環境条約シリーズ 312北極海油濁事故対策協力協定

2018年03月30日グローバルネット2018年3月号

前・上智大学教授 磯崎 博司

北極海の夏期の氷結域は地球温暖化に伴って縮小してきており、航行ルートの開発や海底鉱物資源の開発が進められている。それに対して、人間活動に伴う海洋汚染に懸念が示されるとともに、北極海は陸地に囲まれているため、汚染物質が滞留して深刻な被害が起きやすいことも指摘されている。

その懸念のうち、北極海の航行に関しては、国際規則が整備されてきている(本誌2015年12月)。他方、油濁事故については、油濁事故対策協力条約(本誌1993年4月)が定められており、その下では、二国間または地域間の協力体制が奨励されている。それに応えて、北極海に面している8ヵ国、すなわち、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、アメリカから成る北極評議会において、2013年に北極海油濁事故対策協力協定が作成・署名された。

この協定は、締約国の主権、主権的権利もしくは管轄権が及ぶ海域(内水、領海、排他的経済水域および大陸棚を含む)のうち、北極海に位置する海域を対象範囲としており、そこにおいて生じたかまたはそこに脅威をもたらすような油濁事故に対して適用される。なお、上記の北極海に位置する海域を明示するために、締約国ごとに地理的南限が定められている。

その下で、油濁事故の特定のための監視活動、共同訓練のための協力、効果的な実施に関する情報交換、資材・物品・人員の速やかな国際移動のための国内措置の策定、油濁事故の際の相互援助、取られた活動に対する共同評価などが締約国に対して義務付けられている。援助に要した費用については、個別に合意される場合を除いて、要請により援助が行われた場合は要請国が支払い、要請なしに援助が行われた場合は援助国が支払うものとされている。

この協定の効果的な実施を支援するため、附属書には、非拘束的な運用指針、また、国ごとの権限ある当局・連絡先に関する情報などが記されている。この協定は、8ヵ国すべての批准の後30日で発効する。

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