21世紀の新環境政策論~人間と地球のための持続可能な経済とは第32回 エネルギー自給率100%ワークショップ

2018年11月16日グローバルネット2018年11月号

千葉大学教授
倉阪 秀史(くらさかひでふみ)

地域の環境資源を地域で活用する

2018年4月に閣議決定された第5次環境基本計画においては、「地域循環共生圏」の形成というキーワードが強調されています。これは、2014年の中央環境審議会の意見具申に初めて現れた言葉で、「各地域がその特性を活かした強みを発揮し、地域ごとに異なる資源が循環する自立・分散型の社会を形成しつつ、それぞれの地域の特性に応じて近隣地域等と共生・対流し、より広域的なネットワーク(自然的なつながり(森・里・川・海の連関)や経済的つながり(人、資金等))を構築していくことで、新たなバリューチェーンを生み出し、地域資源を補完し支え合いながら農山漁村も都市も活かす」という内容です。2018年6月に閣議決定された第4次循環型社会形成推進計画でも中核概念になっていますので、環境政策のキーワードとして当面使われることになると思います。

地域資源としては、再生可能エネルギー資源、バイオマス資源、水資源、循環資源などがありますが、まず、これらを地域で、地域の発展のために十分に活用し、自立・分散型の発展を図っていくことが必要となります。中でも、再生可能エネルギー資源の活用は、以下の2点で、地域の発展に対して効果があります。

第一に、地域の富を地域外に流出させるエネルギー支出を削減できることです。日本では、だいたい1世帯あたり年間20万円程度をエネルギー代として支払っています。たとえば、ごみ処理代はおおむね1世帯あたり年間1万5,000円程度ですので、基礎的な支出項目の中ではエネルギー代が大きな割合を占めていることがわかります。なお、日本の国内には、化石燃料を産出する地域はほとんどありませんので、再生可能エネルギー資源の活用は、日本の富を日本国内にとどめる効果も有します。

第二に、固定価格買取制度が、地域に新しい収入源を保証することです。特産品を開発して新たな収入を得ようとしても、競合者との競争に勝たないと収入源になるかどうかわかりません。しかし、固定価格買取制度は、20年という期間にわたって一定の内部収益率を保証する制度ですので、順調に発電している限り収入が入ってきます。

エネルギー自給率100%ゲーム

このような話をすると、どこまで再生可能エネルギーで賄うことができるのか、都会において本当に自給率100%を達成できるのか、といった反応が戻ってくることがあります。そこで、「エネルギー自給率100%ゲーム」という簡単なシミュレーションゲームを作成してみました。

このゲームでは、参加者に「2060年に民生用と農林水産業用の電力需要を上回る再生可能エネルギー発電設備を該当市町村内に導入すること」を目標として、省エネ、再エネ投資額を決めてもらいます。

ゲームは、2019~2029年、2030~2039年、2040~2049年、2050~2059年の4回の投資機会について、タブレットPC上で投資単位量を入力することによって進めていきます。投資オプションとしては、住宅省エネ投資、住宅太陽光、住宅太陽熱、事業用太陽光(100%域内出資)、事業用太陽光(域外90%出資)、営農型太陽光の6種類を標準的に用意し、地域によっては、小水力発電、バイオマス発電など他の発電種についても選択に加えることができます。

投資額の決定は、予算上の制約と物理上の制約を受けます。まず、予算上の制約としては、当該市町村の消費支出額の1%を上限とします。おおむね消費支出の5%程度がエネルギー支出となっていますので、何とか受容される範囲かなと思っています。次に、物理上の制約としては、住宅の省エネ・再エネ投資は、新規着工住宅件数を上限とします。既存の住宅に投資してもいいのですが、とりあえず新しいものに100%省エネ・再エネ投資を導入することを最大導入量と考えました。また、10kW以上の太陽光発電は、宅地面積の10分の1の面積と耕作放棄地面積を上限としました。他に設置できるところもあるはずですが、だいたいの目安としての数字です。さらに、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は、農地面積の20分の1を上限としました。

また、それぞれの投資機会で入力が済んだ後、トランプを引いてイベントを発生させます。イベントには、メガソーラー反対運動勃発(10kW以上の太陽光発電半分稼働せず)、大規模台風襲来(太陽光発電、太陽熱2割損壊)、化石燃料価格高騰(燃料費削減リターン2倍)、人口減少に歯止め(2050年以降人口安定)、固定価格買取制度廃止(次の期から事業用太陽光域外出資なくなり、売電収入半減)の5種類があります。

再エネによる売電収入と省エネ・再エネ熱利用によるエネルギー支出削減分は、次の期の投資予算額に上乗せされます。また、それぞれの省エネ・再エネオプションの費用は、毎期、技術革新によって下がっていくという想定です。消費支出、エネルギー消費量などを計算するためのベースとなる世帯数は、各自治体の人口予測を利用して変動させていきます。

エネルギー自給率100%ワークショップ

このゲームは、表計算ソフトのエクセルを用いて組んであります。まだ、それぞれの原単位などだいたいの数字を突っ込んであるもので、もっと正確にしていく必要がありますが、とりあえず、啓発用には使えるものになったかなと思っています。

昨年10月には、奈良市の中高生を対象として、また、今年10月には、千葉県八千代市の社会人を対象として、それぞれ、エネルギー自給率100%ワークショップを実施しました。それぞれ、奈良市と八千代市の基礎データを用いて、物理量と予算額の上限を計算するようにゲームを作成しています。奈良市では、モバイルPCを持ち込んで1台につき5~6人の班が投資量を決定しました。八千代市では、9台のタブレットPCを持ち込んで、2~3人がチームとなって投資量決定を行いました。

このエネルギー自給率100%ワークショップには、ちょっとした仕掛けがあります。投資種類に応じて、一定の耐用年数を想定しており、耐用年数が経過すれば、その投資効果がなくなる上、廃棄費用がかかることになっています。当たり前のことですが、2060年のエネルギー自給率の向上には、最初の頃に投資された太陽光発電は直接には寄与しないということになります。ゲームの投資量選択画面には、オプション別に、省エネ・再エネの費用対効果も明記してあります。一番、費用対効果が大きい選択肢、つまり、初期投資額に比べてもっとも再生可能エネルギー量を増やせる選択肢は、域外出資の事業用太陽光になります。しかし、ゲームの最初の時期に導入された事業用太陽光は2060年には存在しません。域外出資だと、域内に売電収入がたまらない仕組みになっていますので、最初の段階で、費用対効果の大きな域外出資事業用太陽光を選んだチームは、2060年の自給率はそれほど上がらないという結果になってしまうのです。

ちなみに、奈良のワークショップでは、6班中3班が2060年に100%を超えました。八千代では、9班中3班が100%を達成しました。

すべての自治体でワークショップができるように

この取り組みはまだ試行段階で、自給率向上ワークショップを行う自治体ごとにデータを入れ替えて、ゲームを作成している状況です。ただ、自治体コードを入力すれば2040年の人口減少のインパクトが自治体別に視覚化される「未来カルテ発行プログラム」を作成した実績がありますので、今後は、全自治体について、風土に応じた省エネ・再エネオプションが提示されるとともに、予算制約と物理的制約に関するデータが自動で入れ替わる形のプログラムを作成することができるのではないかと考えています。研究予算が得られれば、3年くらいで完成させたいと思っています。また、個別にエネルギー自給率向上ワークショップを実施することも可能です。関心のある方は、NPO法人地域持続研究所 担当:中塚(recpaアットchiba-u.jp)(*アットを@に置き換えてください)にご連絡ください。

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