つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す第18回 新たなブランドとして~コウノトリれんこん

2018年12月17日グローバルネット2018年12月号

NPO法人 持続可能な社会をつくる元気ネット
鬼沢 良子(きざわ りょうこ)

●注目の成人病予防食品

お正月料理には欠かせないレンコンですが、ビタミンC、カリウム、鉄、銅、亜鉛というミネラルや食物繊維が豊富なことで、今や成人病予防としてレンコンの栄養は注目されています。レンコンは、古くから「病有る者、この蓮を食へば早く差えて験あり」と薬用としても食べられていましたが、昨今、常備野菜として扱われるほどではなくなってしまった気がします。関東の消費者には、店頭では茨城産のレンコンが主流で、たまに佐賀産を目にします。私は6月に観光で徳島県鳴門市を訪問する機会があり、レンコン料理を楽しみにしていたのですが、端境期で味わえず、10月にようやくもっちりとした密度の濃い食感のレンコンステーキやはさみ揚げ、レンコンまんじゅうを味わうことができ、願いがかないました。

鳴門市のレンコン地帯の風景(夏)

●コウノトリの餌場

 

2017、18年と2年連続で繁殖に成功した「鳴門板東ペア」(冬)。
後方はれんこん掘り取り作業用の重機
(写真提供:「コウノトリ定着推進連絡協議会(撮影:柴折史昭氏))

吉野川下流の北部に広がる低湿地は、全国第2位の生産量を誇るレンコン畑が広がる地域で、関東のレンコン畑との大きな違いは、水が浅いため採餌に適していて餌が豊富なことでした。餌を求めて2015年春に2羽のコウノトリが鳴門市に飛来しました。そのため地域では、急きょ「コウノトリ定着推進連絡協議会」が設立されました。巣を作った電柱に電流が通らないように四国電力がバイパス工事をしてくれ、個体管理や見学者のマナー対策等の努力の結果、2018年10月現在、徳島県内に最大で25羽(鳴門市周辺では24羽)が確認できています。11月中旬現在でも20羽を超えているそうです。

繁殖と餌となる生物調査には、徳島大学や地元の中学校の生徒が中心に実施し、餌となる水生生物の存在を確認していましたが、これは生産農家の協力があってこその定着と繁殖です。

10月に訪問した際、遠方から見えるコウノトリは、予想以上の大きさで、畑仕事をしている人のそばで餌を食んでいました。少しでも近くで見たい見学者やカメラマンが多く、コウノトリに近づき過ぎたり農道に駐車して迷惑をかける等、現在はマナー対策に悩まされているということでした。新たに駐車場も整備しましたが、餌場から少し距離があるため利用者が少ないのが残念です。

●若いレンコン生産者

レンコンの収穫は、気温の下がる秋から始まり、出荷までに水作業もあることから、なると金時(サツマイモ)や畑に転換される等、栽培面積と従事者が減少傾向でした。2000年には1万1,100tあった生産量が、2015年には5,380tになりました。しかし、生産者でつくる「れんこん研究会」会長の竹村さんは、「農薬使用の少ない畑は、2割程度の収獲減となるが、環境にやさしい農業の推進のため、エコファーマーや特別栽培農家が増えていて、移住も含めて若手従事者が10人以上増加し、子供たちの声が地域で聞かれるようになった」とうれしそうに話されました。若い家族連れがレンコン農家をやりたいと、直接来られたということは、高齢化が進む生産者にとって明るい希望でしょう。

●新たなブランドとしての展開

鳴門産レンコンは、京阪エリアで占有率85%の圧倒的なシェアで、価格が少し高くてもこだわりのある料亭等、ブランド品としての市場が確立しています。

兵庫県但馬の「コウノトリ育むお米」、新潟県佐渡の「生きものを育む農法」による認証米等、生物多様性に配慮した農作物市場は注目され、ネット販売もあることから拡大しています。これからは「コウノトリれんこん」として新たなブランドでも経済効果を生み出せる可能性が大きくなりました。

●地域農産物の認証制度

2015年、「地球に食料を、生命にエネルギーを」のテーマで開催されたミラノ万博に行ってきました。日本館のテーマは「Harmonious Diversity ― 共存する多様性 ―」で、コウノトリが舞う日本の原風景、夏祭り、虫の声、収穫、秋祭り、雪景色と美しい四季の移ろいを映像と音楽による紹介から始まり、農林水産業や食、食文化の多様性を紹介していました。184日の会期中、総来場者数は2,150万人、そのうち228万人が日本館を訪問し、閉幕後の地元新聞社のアンケートでは「最も好きなパビリオン」「万博を見た後で訪れてみたい国」のナンバーワンに輝きました。

万博見学後、世界遺産に登録されている五つの木樽があるピアモンテ州バローロ村のワイナリーにも足を延ばしました。バローロ村を中心とした指定地域で栽培され、イタリアワインの格付けの中で一番厳正なDOCG(統制保証付原産地呼称ワイン)規定に1981年に指定されています。他にパルマの生ハムやチーズ「パルミジャーノ・レッジャーノ」の製造工場は、ともに職人的家族経営で受け継がれ、DOP(保護指定原産地表示)という品質管理やトレーサビリティーが担保された品質認定表示がされていて、味や品質は世界中で認められています。3ヵ所の現地視察は私の心を動かし、以来3商品の大ファンになり品質保証や認証制度に関心が高まりました。

日本の食文化は、地域による違いがあり料理や食べ方に地域文化との関係が大きいと思います。コウノトリれんこんの料理方法や栄養価等、地域情報もプラスアルファした加工品の種類を増やし、消費者の心をつかんでほしいと期待しています。

日本でも農産物の作り方や品質を保証する認証制度や原産地表示に関心が高まっています。

●コウノトリ定着推進連絡協議会の今後の役割

現在の協議会は、「コウノトリの定着を推進」「コウノトリを活かした農業振興・地域振興」「コウノトリを活かす体制づくり」の3グループにさまざまな関係者が集う大所帯に拡大して頼もしい限りです。そして、地域でコウノトリが舞う郷土づくりを進めていく、それぞれの役割が明確化されています。

長年、NPOの運営に関わってきた私は、今後協議会は、関係者への的確な情報伝達と共有がますます重要であり、スピード感が求められると思います。これまでは頼もしいリーダーがいて、徳島県や鳴門市のバックアップがあり、JAや生産者、大学や野鳥研究会、ボランティア等と展開してくることができましたが、これだけ大所帯になった今、専従の事務局が必要な時ではないかと思われます。今後は、マスコミや金融機関、地域の企業との連携を図り、協賛金や寄付、助成金申請等の資金集めも必要です。月に数回、顔を合わせた会合を開催し情報の共有も必要なことから、コミュニティセンターの片隅に間借りしてでも、協議会を運営する事務局機能を整備して、同じマインドを持った人を増やし地域経済の活性化につなげていただきたいと願っています。

コウノトリれんこんのファンを関東にも増やすお手伝いをしたいと思えるのは、現地を訪問したからです。

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