つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す第16回 福岡県宗像市 「海の鎮守の森」構想から実践への道

2018年10月16日グローバルネット2018年10月号

宗像国際環境100人会議 事務局長、一般社団法人九州のムラ 代表理事
養父 信夫(ようふ のぶお)

福岡県宗像市『海の鎮守の森』構想 始動!

福岡市と北九州市の間に位置する宗像市は人口9万7,000人ほどの地方都市であり、「道の駅むなかた」の売り上げは全国の道の駅の中でも上位にランクし、農業、漁業の第一次産業も盛んな地域である。昨年7月には、「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群がユネスコの世界遺産に登録された。その年の10月には、全国豊かな海づくり大会が福岡県で開催され、天皇皇后両陛下をお迎えし、「宗像」の知名度も年々上がっている。

ここ宗像市に、4年前に「宗像国際環境会議実行委員会」が立ち上がった。その構成メンバーは、宗像市、宗像漁協、宗像観光協会、宗像環境連絡協議会(環境系のNPO、団体のネットワーク組織)、宗像大社、福岡県立水産高校、宗像フェス実行委員会などの地元団体、それにキリンビール株式会社、シャボン玉石けん株式会社、新日鐵住金株式会社、新日鉄住金エンジニアリング株式会社、TOTO株式会社、日本航空株式会社、株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング、西日本電信電話株式会社、三菱商事株式会社などの大手企業、そして九州大学工学研究院が研究機関として参画し、弊社一般社団法人九州のムラ(本社・宗像市)が事務局を担っている。

宗像市の漁村の鐘崎地域は、もともと宗像大社にまつられる三女神を古くから信仰する鐘崎海人族の拠点であり、今でも彼らの末裔たちが漁業を営んでいる。この鐘崎は海女の発祥の地であり、彼らは遠く日本海側の隠岐島海士町、能登半島輪島市舳倉島まで移り住んだとされる。海女漁の主な収入源はアワビ、サザエ、それに海藻であるが、貝類の餌である海藻が枯れる“磯焼け”現象が年々広がり、海女の後継者もいない状況になってきていた。

世界遺産登録への機運が高まる中、宗像の信仰を守り続けている漁師たちの生活の場である海の環境に目を向け、海の環境保全を進めていくべきとの思いで委員会は設立された。磯焼け問題(その原因は海の温暖化、森の荒廃など複数あり)、プラスチックを中心に漂着ごみ問題(とくに近隣の国々からの)など、一般的には見えづらい海の環境問題を国内外に発信し、啓蒙活動のみならず、環境保全の実践活動も行っていくことを目指している。

2014年以来8月下旬の3日間、「宗像国際環境100人会議」と銘打って産官学が連携し、世界で起こっている環境問題のドキュメンタリー映像、知識人・専門家の講演会、シンポジウム、さらに実際に環境保全活動を行うために、竹魚礁作り、砂浜の漂着ごみ拾いなども行い、最終日には、3日間の議論を「宗像宣言」として取りまとめ、国内外に発信してきた。宣言では、“多様性、循環系を取り戻すために、かつて貨幣経済とコメや海産物などで循環型社会を維持していたローカルな仕組みを基礎とした社会の実現と、先人たちの声に耳を傾け、環境と社会と経済とが共存し、慈しみや、優しさにあふれた環境・生命文明社会の実現を目指すこと”をうたっている。第5回を数える今年は、高校生・大学生自らの企画での分科会も行い、地元中高生の参加とともに、次世代の参加も増え、全体では3日間で延べ800名を超える方々が参加した。

恒常的な活動への展開のための事務局体制が課題

これらの活動をイベントで終わらせることなく、継続的に実施していくために、運営組織の基盤整備(運営資金、人的体制など)をどう立ち上げていくか。これは全国の環境保全活動を行っているところも多かれ少なかれ直面している課題でもある。

宗像国際環境会議実行委員会という組織自体は任意組織であり、これが法人化するようなものでもない。あくまでプラットフォームとして緩やかな連携の下、1年に1回の100人会議の実施、それに年8回程度の中高生向け講座の開催、そこにそれぞれの構成団体が関わり、①「人」(会議の参加者として、または発表者として参加)②「物」(例えば新日鐵住金グループとして、竹魚礁設置の重しとして溶融スラグ入りブロックの提供、JALの協賛航空券、キリンビールの飲料提供など)③「金」(100人会議のパンフレットの広告掲載という形で協賛金を提供)について支援をいただいている状況である。

100人会議時と春先に竹魚礁を設置

現在、実行委員会の運営資金については、約半分は自治体から、残りを民間企業、地元関連団体からの協賛にて賄っているが、イベントとしての100人会議自体は、より参加者が集い、情報発信力も、高め、参加費、企業協賛、物品販売が高まることにより今後も実施し続けていくことを目指す。

今後の取り組み

その上で、さらに今後宗像での海、砂浜の環境保全活動を推進していくために、以下の三つの方向性で取り組んでいる。

1.実行委員会参画企業×宗像 個別プロジェクト

今年の100人会議では、各企業が取り組むSDGs(持続可能な開発目標)について発表、分科会でも議論を行ってきた。その中で、すでに宗像で個別に取り組みを実施している企業や、今後取り組む予定の企業など、この環境会議をきっかけに企業と地域がよりつながり始めている。企業が持つ人的資本・技術資本・経済的資本により、直接宗像市と各企業が取り組んでいただくためのアイデア、きっかけ作りを環境会議にて行い、各企業の個性を生かして取り組んでいただく。

2.自治体主体による「海の鎮守の森」基金

現在、海の再生を目指し、イカの産卵場所、小魚の生息場所として、竹魚礁を作り、沈めている(写真)。竹魚礁は水産高校の取り組みを広げていくために実行委員会でも実施している。

その時に切り出した竹を使って「竹募金箱」を作り、海の鎮守の森基金として今後、行政主導で立ち上げていくように働きかけていく。

3.地元鐘崎の漁師、飲食店連携による商売×ツーリズム×環境

現在鐘崎には鐘崎に住んで伝統の漁を体験し、海女文化を学び伝える地域おこし協力隊として海女見習いが2名、さらに地元から1名、計3名の30代の海女後継者が海女漁を行っている。ただし海女漁だけの収入で生活することは、今の海の状況では厳しく、そこには海の環境も学ぶプログラムとしてのエコツーリズムの実施や飲食業なども組み合わせていく必要もある。彼女たちの今後の取り組みを応援する地元の漁師および飲食店主達で現在「宗像鯱の会」という協議会を立ち上げ、漁船クルーズ、海藻押し葉体験、新しいマリンスポーツであるSUP体験、海藻事業調査などを行っている。

参加者の思いを竹短冊にして海に奉納

このように、企業、自治体、地元商売人それぞれが、「海の鎮守の森」構想の下、それぞれの役割、個性を果たしていくことにより、継続的に海、砂浜、ひいては川、里山、森の環境保全を行っていける仕組みを作り上げていきたい。

タグ: