環境ジャーナリストの会のページわが街を自分たちで心地よく! ポートランドの街づくり

2018年12月17日グローバルネット2018年12月号

フリーランス編集者
須藤 晶子(すどう しょうこ)

全米の住みたい街ランキングで例年トップを占める魅力的な都市として注目を集めるオレゴン州ポートランド。

「自分たちで街を面白くしたい」という住民と行政をつなぎ、革新的な街づくりをけん引するNPO「シティ・リペア」で10年以上活動してきたマット・ビボウさんが2018年9月6日、逗子文化プラザ(神奈川県・逗子市)で講演した。その内容を紹介する。

「自分たちの街のストーリーは自分たちで作る」

ポートランドは、コンパクト、ローカルファースト、クリエイティブといった言葉をキーワードに街づくりが進められ、住民が自由に使えるシェア工房や、解体されたビルの廃材を安く売るリビルディングセンターなどもある。

マットさんは大学院進学をきっかけにこの街に越してきた。以来「行動するのはあくまでコミュニティ」との考えに基づき、手作りのコミュニティハウス、交差点ペインティングなど、街なかに住民の共有空間を生み出す活動に取り組んでいる。カギは、近隣住民が実際に出会う場作り(Place making)。そうした場で、みんなで一緒に共有オーブンやベンチを作るワークパーティーなどを開く。主役はあくまで地域の住民で、シティ・リペアはそのやり方を伝授する役だ。場作りの作業では自然素材や廃材を使い、環境とお財布にやさしい材料を選ぶ。

シティ・リペアが主催する村づくり集会(Village Building Convergence)には、地元住民だけでなく見物客も一緒に交差点をペイントするなど、街づくりプロジェクトに参加する。「見る」側から「ともに作る」仲間となった旅人たちは、この街を一層好きになり「自分の場」として記憶することとなる。

街づくりの仕掛けの一つであるこの交差点ペインティングは、単に人の目を楽しませるパブリックアートではない。住民が勝手に「やらかしてしまった」のが始まりで、当初対応に苦慮した行政側は、事故と犯罪の減少という実益が認められてからはむしろ応援するようになり、市内の他地域にもこの活動が広まっていった。交差点の絵を1年ごとに描き替えることでみんなが関わる機会を増やし、自分たちで住みやすい場所を作っていく。

Depaveというアスファルトやコンクリートの地面を剥がして表土を出し、公園や菜園に転換するプロジェクトもある。アスファルトの撤去や片付けは、素人は簡単にはできないため、Depaveのグループは、自分の地域でやってみたい人たちのためにガイドを作成して、自然な地面を取り戻したい人々を支援している。 

マットさんが考える街づくりの原則

マットさんは「祖父母の時代までは自分たちの街のストーリーは自分たちで作っていたはず」で、その権利の復権を目指していると話す。

彼が考える街づくりの原則の一つは「人を巻き込む(お茶会や持ち寄りパーティーに近所の人を招いて、地域について思っていることを話し合う)」こと。「僕らがやっていることは新しいことではなく、ひと昔前の人たちがやっていたことを現代に合うやり方でやり直している」と言う。

もう一つは「すでに地域にあるリソース(人が持つスキルや材料)を活用する」こと。住宅地図上に「ここに住んでいる〇〇さんは△が得意」などを記すスキルマッピングなどの手法も使う。

ジェントリフィケーション問題も

人気が高まったポートランドでは、地価も上がり大手企業も参入してきた。いわゆるジェントリフィケーション(都市の低所得層が多く住む地域を再開発することで地価が高騰すること)とも無縁ではないが、ホームレスの人々に小型の住宅とコミュニティを提供するタイニーハウスビレッジに建設関連会社も支援に加わるなど、市民と企業の協働が比較的うまく進んでいるケースもある。

自分が暮らす部屋を整えるように、自分の住む街を「心地よく整える」。そのために住む人がみんなで知恵を出し、手を動かす。生活者として地道かつ着実に活動を進めるマットさんの姿勢に、そのヒントがあると感じた。

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