルフェアが優先課題として組み込まれており、新型コロナ感染症の世界的拡大の背景との関連も指摘されています。

アニマル・ウェルフェアは、食品やファッション業界などの関連業界にいる日本企業が、自らが想定しているよりもずっと早く対応しなくてはならないESGリスクといえるでしょう。サプライチェーン中に動物製品を含むすべての企業にとって、今後は対応を考えておかなくてはならない課題です。

森林コモディティとアニマル・ウェルフェア:サプライチェーンのESGリスク

地球・人間環境フォーラムでは、世界の森林保全という視点から、日本における木材やパーム油の消費のあり方を変えるためのさまざまな調査・提言活動を10年以上にわたって行ってきました。具体的には、木材やパーム油を原材料として調達する企業に、持続可能な調達方針の策定や運用、そのプロセスの情報開示、そしてこれらの事業活動を後押しする政策導入を政府等に求めるというものです。

日本国内でも森林関連製品について責任あるサプライチェーン管理に取り組む企業が増えてきているものの、あくまでも任意の取り組みにとどまっています。一方、欧米では、森林破壊につながるコモディティを取り扱う企業にデューデリジェンスを義務付ける規制の導入が決まっています。

本プロジェクトでは、私たちが従来から取り組んでいる森林関連コモディティをめぐる海外の最新動向を紹介し、さらに畜産動物におけるアニマル・ウェルフェアにも触れます。サプライチェーン上にあるESGリスクとして、日本企業が何に取り組んでいくことが求められているのかという視点で情報提供をしていく予定です。

Yuki Sakamoto/ GEF

作成日:2022年09月20日 14時00分
更新日:2022年09月27日 17時02分