《第6回》アニマル・ウェルフェアとは何か? なぜ企業にとって「リスク」となってきているのか?

アニマル・ウェルフェアの基礎には「5つの自由」という概念があり、欧米各国の政策や国際ガイドラインに反映されています。

  1. アニマル・ウェルフェアの発祥と畜産動物
    アニマル・ウェルフェアは、もともとは哲学や倫理の分野で発達してた概念。畜産動物のアニマル・ウェルフェアは、1960年代の英国政府の取り組みがルーツ。
  2. 動物に関する「5つの自由」とその課題
    アニマル・ウェルフェアの考え方の基礎になる「5つの自由」は、欧米各国の政策や国際獣疫事務局(OIE)、国際金融公社(IFC)等の国際ガイドラインに反映されている。
  3. 「日本に合わない?」
    日本では従来、獣医学の分野での考えにとどまってた畜産動物のアニマル・ウェルフェア。投資家にとっては、確実にESGリスクとして認知されつつある。

日本ではESGリスクと認識されていないアニマル・ウェルフェア

「アニマル・ウェルフェア」は、日本では一般に「動物福祉」という訳が充てられている、もともとはヨーロッパ発祥の考えです。ここまで見てきた通り、日本企業のアニマル・ウェルフェア対応は、まだそれをリスクと認識する前の段階と言えます。

気候変動や森林リスクではESG格付けなどで比較的高いランクに入っている企業でも、アニマル・ウェルフェアに関する評価が低いことの背景には、この概念そのものへの理解がもともと浅いことが挙げられるでしょう。

ただしすでに東京オリンピックをきっかけとして生産地やサプライチェーン上の課題に目を向ける動きが広がったように、グローバル経済の下では違法木材や森林減少ゼロと同様に、アニマル・ウェルフェアへの対応も日本でも始まっていくのではないかと考えられます。

アニマル・ウェルフェアの発祥と畜産動物

そもそもアニマル・ウェルフェアとは何かを紹介します。もともとは、哲学や倫理の分野でこの概念は発達してきました。古代ギリシャ時代の哲学者たちの自然観までさかのぼれるとされ、ヨーロッパの宗教・文化的な素地があります。

「動物は機械である」という哲学者デカルトの言葉に代表されるように、17世紀に最高潮に達した「人間の自然・動物支配」の歴史への反動として盛んになりました。そして19世紀のイギリスで世界発のアニマル・ウェルフェアの法律(牛の虐待禁止)が生まれました。

現代のアニマル・ウェルフェア、特に畜産動物のアニマル・ウェルフェアは一般的に、1960年代に出版された『アニマル・マシーン』(※1)という本が、畜産動物の劣悪な飼育状態について警鐘を鳴らしたことがきっかけとなり、英国政府が専門委員会を設けたことがルーツとされています。

この委員会から出てきた「5つの自由」という概念がありますが、これが現代の畜産動物のアニマル・ウェルフェアの基本的な考え方のベースになり、さまざまな政策や国際ガイドラインに反映されています。

動物に関する「5つの自由」とその課題

日本語訳もさまざまですが、「5つの自由」は一般的に、動物が以下の「自由」を確保されていることを指します。

  1. 飢えと渇きからの自由
  2. 不快からの自由
  3. 痛み・傷害・病気からの自由
  4. 恐怖や抑圧からの自由
  5. 正常な行動を表現する自由

この5つの自由は、畜産動物だけでなく、実験動物、愛玩動物、展示動物といった人間の飼育下にあるすべての動物に当てはめられ、さまざまな場で採用されています。畜産動物に関しては、欧米を中心とした各国の法政策の他、国際獣疫事務局(OIE)、国際金融公社(IFC)のガイドラインなど、国際ツールにも反映されています(※2)

5つの自由のうち、1~3までについては、(それに反対する、あるいは疑問を投げかける)議論は「ほとんどない」とされますが(※3)、4と5については、それに比較すると広く受け入れられていない傾向があります。

理由として、一つには「定義が難しい」ことが挙げられており(※4)、ここにアニマル・ウェルフェアの概念を実践に落とし込んでいく際の課題が存在しています。例えば、養鶏にとっての「正常な行動」と、養豚にとっての「正常な行動」は、種が違っているため生物学的に異なり、それぞれに異なる基準が必要です。

「日本に合わない?」

畜産動物のアニマル・ウェルフェアは、もともと日本では獣医学の分野での考えにとどまってきました。オリンピックを機にケージフリーの卵が多少は浸透してきたものの、現在でもまだまだ限定的です。ヨーロッパの宗教観や文化が素地となっていることからも、日本には合わないという声も存在しています。

mjheritage / Shutterstock

日本に合うか、合わないか? 日本風のアニマル・ウェルフェアが誕生するのか?未知な要素があるとは言え、アニマル・ウェルフェアは投資家にとって確実にESGリスクとして認知されつつあります。

そして気候変動、森林減少、生物多様性の損失といった地球環境リスクや、衛生、食の安全性、栄養面でのリスクとも連動しています。動物にとって5つの自由が確保されない過剰・過密飼育は、結果的に環境リスク、衛生リスクの悪化に繋がることがあるからです。

(※1)正式な和訳のタイトルは『アニマル・マシーン–近代畜産にみる悲劇の主役たち』。著者はルース・ハリソン、1964年出版。

(※2) International Financial Corporation “Good Practice Note: Improving Animal Welfare in Livestock Operations”(December 2014) (https://www.ifc.org/wps/wcm/connect/c39e4771-d5ae-441a-9942-dfa4add8b679/IFC+Good+Practice+Note+Animal+Welfare+2014.pdf?MOD=AJPERES&CVID=kGxNx5m)

(※3)(※4)Yvonne Vizzier Thaxton and F. Dustan Clark (University of Arkansas System, Division of Agriculture, Research & Extension), “Animal Welfare Basics” (https://www.uaex.uada.edu/publications/PDF/FSA-8014.pdf)

作成日:2022年11月16日 12時21分