ホットレポート持続可能な社会を目指して~エシカルな消費

2018年12月17日グローバルネット2018年12月号

環境ジャーナリスト
服部 美佐子(はっとり みさこ)

法的な縛りはないが多くの人が正しいと思う(倫理的な)ことを英語で「エシカル」という。誰もが消費者であることから、とくに「エシカル消費」が注目されている。2030年までの国際目標であるSDGsとも重なる「エシカル」をテーマにしたシンポジウム(2018年11月16日東京都消費生活総合センター主催)をレポートしながら持続可能な社会を考察する。

●SDGsに世界の理想的な形が集約

慶応大学大学院政策・メディア研究科の蟹江憲史教授は講演の冒頭SDGsの卓越性を強調した。「17のゴール、169のターゲットは誰が見ても賛同できる。エシカルであることがすべて入っている」「正しいことばかり書いた目標に、2030年の理想的な形が集約されている」「それらの目標が合意され、国連加盟国193ヵ国すべてが賛同している」。

SDGsは2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年までの国際目標で、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動など17の目標を定めている。特徴は「だれ一人取り残さないこと」と「世界の変革」、搾取せず、安心も得られる持続的な成長であり、根本的に仕組みを変えていくことだ。

●エシカル消費を入り口に、SDGsを目標に

さらに「国連は条約や議定書など法的な枠組みを作ってきたが、SDGsには枠組みも拘束力もない」(蟹江教授)。ルールはなく唯一進捗を図るというSDGsの目標には社会、経済、環境の三つの要素が含まれる。人間が地球を変えると題したスライドの人口、水利用、二酸化炭素(CO2)、海洋酸性化、熱帯林の喪失などのグラフは1950年からがすべて右肩上がりに急加速していることから、蟹江教授は「この成長パターンでは地球は持たない」と警告する。

持続可能な社会にはこれまでの消費と生産の大胆な変革が不可欠だ。SDGsが企業評価の共通言語として欠かせないものになっており、三菱商事が再生エネルギー比率20%超、トヨタが新車CO2ゼロなど、企業が掲げる将来的な目標が紹介された。

エシカル消費はSDGsの12番目「つくる責任、つかう責任」に該当するが、水やエネルギー、教育、貧困など他の目標にもつながっている。蟹江教授は「エシカル消費を入り口にSDGsを目標に。地産地消やフードバンクなど、誰もが正しいと思う活動の輪を広げ、それがビジネスにもつながる好例を」と結んだ。

●エシカル消費を踏まえた消費者教育

ではエシカル消費の取り組みは進んでいるのか。(公財)消費者教育支援センターの総括主任研究員である柿野成美さんは「SDGsと消費者教育がつながるようになった」と話す。きっかけは2012年8月に議員立法で成立した「消費者教育の推進に関する法律」。同法で国および地方公共団体が消費者教育を推進することが義務付けられた。

消費者教育ではエシカル消費に直結する「社会の一員としてよりよい市場とよりよい社会の発展のため積極的関与する消費者」の育成が位置付けられている。横浜市と市教育委員会の「食品ロスから学ぶエシカル消費」は中学校の家庭科教材としてそのまま使えるようになっており、食生活への関心が高まるとともにエシカル消費への気付きができる内容だ。

●生徒が消費者として企業に発信

さらに柿野さんは「社会的弱者や環境への配慮など今の教育はエシカルの考え方が含まれている」として、センターの教材「エシカルアクションガイドブック『私たちの行動が未来を作る―めざせ! 消費者市民―』」を紹介した。

冊子ではバングラデシュの縫製工場崩落事故など商品の背景にある問題を学びながら、最後に「あなたの声を企業に届けよう」と提案。チョコレートメーカーに埼玉県の高校生が送った手紙「…カカオの生産に子どもの労働が使われていることを知り、御社のチョコレートの原材料に子どもの労働が使われているか調べていただけますか。フェアトレードのチョコレートを作る方針はありますか」を紹介。「こうした手紙が送られるようになりメーカーも励みになっている」と話す。

そうした企業として花王(株)ESG部門の柳田康一さんが「洗剤はパーム油でできているので同じような手紙をもらう」と口火を切った。パーム油への言及はそれ以上なかったが、エシカルに関しては詰め替え用商品の普及を強調。「プラスチック使用量がボトルに比べ6分の1に減少、今では商品シェアの84%は詰め替えを出荷している」と報告した。

(株)東急営業企画部の大島光由さんは「商品の魅力があってその背景にエシカルという位置付け」と話す。H.P.FRANCEエシカル事業部をディレクターに迎え「hug&ethical」キャンペーンを実施。アップサイクル、フェアトレード、雇用創出などエシカルブランドに触れる機会を設けている。

●企業のエシカル通信簿とぐりちょ

こうした企業を評価し消費者にエシカル商品を紹介する、消費から持続可能な社会を作る市民ネットワーク共同代表幹事の杦本育生さんは「エシカル商品を消費者が求め、店の品揃えが変わり、商品開発に熱心なメーカーが増えエシカル商品が買い安くなる」と話す。

取り組みの一つ「企業のエシカル通信簿」は同じ商品ならCSR、環境活動の評価が高い企業を応援するのが狙いだ。公開情報で調べた文書を企業に送り、再質問するといったキャッチボールをした上で、市民目線で評価する。2016年加工食品5社、アパレル5社、2017年コンビニ4社、化粧品5社、宅配3社。今年は家電と外食産業で、来年3月通信簿を公表する。

評価を受けた企業からは深いところまで調べてある、理解し直すことができた、課題が明確になったなどポジティブな反応が多いという。

「ぐりちょ」はGREEN&ETHICAL CHOICEの略。商品の独自基準を作って、パームオイルを使っていないポテトチップスなどがどこで購入できるかサイトに載せている。まだ15品目約300商品と多くないが、「消費者と企業は立場が違うが、対話があって溝が埋まりエシカルが広がる」(杦本さん)という。

●エシカル消費を広めるに

とはいえSDGsの認知度は15.6%(朝日新聞)と高くない。エシカルも同様だ。「それを買えば貧困など社会的問題の解決や地球環境の改善に寄与できるという商品の背景、どの企業ががんばっているのかという情報が必要」(杦本さん)、シンポジウムの主催者である東京都生活文化局消費生活部の吉沢幸子さんは「名称は認知していなくても地産地消を意識して野菜を購入したりする消費者は少なくない。消費行動が社会に貢献できることを意識してもらうため動画やテレビ、SNSなどで普及していきたい」と話す。

エシカル消費を長く無理なく続けるには「買い物だけでなく、マイボトルを持参する、省エネなど身近に取り組めることが多い」(吉沢さん)。「買う時の目安は安い、安全性、次にエシカル。そうした買い物をSNSなどで広めれば商品の選び方が変わっていく」(杦本さん)という。日々の暮らしや買い物を通じて世界が抱える問題を解決に導く一端を担うことができるエシカル消費の一層の進展を期待したい。

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