フォーラム随想数独に凝っている

2018年03月30日グローバルネット2018年3月号

日本エッセイスト・クラブ常務理事
森脇 逸男

このところ、数独に凝っている。数独は、ご存じない方はもう少ないと思うが、縦9列、横9列の正方形の中を、3列×3列の太線で囲まれた正方形(ブロック)に区分し、そのそれぞれのブロックに1から9までの数字を入れるパズルだ。そうして、縦横の各列と太線で囲まれたブロックのそれぞれに同じ数字が複数入っていてはいけないという、極めて厳しく面倒なルールがある。

数独という名称は「数字は独身に限る」(つまり同じ数字を同じ列、同じブロックにダブらせない)という、しゃれた文句の略語だということで、欧米諸国での名称「ナンバープレース」を略してナンプレともいう。とにかく、同じ数字が縦横の列、同じブロックにあってはならないので、結構解くのに時間がかかるパズルだ。

実は、数年前に亡くなった荊妻が、どういう訳か、この数独の大ファンだった。例題が掲載されている新聞や雑誌(割に多い)が来ると、大喜びで鉛筆片手に首をひねっていた。しかし、小生は文系で、もともと数字は苦手だ。あまり相手にしたくない。したがって、そんな彼女の行動を、言ってみれば、珍奇な動物の姿(失礼)を見るように眺めていたものだ。

ところが最近、ちょっと暇だったので、何の気無しに新聞の数独に挑戦してみた。これも初心者用と、ベテラン(?)用に、まったく簡単なものからいろいろ考えさせるものまでがあり、同じ数字を同じブロック、同じ列に入れなければいいのだが、うっかりしていると、最後に残るブランクの升に、どうしても同じ数字が入ってしまうことになったりして、なかなか解決に至らない。そのうちにこれは面白いと、仕事そっちのけで数独を楽しむようになってしまった。時々電車に乗っていると、鉛筆片手に数独の本に没頭している方を見かける。ああ同志だと親近感を抱いてしまう。

そうして調べてみると、この数独は、つい最近始まったパズルだと思っていたらそうでもなく、結構歴史は古く、フランスの日刊紙が1892年に似たようなパズルを掲載していたという。ただし、現在の数独の形が採用されたのは、1979年のニューヨークの出版社の出版からで、以来、世界で流行。知らなかったが、2006年からは世界選手権大会も開催されているとのことだ。

さて、私が数独ファンになったのは、なかなか面白いということ以外に、実はもう一つ理由がある。つまり、数独でああでもない、こうでもないと考えることが、認知症の予防になるのではないかという、いささかはかない期待だ。

あまり人には言いたくないが、このところやはり、そろそろ認知ではないかという自覚症状がある。何しろ今見たこと、聞いたことをすぐ忘れてしまうし、いろいろなこと、ことに人名がすぐには出てこない。この間は地下鉄に乗って、ちょっと普段は利用しない路線だったため、どう行けば、目的地に着けるかをしばらく考え込んでしまった。一昔前にはあり得なかった症状だ。

認知症について調べてみると、認知症になるのを防ぐには、例えば、野菜や果物、魚をよく食べる、週3日以上の有酸素運動をする、人と付き合う、文章を書く・読む、ゲームをする、博物館に行く、起床後2時間以内に太陽の光を浴びる、などの生活習慣が大切だという。インド人に認知症が少ないのは、カレーを食べる習慣のためだという説もあるので、真偽のほどはともかく、以来、コンビニでカレールーを買って来て時々食べるなど、それぞれ少しずつは実行しているのだが、その一つがこの数独というわけだ。

この原稿を書く前も、締め切りが迫っているのに、届いた新聞にある数独につい目が行き、取り組んでしまった。まあ皆さん、もし数独をしたことがないという方がいらっしゃったら、だまされたと思って挑戦してみませんか。なかなか面白いですよ。

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