2020東京大会とサステナビリティ~ロンドン、リオを越えて第7回 SUSPONシンポジウム ボランティアがつくる持続可能な未来

2018年03月30日グローバルネット2018年3月号

東京2020大会の持続可能性の実現に貢献しようと集まったNGO/NPOのネットワークSUSPON(持続可能なスポーツイベントを実現するNGO/NPOネットワーク、事務局は当フォーラム)が、第2回シンポジウム「ボランティアがつくる持続可能な未来」を東京と京都の2ヵ所で開催しました(助成:平成29年度独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金)。 SUSPONでは2017年度にボランティア部会を立ち上げ、ガイド『持続可能な未来をつくるボランティアのためのガイド~ボランティアを受け入れる全ての団体のみなさんへ』を作成しました。シンポジウムでは、ガイドの執筆を担当したSusVoメンバーから、日本各地でイベント環境ボランティアのコーディネートに長年携わってきた経験に基づきボランティア活動の基礎となる考え方を提案し、組織委員会、東京都などの大会関係者の皆さんと、東京2020大会を持続可能な未来をつくる学びの場とするための、ボランティアスタンダードについて議論しました。パネルディスカッションを再構成して掲載します。 (グローバルネット編集部) (2018年2月20日、東京・芝浦にて)

モデレータ

  • 羽仁 カンタさん SUSPON 代表、NPO iPledge 代表

パネリスト

  • 荒田 有紀さん 東京オリンピック・パラリンピック競技大会 組織委員会持続可能性部部長
  • 下出 享克さん 東京都オリンピック・パラリンピック準備局 総合調整部運営担当課長
  • 高橋 侑奈さん ボランティア代表(NPO iPledge)
  • 太田 航平さん SusVo メンバー、NPO 地域環境デザイン研究所ecotone 代表理事
  • 草野 竹史さん SusVo メンバー、NPO 法人ezorock 代表理事

東京2020大会のボランティアと持続可能性

下出 東京大会におけるボランティアには二つの区分があります。組織委員会が募集する大会ボランティアは、大会関係施設の中で観客サービス、競技運営サービス、メディアのサポートなど、大会を支える活動を行います。もう一つは、東京都が募集する都市ボランティアです。空港、駅、観光地における国内外からの旅行者に対する観光・交通案内、競技会場の最寄り駅における観客への案内、ライブサイトや運営のサポートを行います。大会ボランティアは8万人、東京都の都市ボランティアが3万人、合わせて11万人の方々に活躍していただく予定です。なお、都市ボランティアは都外の開催自治体においても設置に向けた検討を行っています。

2016年12月、東京都と組織委員会で募集・育成・運営等に関する基本的な考え方をまとめたボランティア戦略を策定しました。年齢・性別・障害の有無などにかかわらず、多様な方々にボランティアに応募してもらいたいと考えています。また、多目的トイレに近い所での活動、介助者とペアで活動など、障害者がボランティアとして活動しやすい環境整備に努めます。

応募条件として、2020年4月1日時点で満18歳以上を想定していることから、中高生はボランティアに応募はできないのですが、教育の一環として都内の中高生に都市ボランティアの活動体験をしていただく方向で検討しています。また、働く世代の参加促進のために、都ではボランティア休暇制度を整備した企業に対する奨励金を出す事業も行っています。また、「大会のレガシー」として、大会に参加したボランティアが引き続きいろいろなボランティア活動に参加してもらえるよう情報提供や活動機会のマッチングの仕組みを検討していきたいと考えています。

荒田 私は組織委員会持続可能性部に昨年8月に加わりました。12月に持続可能性部は総務局の中に移管しました。持続可能性という分野の取り組みは、一局・一部門だけでなくて、組織全体としても取り組んでいこうという位置付けになったと考えています。

持続可能性部では、大会をいかに持続可能性に配慮したものにするかということで、方針となる「持続可能性に配慮した運営計画」を取りまとめています。昨年1月に第1版を公表し、現在第2版の作成に向けてより詳細に、具体的につくっているところです。

計画には五つの柱があります。①気候変動②資源管理③大気・水・緑・生物多様性などの環境面だけではなくて、④人権労働・公正な事業慣行にも取り組んでいきます。4番目までの各分野の取り組みを支えるものとして、⑤参加協働、情報発信という仕組みが大事です。参加協働の取り組みの一つである、参画プログラムは、多くの国民が大会関連イベントに参加できるようにする仕組みで、持続可能性の分野だけではなく、スポーツ、健康、街づくり、文化など八つあります。今日のシンポジウムは参画プログラムの一つの応援プログラムで、自治体や非営利団体が実施するものです。今日のテーマであるボランティアも参画協働と情報発信の取り組みの一つと考えています。持続可能性というのは、誰か1人の取り組みだけでなく、皆で取り組まないと解決していかないと思います。

イベントの環境対策で人材育成

草野 私たちNPO法人ezorockでは、北海道の最大級の野外ロックフェスティバル、2日間で7万人が来場する「ライジングサンロックフェスティバル」でごみの対策を18年ほど続けています。北海道各地の環境活動や地域課題に若者が参加する仕組みをつくり、年間2,500人ほど、社会を変える次世代の担い手を送り出すことをやっています。

太田 京都は1997年にCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)を開催し、今のパリ協定につながる、京都議定書ができた町。環境先進都市として、環境を落とし込んだまちづくりを進め、さらにまちづくりへの市民参加率も高い。その仕組みは、環境に関心を持つ多くの市民団体もともにつくってきました。

ガイドにも紹介しているのですが、他の2団体と同じように、祇園祭などのお祭りやイベントの環境対策を通じた人材育成を20年ほどやっています。オリンピックは、商品サービスをプロモーションするイベントという側面と、神事である祭りという両方の側面を兼ね備えている。私が聞いた中で一番しっくりくる祭りの語源の一つに、人と人との「間をつる」という説があります。祭りをつくる過程では、各自が力を持ち寄って神様を祭っていく。つまり、地域や社会の課題に対して自分はこれをするという主体性が生み出される。東京大会をただ見るだけではなく、自分事としてどうやったら成功できるかを自分で考えることが学びにも、次の日本を引っ張っていくリーダーづくりにつながる。その前提には持続可能性の視点を持ったプログラムをつくるかということが重要だと思います。参加をしながらみんなでつくっていくということが、私たちの今までの活動の中から見えてきたことです。

高橋 ボランティアは、大学1年生、18歳の頃から3年やっています。大学の授業で、ボランティアの皆さんが楽しそうに活動しているNPO iPledgeの紹介映像を見て、入りました。普段は野外音楽フェスやフードフェスなどで、ごみ箱の後ろに立って分別を促して、来場者と一緒に参加型の仕組みをつくるというボランティアのコーディネートを行っています。

羽仁 東京大会には多様なボランティアが参加すると聞いています。運営側からボランティアへの期待と受け入れる側の工夫という点についてお願いします。

下出 現時点の応募条件案として「東京2020大会の成功に向けて、情熱を持って最後まで役割を全うできる方」、「お互いを思いやる心を持ちチームとして活動したい方」を掲げています。

国の調査で、ボランティア活動に参加を妨げる理由として情報がないことや、参加する手続きがわかりにくいということから、東京ボランティアナビというWEBサイトでボランティアの情報発信をしています。

研修は基礎知識を身に付けていく場である一方、ボランティア同士が交流して仲間意識、一体感を醸成するという機会にもなると思います。また、SNSの活用などでボランティア同士が交流できるような仕組みも検討したいと思います。

持続可能な未来をつくるボランティアのガイド
~ボランティアを受け入れるすべての団体の皆さんへ

11 万人というボランティアが活動する東京2020 大会をきっかけに、環境や人権などの地球規模の課題解決できる人が増やし、持続可能な社会をつくることにつなげたいという思いをまとめたガイドです。SUSPON のウェブサイトからダウンロードできます。
(目次)
東京2020 大会をきっかけに/なぜ持続可能性が大切なのか/持続可能な未来をつくるボランティアとは?/受け入れ側のCheck Point ! ボランティアを受け入れる側の心がけ/ボランティア受け入れ側の声(座談会)「ボランティア活動が社会を変えるきっかけに」/参加側のCheck Point ! ボランティアに参加する側の心がけ/ボランティア参加者の声「活動をとおして見えてくること・感じること」/ボランティアがつくる持続可能な未来(二宮雅也さん)/ボランティア活動に関する主な団体・情報源リスト

 

ボランティアの動機は百人百様

羽仁 現在ちょうど韓国で開催されている平昌冬季大会で2,000人のボランティアが辞退するというニュースがありました。ボランティアが泊まる宿舎は水しか出ない、極寒の場所でバスを長時間待たされたりした。ボランティアが気持ちよく自主性を持って活動するためには、最低限のインフラは必要ではないでしょうか。

草野 寝る所、食べ物などへの最低限な配慮というのは大事だと思っています。私たちの団体で使っているキーワードは「い・しょく・じゅう」。着る衣服ではなく、移動の「い」です。現地までの交通手段と滞在する場所と食事を、本人が用意するのか、受け入れ側が調整するのかについて、段取りがしっかりできているかどうかで、ボランティアのモチベーションが違ってくるので、大事にしています。

ボランティアは100人いれば100通りの動機があります。これはアルバイトと一番違うところだと思うんです。アルバイトは基本的にお金を稼ぐという動機で誰もが同じですが、ボランティアが参加する動機は似ているようでバラバラです。そのことをしっかりくみ取る力が運営側に求められます。一人ひとりの思いを大事にするということは気を付けておくことですね。

太田 ボランティアを単なる労働力とみなさずに、競技者やスタッフ、そしてボランティアを含めて、一緒に大会をつくっている仲間、みんながいなければ大会が成り立たないと考えれば、ボランティアへのケアについても事前にシミュレーションできます。イベントは天候などいろいろな要素に左右されるので、フタを開けてみないとわからないことが多い。どう失敗を克服したかなどこれまでの事例をかき集めて、何ができるかを想定するシミュレーションには、ボランティアコーディネートで経験を持っている人を巻き込むことが重要です。また、さまざまな動機を持って参加する多様な人をコーディネートするということを、私たちはすでに市民活動の中で長くやってきています。

ボランティアの自主性を引き出すには

高橋 ボランティアだからこそ自主性を純粋に求めていられる。お金を目的としていないからこそ、自主性で動いているということが大事だなと思っています。自主性がなければ、無償の労働力になってしまって、やりがいや達成感が感じられない。自主性を引き出すためにも、コーディネートする側も活動の意義や成果を示すことは大切だと思います。また、ボランティアだからといって指示待ちだけではなく、意見や提案をして、それを受け入れてもらったり、感想を発信できたりというのが、自主性を引き出していく上で大事かなと思っています。

下出 ボランティア一人ひとりが自分の役割を認識していきいきと活躍することが、大会を盛り上げ、選手やお客さんに東京大会を印象付けていくということになると思います。それぞれの役割の重要性を認識し、大会を支える自覚やプライドを持って取り組んでいただけるよう、研修の中で責任感を醸成していきたいと思っています。

荒田 皆さんの話を伺っていて、スタッフ、ボランティアの現場対応力や、過去の失敗の例を受け止めて次につなげていくことが重要だと感じました。組織委員会は一時的に発足している団体ということもあり、そういったところでは知見が十分ではないということが正直あるので、大会を乗り越えていく上では、皆さんと一緒に取り組んでいくことによって準備万端にできると思います。

草野 北海道で流行の言葉DSRは「どうにかするりょく」の略なんですね。11万人の人が初めてのイベントをやるので、予定通りにいかないトラブル、準備できてないということができてきたときにこそ、何とかしようとする主体性が発揮される場なんです。 主体性を発揮するには動機付けが重要です。ボランティアが動員された場合、どういう言葉を投げ掛けて送り出すかで、まったく変わってくる。「うまくいかないこともあるけれど、皆で乗り切ろう」という言葉で送り出せば、動機付けにつながるはずです。

ボランティアで培う課題解決力

羽仁 東京2020大会を通して取り入れていきたい持続可能性の具体的なイメージ、それに関するボランティアとの関係についてお考えを聞かせてください。

太田 先進国として、5年先、10年先の未来を、オリンピックをきっかけにつくっていくことを目指すのであれば、目の前の課題にどう取り組むかだけではなくて、ボランティアの皆さんが現場で取り組んでいることが、大きなゴール・目標にどのようにつながるのか、主催者・運営側が現場の人に見せる気持ちと余裕をつくって臨む大会になってほしいなと思います。

草野 一緒に活動してくれる人が増えてくれることを望んでいます。東京大会のボランティアに参加した人たちが、ボランティア参加でこういうことが得られる、そんなにハードルが高いことをやっているわけではないんだなという感覚になれば、地元に帰って地域の課題解決に向けて一緒に活動していく人が出てくる。今回のオリンピックが終わったときに、参加して良かったよといろんな人たちにあちこちで言ってもらうことが、ボランティアや持続可能な未来づくりにつながってくるのではないかと期待しています。

羽仁 「うちの社員をボランティアに送り出して10日間を取られてしまったんだけど、帰って来たらいきいきしていてうちの会社が変わったよ」と言われるといいですよね。僕らの活動でも、ほとんどのボランティアが最初は大変なんだろうなと思っているのが、終わってみたら楽しかった、たくさんの友達ができた、そんな話をたくさん聞きます。東京大会は、自分の国のオリンピックでボランティアできる一生に一度の機会でしょう。そのタイミングを本当に楽しんで、その場で起きたトラブルをその場で解決していくのもきっと楽しい経験になるんじゃないかなと思います。

高橋 オリンピックで、純粋に自主性を引き出せるボランティア経験を積むことで、自分の頭で考えて行動する力が身に付けられる。私たち若い人も、自分で考えて行動して、自分の力で未来を切り開くことや社会に参加していくことなどを考えていけるのではないのかなと思います。

荒田 持続可能性の問題は誰か関心のある人だけが取り組めばいいということではないというのは、皆さんの共通認識だと思います。これは良かったという発見や、苦労して乗り越え、変えてきた体験を皆さんから発信していただけると、組織委員会や東京都のWEBサイトに堅苦しく書くよりも、多くの人が自分もやってみようというきっかけになると思います。

スポーツの祭りであるオリンピックを楽しむと同時に、ボランティアや持続可能性について皆が立ち止まって考えてアクションを起こすというきっかけになればいいなと思います。皆さんが作られたガイドは、多くの人の取り組みのための良い入り口になるのではないかなと思います。知見をお持ちのNGO/NPOと今後も一緒に取り組んでいきたいなと思っています。

下出 大会で得た経験を個人のレガシーとして使っていただくとともに、ボランティア活動を広めていただきたい。大会後にお互いがお互いを助ける共助社会をみんなでつくっていければいいなと思っています。

高橋 東京大会に参加する11万人の皆さんに、ボランティアって意外と楽しいな、意識を持って活動し、行動していくことはかっこいいな、そういうふうにわかってもらえたらなと思います。

草野 ボランティアで参加した人たちに、小さな成功体験を積み重ねてもらいたい。ボランティアに参加した皆さんが、現場でトラブルが起きたときに、あきらめるのではなくて、どうしたらいいのかなという考えを変えるだけで、大きな一歩になると思います。そういう発想ができる人が増えると、いろんな地域や社会で起きている課題に対して、あきらめるのではなく、どうにかしようよという動きができるんじゃないかなと僕は信じています。

羽仁 ボランティアという言葉は、英語の「ボルケーノ」と同じくラテン語の「ボランタール」が語源です。火山のように自らの気持ちが沸き起こるというのがボランティアの語源です。湧き上がってくる気持ちで、持続可能なやり方を、オリンピックをきっかけに日本のスタンダードにしていこうという気持ちがある人が、11万人集まってきたら、すごいことになるんじゃないかと思います。

(2018年2月20日 東京・芝浦にて)

タグ: