つなげよう、支えよう森里川海 第13回コウノトリと農業・農村の共生を目指す徳島の取り組み~「コウノトリが舞う国土づくり」から地域活性化へ

2018年07月13日グローバルネット2018年7月号

コウノトリ定着推進連絡協議会
柴折 史昭(しばおり ふみあき)

2015年春、徳島県鳴門市へ別々に飛来した若い2羽のコウノトリが電柱に巣造りを始めました。地元では何の心構えも受け入れ体制もできていませんでした。徳島県が急きょ、地元の鳴門市や農業団体、野鳥関係団体、大学などに呼び掛け、コウノトリの野生復帰と彼らとの共生による地域の活性化を目的に立ち上げたのが「コウノトリ定着推進連絡協議会」です。まさに泥縄式の組織づくりからのスタートでした。

その後のコウノトリの産卵、けんか別れ、失踪、再飛来、仲直り、繁殖の成功、幼鳥の事故死、多くの個体の飛来・滞在等々、彼らの早くて予測不能の行動に振り回されながらの私たちの取り組みを紹介します。

●何もしていないのにコウノトリがやって来た!?

吉野川下流の北部に広がる低湿地は、全国第2位の生産量を誇るレンコンの生産地帯で、ここを中心に2018年6月現在、9羽のコウノトリが暮らしています。

全国の多くの自治体や地域において、コウノトリを誘致し、定着・繁殖させようという取り組みがなされていますが、徳島県ではコウノトリを念頭に置いた取り組みはまったくありませんでした。「何もしていないのに!?」とうらやましがられるゆえんです。

しかし、飛来して定着し、但馬(たじま)地域周辺以外では初の野外繁殖に成功したのには理由があるはずです。

彼らは、餌の多くをレンコン畑で得ています。この畑は、1年のうちのほとんどの期間を湛水(たんすい)状態、しかもコウノトリが採餌するのに最適な浅水(せんすい)で管理します。また、生産者の長年の努力の結果、農薬使用量が非常に少ない栽培体系を確立しています。このため、水生生物が豊富で、多くのコウノトリを養えるのです。「何もしなかった」わけではなく、「長年にわたり環境にやさしい方法で、レンコン栽培を続ける努力」をしてきたことが、思いがけずコウノトリに選ばれた理由だと思っています。

ところが、水生生物が増える一方で農家にとって困った生き物も増えてしまいました。ミシシッピアカミミガメ、アメリカザリガニ、ジャンボタニシ、ウシガエルなどの外来種です。ウシガエル以外は、レンコンや水稲を食害したり田に穴を開けるなど、農業被害をもたらしています。しかし、コウノトリはこれらの外来種を食べてくれ、とくにアメリカザリガニは主食といえるほど大量に捕食します。レンコンとコウノトリは、生態系の中で共生の関係にあるのです。

●コウノトリ定着推進連絡協議会の取り組み

当協議会は下図のような構成で産(とくに農業)・学・官・民によりコウノトリを定着・繁殖させ、以下のような地域活性化に生かす取り組みを行っています。

組織図。5 つの部会がそれぞれ主体性を持って活動している。

■定着・繁殖させる取り組み

当協議会は、その名称と目的からしてコウノトリの存在なくしては存立し得ません。まずは確実に定着、野外繁殖させ、安定的に生息個体数を増やすための取り組みが基礎になります。これには「兵庫県立コウノトリの郷(さと)公園」の強力なバックアップ、ご指導を得ており、アドバイザーとして参画していただいています。

実行部隊は、野鳥関係団体、徳島大学、農家、行政などで、四国電力、徳島市立動物園、地元中学校などと連携しながら、以下のような取り組みを進めています。

  • 2回目の巣造り前の鳴門板東ペア。3回目の巣造り(2017年)で繁殖に成功。今年もこの電柱の巣から2羽のひなが巣立った


    ①営巣場所の確保 四国電力に協力いただき電柱を「鳴門板東ペア」(右写真)の繁殖に使わせてもらい、より安全な営巣場所にするための改造を検討中です。また、別のペアの繁殖に備え、徳島県から受託して、今年3月には県内では初めて人工巣塔を設置しました。
  • ②繁殖調査・生物調査 「調査チーム」を編成し、目視調査と固定カメラの映像解析から繁殖行動を調べ、産卵、抱卵の開始やふ化を判定しています。また、徳島大学や鳴門市大麻(おおあさ)中学校の学生、生徒が中心となって、餌となる水生動物などの調査を行っています。
  • ③足環装着 昨年、今年と「コウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル(IPPM-OWS)」の指導のもとで足環装着を実施しましたが、今後は自力での実施ができるよう、スキルアップや県内連携の強化に努めています。
  • ④マナー対策 巣の周辺には多くのカメラマンや見物人が押し寄せ、繁殖への影響や、営農や通行に支障が出るため、巣の周辺での撮影・観察と車の乗り入れの自粛を呼び掛けるなどの対策を講じています。さらに鳴門市は、巣の近くに警備員を配置し、駐車場や撮影・観察スペースの整備に努めています。

■地域活性化に生かす取り組み

コウノトリと農業が生態系の中で共生関係にあることは先に述べましたが、さらに地域の経済・社会との共生へと展開できる仕組みづくりを目指しています。農協、農家、四国大学、行政が中心となり、レンコンがコウノトリを育んでいることを積極的にPRし、イメージアップ、消費拡大につなげ、地域の主要産業である農業をいっそう元気にしようというものです。

  • ①コウノトリれんこん 徳島北農協は、鳴門市の「コウノトリおもてなし」ブランド認証を受け、かつ「特別栽培」で生産したものを「コウノトリれんこん」として2017年9月に販売を開始しました。徳島のレンコンの関東市場への出荷は極めて限定的ですが、関東への空輸出荷にもチャレンジしています。生産量も出荷量もまだわずかですが、2年目の今年は、参加農家も増えており、徐々に拡大していく予定です。
  • ②加工品 四国大学や地元食品加工業者によって加工品の開発が進められています。昨年度は試作を行い、今年度は製造販売の実現に向けて取り組んでいます。

●地域循環共生圏構築事業と新たな展開

当協議会の活動の一端をご紹介しましたが、そのうちのいくつかは環境省の「地域循環共生圏構築事業」の対象にしていただいています。この事業により実質1年半、①プラットフォームの充実強化 ②資金システムの構築 ③人材の育成の3本柱に取り組んできました。この間にコウノトリは2回の繁殖を成功させ、定着・滞在する個体数も増加するなど、着実に成果を上げています。一方、私たちの方はというと、3本柱のいずれに関しても胸を張るほどの成果を上げられておらず、コウノトリに大きく後れをとっています。

鳴門市周辺地域では、来春はもう1組のカップルが誕生する可能性が高まっています。また、生息場所を徳島県内へ拡大する動きを見せる個体もいて、関係する自治体や地域も広がっています。こうした中、当協議会に求められる役割は質、量ともに変化しており、この事業の最終年度に少しでもコウノトリに追いつけるよう新たな展開を目指していきます。

※コウノトリ定着推進連絡協議会についてはWEBサイトやSNSで情報を発信していますので、ご覧ください。

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