つなげよう、支えよう森里川海第17回 椹野川河口干潟の「里海」の再生に向けて~椹野川河口域・干潟自然再生協議会

2018年11月16日グローバルネット2018年11月号

山口県環境生活部自然保護課 主任技師
山本 倫也(やまもと ともや)

山口県山口市を流れる椹野川の河口域から山口湾においては、西瀬戸内海地域有数の広大な干潟が広がり、さまざまな渡り鳥や野鳥、カブトガニの生息場になっており、日本の重要湿地500にも選ばれています。また、かつては、アサリやエビの好漁場で、昭和後期には数百トンのアサリが漁獲され、地域の身近な「里海」として親しまれていました。

椹野川流域の地図

しかしながら、干潟では、カキ殻の堆積、泥浜干潟の拡大、生物量・種数の減少といった生態系の改変・改質が生じ、魚介類は激減し、かつてのような豊かな干潟ではなくなってしまいました。このため、県では、2003年5月に「やまぐちの豊かな流域づくり構想(椹野川モデル)」を策定し、干潟の生態系に影響を及ぼす流域全体を捉え、上流域から下流域に関わる産官学民の協働・連携による干潟再生等の取り組みを進めてきました。

●椹野川河口域・干潟自然再生協議会の設立

2004年8月、取り組みをさらに効果的に進めるため、自然再生推進法に基づき、地域住民、NPO・環境保全団体、学識者、漁業組合、森林組合、研究機関、行政機関等で構成する「椹野川河口域・干潟自然再生協議会」を設立しました。協議会では、①椹野川河口干潟等の生物多様性の確保、②流域の多様な主体の参画と産官学民の協働・連携、③科学的知見に基づく順応的取り組みの三つの視点を基本として、干潟等の「里海」の再生を目標に取り組んでいます。

●椹野川河口干潟等の里海再生に向けた活動

さまざまな立場の個人・団体等が連携し、「里海」の再生という共通の目標に向け、干潟の底質改善試験・耕うん作業、アマモ場の造成、海岸清掃、アサリ再生活動(被覆網や竹柵の設置)、野鳥やカブトガニ等のモニタリング調査、大学による調査研究、子供を対象にした環境学習会、普及啓発等のさまざまな活動を行ってきました。この結果、活動開始当初は壊滅状態であったアサリが、2009年には500kgも漁獲できるようになり、湾内のアマモ場の面積やカブトガニの幼生の個体数も増加傾向にあります。また、ボランティア参加者へのアサリ汁の振る舞いや、潮干狩りイベントの開催等により、協力者に活動の成果を少しずつ還元できるようになりました。

干潟の全貌(上)と下は左からカブトガニ、クロツラヘラサギ、アサリ

活動は徐々に地域に広がりを見せており、地元企業や教育機関等も関わり始め、例年春の干潟再生活動イベントには350人以上が集まるようになりました。関心を持たれず、人の姿がなくなっていた干潟に、活動を通じて多くの人が訪れ、この貴重な自然の大切さを知るきっかけになっていることも大きな活動成果といえ、豊かな干潟の兆しが見られています。

●持続的な里海再生活動に向けて

10年以上にわたって活動を継続し、徐々に成果が現れてきましたが、新たな課題も生じています。一つ目は、活動資金の確保で、単年度の民間助成金等に頼り、安定的な資金確保の仕組みがないことです。二つ目は、活動を主体的に行う人材の不足です。とくに漁業組合は、高齢化等で組合員数が大きく減少し、現在干潟で活動する組合員は数名になっています。

このため、2016年度から、地域循環共生圏構築事業(環境省)により、持続的な活動に向けた新たな取り組みを展開しています。事業の実施に当たっては、まず協議会内において、椹野川河口干潟等の望ましい将来像を改めて話し合い、活動や団体等の現状の認識共有、組織体制の再編等から始めました。そして、新しい取り組みとして「ふしの干潟いきもの募金」と「ふしの干潟ファンクラブ」を設立しました。

「ふしの干潟いきもの募金」では、①多様な生き物の生息場の保全、②良好な水環境の維持、③地域の水産資源の復活、④自然に親しむ場の提供の四つのキーワードを目標に設定し、協議会委員の活動に対して、地域住民・団体・企業等から幅広く、継続的に協力を得ることを目指しています。また、漁業組合の協力により、アサリ販売の収益や潮干狩り参加料の一部が募金に寄付される仕組みも始まりました。さらに、募金箱の設置等(写真)の募金活動により、金融機関、道の駅、飲食店・小売店等ともつながりができ、より多様な主体に活動を応援してもらえるきっかけにもなっています。

ふしの干潟いきもの募金箱

ふしの干潟いきもの募金のパンフレット

「ふしの干潟ファンクラブ」は、活動の協力者等とのつながりを作ることを目的としており、登録会員にイベントやボランティア活動、活動成果等の情報を配信しています。この取り組みにより、活動に度々参加するリピーターが増え、協議会委員と会員、また、会員同士の交流を深める効果も見られています。今後は、この仕組みを効果的に運用し、活動を一緒に考え、主体的に取り組む人材を確保していきたいと考えています。

このような仕組みを効果的に進めていくためには、活動に共感を得ることが重要であり、そのためには活動の成果等を適切に示していくことも必要です。椹野川河口干潟等の情報は、山口県自然保護課のWEBサイトや、協議会フェイスブック等(下のQRコード)で発信していますので、ぜひご覧いただき、干潟に遊びに来てください。

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