食卓からみる世界-変わる環境と暮らし第9回 サバンナの木の恵みとともに生きる~西アフリカ・マリの食文化

2018年12月17日グローバルネット2018年12月号

特定非営利活動法人サヘルの会
榎本 肇(えのもと はじめ)

マリ共和国は西アフリカに位置し、日本の3.3倍の国土を持ち、その北半分をサハラ砂漠に覆われている。その南縁に位置する乾燥した地域「サヘル」は、アラビア語で「岸辺」を意味し、かつてアラビアの民が交易のために砂漠を渡り、初めに緑を目にすることのできた地域をそう呼んだことに由来する。

私たちサヘルの森は、1987年に「サヘルの会」として設立し、以来30年以上にわたりマリ共和国において、砂漠化防止と地域住民の生活の安定のために植林を中心とした活動を行ってきた。活動当初はマリ北部のサハラ砂漠の南縁で活動を行っていたが、度重なる治安の悪化により、現在はマリ南部の首都バマコ周辺地域で活動を行っている。

●雑穀・粉食の文化

バマコ周辺の地域は、年間降水量800~1,000mmの乾期・雨期のはっきりしたサバンナ気候地域で、農耕民たちは主食であるトウモロコシ、トウジンビエ、ミレットなどの穀物や、換金作物として綿花、落花生などを栽培している。また、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ニワトリ、ホロホロチョウなどを飼育し、役畜利用を含めた複合的な有畜農業を営んでいる。

主食の穀物は、女性たちが毎日、竪杵と臼で脱穀から製粉まで行い、その後、湯の中であくを加えて練り上げ、日本のそばがきに似ているがプリンとした喉越しの良い「トゥ」をこしらえる。これをひと口大に手に取り、さまざまな材料で調理したソースにつけて食す。

また、穀物粉はタコ焼き器をさらに広げて浅くしたような、へこみのある鉄板でパンケーキのように焼いたり、ドーナツのように油で揚げたりして、軽食として道端や市場で売っている。さらに調理して乾燥させたクスクスを携帯食として作っておき、牛乳に加えて間食として食べる。

穀物畑では、収穫後、ウシやヤギ・ヒツジなどの家畜が放されて、穀物の茎葉などの残渣を食わせる。そのふん尿が畑に還元され、次作の穀物栽培に役立つようになっている。

●畑に残された木々たち

穀物畑には多くの有用樹が残され、食用をはじめとして彼らが生活する上で大きな役割を担っている。この生産形態は、欧米でアグロフォレストリーの概念が生まれる以前から、脈々と受け継がれてきた。この地域で最も特徴的なのが、日本でもよく使われるようになったアカテツ科のカリテ(シアバターノキ、Butyrospermum parkii.)が多く残された穀物畑である。

カリテをはじめとした有用樹が多く残される穀物畑

雨期に熟した果実は畑で集められ、家の近くに穴を掘って、外皮ごとその中に保存される。畑の仕事がひと段落した雨期の終わりごろから、外皮が腐り、中から出てきた種子を油分が分離しやすくなるように、まきでいぶし、種子の中の核を取り出す。それをペースト状にし、湯の中で手で練りながら乳化させ油脂を分離する。油脂は常温であれば固形であり、バターと呼ばれる由縁である。

油脂は料理に用いる他、化粧品として日光や乾燥から守るために髪や肌に塗ったり、傷ややけどなどの薬用としても使用したりする。

西アフリカでポピュラーなスンバラ味噌を作るマメ科のネレ(ヒロハフサマメノキ、Parkia biglobasa.)もよく畑に残されている。かつてはマリのような内陸では塩は貴重で、サハラ砂漠で採れた岩塩は金と同等の重さで交換されるほどだった。スンバラ味噌はマメ科の種子を原料とするところは日本の味噌と同じだが、塩は用いず、種子を煮たものを自然発酵させるだけである。独特の強い匂いがあり、ニジェール河で捕れる魚の薫製や干し魚とともに、ソースの材料としてコクや風味を増すのに役立っている。

また、この地域では自生種は少ないが、家の近くに植えられるのがパンヤ科のバオバブ(Adansonia digitata.)である。先述したトゥをつけて食べるソースの材料として葉を用いる。モロヘイヤなどと同様に調理すると粘り気が出てきて、トゥを手にソースをつけて食べるには非常に都合が良い。ビタミンやミネラルが多く含まれ、野菜を食することが少ない人々にとっては、貴重な栄養源となっている。植えられた木に登り、葉を摘んで利用する様は、さながら空中菜園のようだ。バオバブは実も食用となり、白い果肉は甘酸っぱくラムネのような味をしていて、水に溶かしてジュースとして飲む。

食用のためバオバブの葉を収穫する

この他、タマリンド(Tamarindus indica.)、バラニテス(Balanites aegyptiaca.)、ペグー(Lanna microcarpa.)、マルラ(Sclerocarya birrea.)なども穀物畑に残され、それぞれの季節に食用の果実を提供している。日本でも知られるタマリンドは実だけでなく葉も酸味料として料理に用い、抗酸化オイルとして知られるマルラは、甘酸っぱい果汁を発酵飲料に加工し、種子をクルミのように割って中身を生食する。

●アフリカの里山の荒廃

畑に残される樹木以外にも、村周辺の森林にはさまざまな有用樹があり、生活のあらゆる場面で利用されている。こうした利用は、日本の里山に通じるところも多く見受けられる。

しかし、近年の気候変動による降雨の減少・不規則化、人口増加に伴う開発等、このアフリカの里山を取り巻く環境は大きく変わりつつある。とりわけ、都市部に向けた薪炭材の伐採は、急激な都市部の人口増加と相まって、手っ取り早い現金収入の道として住民たちの間で増加の一途をたどっている。そして幹線道路沿いの森林をことごとく破壊し、かつては散見された中高木が今では見る影もなくなった。現在残された潅木林かんぼくりんから切り出される薪炭材も、十分に生長する前に切られてしまい、年々細くなっている。そのため、ついにこれまで禁じられてきたカリテをはじめとする、いくつかの有用樹にまで伐採の手が及ぶようになっている。

また、人口増加による耕地の過耕作も里山環境の衰退に拍車を掛けている。かつては数年耕作した後には数年休耕させて植生を回復させ地力を取り戻すというサイクルだったものが、今や毎年の耕作で土地が疲弊し始めている。また、西欧から導入された牛すきによって、人々は過酷な耕起・除草の重労働からは解放されたが、自然更新の有用樹の幼木がすべてすき込まれ、育たなくなったり、全面耕起による表土の流出が起こったり、負の影響も大きい。

このまま無秩序な伐採が進めば、やがて自分たちの生活をも破壊することにつながる。そのため、私たちサヘルの森は、住民に苗木を配布し、まずは彼らの手で彼らが使う木を育てることから始めている。また、その中で見出した植林に関心のある住民に対し植林技術を学ぶ研修を行い、地域をけん引していく先駆者として育てている。そして、彼らの生活を支える里山の回復を促し、都市への薪炭供給でなく、彼らが農村で持続的に安定した生活できるような活動を目指している。

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