USA発サステナブル社会への道―NYから見たアメリカ最新事情第18回 米国の電力情勢

2018年11月16日グローバルネット2018年11月号

FBCサステナブルソリューションズ代表
田中 めぐみ

米国の温室効果ガス(GHG)排出量は世界2位だが、2007年をピークに減少し続けている。17年には1992年と同レベルに下がり、2005年と比べて11%減少したことになる。米国はパリ協定からの離脱を表明しているが、同協定で設定した削減目標は25年に05年比26%減であり、現行のペースで進めば目標達成は十分可能と見られる。

セクター別に見ると、排出削減に大きく貢献しているのは電力部門である(図1)。これまでは電力部門由来の排出量が圧倒的に多く、次いで輸送、産業、農業、商業、家庭の順だったが、電力由来の排出量は年々減少し、16年は輸送部門(28.47%)が電力(28.35%)を上回っている。

一般にGDPが伸びると電力消費やGHG排出量は増える傾向にあるが、米国では過去10年間 GDPがおおむね年1~2%台で伸びているにもかかわらず、電力消費はほとんど増えておらず、排出量はむしろ減少している。これは、排出量の多い石炭から比較的少ない天然ガスや再エネへと電力源の移行が進んだこと、効率化等により発電施設の生産性が上がったこと等、電力産業における構造的な変化によるものと見られる。

●変わる電源構成

とくに電力源の移行は顕著である(図2)。天然ガスは過去10年間で60ギガワット(GW)、風力は70GW、太陽光は35GWほど増えている。近年新設される発電施設のほとんどをこの3電源が占めており、14年から17年までの4年間は風力と太陽光が新規追加容量の過半数を占めている。一方、石炭は発電所の閉鎖が相次ぎ、過去10年間で発電容量が60GWほど減少し、今年単年でも13GW分の閉鎖が予定されている。

電源構成の推移を見ると、10年前には石炭が48%だったが17年には30%に下がり、代わりに天然ガスが21%から31%へ、水力を含む再エネが9%から19%へと伸びている。再エネ内の構成では、全電力に対する水力のシェアが7.2%と依然最大だが、風力は10年間で1.3%から6.2%へと大幅に増え、水力に迫っている(図3)。太陽光も伸びは大きいが、シェアは3.2%にとどまっている。

●再エネの動向

風力は、技術改良等により10年から16年の間に導入コストが3分の1に下がったため、建設ラッシュが起こっている。発電容量は17年に6.3GW増えており、今年と来年でおのおの8.3GW、8GWの増加が見込まれている。19年には発電量で水力を抜き、再エネ内の最大電源となると見られている。ただし、税控除策が終了する22年以降は、新たな刺激策が施行されなければ新設は減ると見られる。

電源構成は州ごとに大きく異なるが、カンザス州では17年に風力シェアが36%になり、石炭38%に迫っている。今年前半には風力42%、石炭35%と石炭をしのいでおり、風力が50%を超える月もあった。同州と風力シェア37%のアイオワ州は、近年中に全電源内で風力が最大シェアを握ると見られている。

太陽光も13年から16年の間に導入コストが34%下がり、新設ブームが続いている。これまで発電容量では太陽光がバイオマスを上回っていたが、発電量では天候に左右されにくいバイオマスに及んでいなかった。しかし、相次ぐ新設により容量が増え、16年には発電量でもバイオマスを上回るようになった。今後もコスト減少とそれによる導入ラッシュは続くと見られ、今年は発電量で前年比26%増、19年には14%増と大きな伸びが見込まれている。風力発電の税控除策終了後は太陽光の新設容量が風力を上回り、50年までには発電量でも風力を抜くと予想されている。

カリフォルニア州では、17年に太陽光のシェアが天然ガス41%、水力20%に次いで16%になり、ネバダ州でも天然ガス69%に次ぎ11%となっている。カリフォルニアでは干ばつ被害に見舞われた15年には太陽光が水力を上回っており、互いに補完し合うことで異常気象対策の役割を果たしている。また、同州では新築物件に対して太陽光パネルの設置を義務付ける法案が今年可決しており、施行後は太陽光の敷設が大幅に増えることが予想される。

バイオマスは連邦政府による刺激策はなく、大きな容量増加は見られないものの、メイン州26%、バーモント州21%と州によっては大きなシェアを占めている。メインでは、07年に50%近くあった天然ガスのシェアが17年には19%に下がり、代わりに水力が30%、バイオマスが26%、風力が20%と再エネが圧倒的なシェアを占めている。

●今後の行方

米エネルギー省再生エネルギー研究所は、現存の技術のみで2050年までにアメリカの発電量の80%を再エネで賄うことができるとする調査報告書を発表した。内訳は、風力と太陽光が50%、残りの30%はバイオマス、地熱、水力等とされている。実現すれば、電力産業におけるCO2排出量を80%削減、水使用量を50%削減できるが、そのためには電力貯蔵や送電網の拡充など電力インフラの整備が必要としている。

しかし現実的には、50年までに再エネが80%になる可能性は低いと見られる。近年は老朽化した天然ガス発電所の閉鎖が増えているが、新設分が大幅に上回っており、今年単年で21GW容量が新設される予定である。石炭は排出量の少ないクリーンコールへの移行が進み、古い発電所の閉鎖はいずれ頭打ちになると見られる。現在60基ある原発は25年までに13基の閉鎖が予定されているが、州の援助により設備改良資金を調達し閉鎖を免れた原発もある。

米国再エネ協議会の調査によると、投資家の89%が2030年までに再エネへの投資を倍増すると回答しているが、あくまで政策と市場動向次第としている。州や自治体、企業は低炭素化に向けて尽力しているが、気候変動対策に後ろ向きな連邦政府が足かせになっている。深刻な気象災害が頻発している現状において、国民は次の選挙を重く見るべきだろう。

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