INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情 第51回2018~19年秋冬季大気汚染総合対策攻略行動計画

2018年12月17日グローバルネット2018年12月号

地球環境研究戦略機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

昨年冬季に引き続き実施

今年もまた北京市、天津市、河北省およびその周辺地域(「“2+26”都市」と呼ばれている)を対象とする2018~2019年秋冬季大気汚染総合対策攻略行動計画(以下、「攻略行動計画」)が策定通知された。初めて策定された昨年は大気汚染防止行動計画(2013~17年)目標達成の最終年ということもあって、一部の地方政府による行き過ぎた指導も見られた。例えば汚染物質の排出削減のために、個別企業の良し悪しにかかわらず関係する業界全体を一律に稼働停止させるなどの措置(「一刀切り」と呼ばれた)で、後に市民の正常な生産生活を顧みない単純で粗暴な行為と批判された。当時地方政府は中央政府による査察時の成績を良く見せるため、工場等の一律閉鎖停止、あるいは先に停止させ後から話し合うというやり方を取っていた。また、天然ガス等の供給体制が整っていないにもかかわらず、家庭用石炭暖房設備を強制撤去したり、生活用石炭の供給をストップするなどして、北方地域等では寒さに震える市民も出た。

このような反省から、生態環境部は今年5月末に「環境保護『一刀切り』業務を禁止する意見」を発出した。同意見では、建設工事、生活サービス業、養殖業、地方の特色ある産業、都市管理など「一刀切り」が行われている具体的な業種や分野を挙げて、合法的な手続きの有無、環境保護の要求に合致しているか否かを個別に判断し、集中一律的な工事停止、生産停止、営業停止措置を取ってはならないとした。

今年9月に通知された攻略行動計画では、これらの点に配慮しつつ次の目標を掲げた。

「2018年の空気質改善目標を全面的に達成する。具体的には2018年10月1日~2019年3月31日に、北京・天津・河北と周辺部の微小粒子状物質(PM2.5)の平均濃度を前年同時期と比べ3%程度低下させ、また、重度以上の汚染日数を3%程度低下させる」。

昨年は前述の「一刀切り」など随分無理をして環境濃度の低下に努めたことを考えると、それよりもさらに3%程度低下させるという目標は非常に厳しい目標であるといえよう。

主要な任務の概要

それでは、攻略行動計画で掲げられている主要な任務について、その概要を簡単に紹介したい。全体は10項目31の措置から成っている。

1.産業構造の調整および最適化

(1)「二高」(高汚染・高エネルギー消費)業種の生産能力を厳しく規制
 具体例として、既成市街化地域にある重汚染企業の移転改造あるいは閉鎖・撤退を加速し、一群のセメント、ガラス、コークス加工、化学工業などの重汚染企業の移転工事を推進し、また、既成市街化地域にある鉄鋼企業は閉鎖・操業停止、転換発展、改造、域外移転などの方式で適切に対応させるなどの措置が挙げられている。

(2)「散・乱・汚」企業の総合整理対策の強化
 「散・乱・汚」企業の認定基準と是正要件をさらに完備し、「散・乱・汚」プロジェクト建設とすでに操業が禁止された「散・乱・汚」企業の他地方への移転、再稼働を断固として根絶するなどの措置が挙げられている。

※ ①産業政策や現地の産業配置計画に合致しない企業 ②工業・情報化、発展改革、土地、計画、環境保護、工商、品質監督管理、安全監督管理、電力等の部門の承認手続きを実施していない企業 ③安定的に基準を満たして汚染物質を排出することができない企業。

(3)工業汚染対策の深化
 2018年10月1日から、火力発電、鉄鋼、石油化学、化学工業、非鉄金属(酸化アルミニウムを除く)、セメントの各業種および工業用ボイラーの大気汚染物質特別排出規制値を厳格に執行し、重点業種の汚染対策設備のグレードアップ改造を推進する。工業企業の無組織排出対策(注:煙突などの排出口以外から排出または漏れ出る汚染物質に対する対策)を引き続き推進し、安全生産許可条件の下で、密封貯蔵、密閉輸送、系統的回収を実施し、2018年12月末までに基本的に完成する。
 鉄鋼業の超低排出改造を段階的に推進する。排出口からの排出規制を深化し、焼結機の排煙中のばいじん、二酸化硫黄、窒素酸化物の排出濃度はそれぞれ10、35、50 mg/m3以下とし、その他の主な製造工程ではそれぞれ10、50、200 mg/m3以下とするなどの措置が挙げられている。

(4)汚染物質排出許可管理の推進加速
 ピークシフト生産計画を汚染物質排出許可証に記載させる。すでに汚染物質排出許可証の発給が完了した業種については、2018年10月末までに関連するピークシフト生産計画を汚染物質排出許可証の中に盛り込まなければならない等の措置が挙げられている。

2.エネルギー構造調整の加速

(5)クリーン暖房の効果的推進
 農業用ビニールハウス、畜舎などに使用される石炭の対策事業および建物の省エネ改造を同時に推進し、エネルギー利用効率を向上させる。大気汚染防止重点地域の天然ガス需要を優先的に保障し、都市の大気質に対する影響が大きい地域では生活用石炭対策を優先的に推進する。石炭からガスへの転換、石炭から電気への転換を実施する際に、ガス源や電力源がまだ整備されていない状況下では、既存の暖房設備の取り壊し撤去をしてはならない等の措置が挙げられている。
※ 一部の市民が暖を取ることができなくなった昨年の措置に対する反省が反映されている。

(6)ボイラーの総合対策の実施
 ガスボイラー低窒素改造の推進を加速し、原則的に改造後の窒素酸化物排出濃度は50 mg/m3以下とする等の措置が挙げられている。

3.運輸構造の積極的調整

(7)鉄道貨物輸送量の大幅増加、(8)車両と船舶の構造グレードアップ加速等の措置が挙げられている。

4.土地利用構造の最適化調整

(9)舞い上がり粉じんの総合対策強化
 厳格に降下ばいじんを審査し、各都市の平均降下ばいじん量は1km2あたり9 t/月以下でなければならない。2018年10月から生態環境部は毎月社会に向けて各都市の降下ばいじんモニタリング結果を公表し、各省(直轄市)は毎月、区・県の降下ばいじんモニタリング結果を公表する等の措置が挙げられている。

(10)露天鉱山の総合対策の推進

(11)農作物残茎の野焼きの厳格な規制
 残茎の機械化すき込みと肥料化、原料化、飼料化、エネルギー化等の総合利用を強力に推進する等の措置が挙げられている。

以下の項目については誌面の都合上、措置の見出しについてのみ紹介しておく。

5.ディーゼルトラック汚染対策特別行動の実施

(12)自動車の基準不適合排出行為を厳しく調査処分、(13)オフロード車等の汚染防止対策の強化、(14)自動車用石油製品の監督管理の強化

6.工業窯炉の汚染対策特別行動の実施

(15)工業窯炉の全面的調査、(16)基準に達しない工業窯炉の淘汰、(17)クリーンエネルギーへの代替の加速、(18)工業窯炉の高度対策の実施

7.VOCs総合対策特別行動の実施

(19)重点業種のVOCs特別対策の推進、(20)発生源規制の強化、 (21)VOCsの無組織排出の管理・抑制の強化、(22)汚染対策施設のグレードアップ改造の推進、(23)石油製品の貯蔵・輸送・販売のVOCs対策の全面的推進

8.重度汚染天気への効果的対応

(24)重度汚染天気に対する緊急対応連携行動の強化、(25)緊急排出削減措置を強固に実施

9.工業企業のピークシフト生産と輸送の実施

(26)それぞれの地方に合った方法で工業企業のピークシフト生産を推進、(27)大口資材のピークシフト輸送の実施

10.基礎的キャパシティービルディングの強化

(28)環境空気質モニタリングネットワークを完備、(29)汚染源自動モニタリングシステムの建設を強化、(30)科学技術のサポートを強化、(31)環境法律執行を強化

昨年より規制緩和と指摘する報道もあるが、私は昨年の反省の上に立った厳しい計画と感じている。

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