NSCニュースNo. 117 2019年1月 NSCステークホルダー・ダイアローグ2018の開催 

2019年01月18日グローバルネット2019年1月号

NSC代表幹事、横浜国立大学国際社会科学研究院教授
八木 裕之 (やぎ ひろゆき)

NSCでは、会員企業と大学生・大学院生とのステークホルダー・ダイアローグを毎年秋に開催しています。今年のダイアローグは、昨年11月7日に横浜国立大学ビジネススクールみなとみらいキャンパスで開催され、活発なディスカッションが行われました。

エンゲージメントを取り巻く環境

統合報告、GRIスタンダード、パリ協定、SDGs、TCFDなどの登場やESG投資の拡大などによって企業が開示するサステナビリティ情報の体系化と深化が急速に進んでいます。これらに対応していくためには、サステナビリティ戦略・マネジメントの構築とステークホルダー・エンゲージメントが不可欠です。後者については、以前からGRIなどでも重視されていましたが、スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードなどで明示され、サステナビリティのマテリアリティ分析でも社会的価値を把握するための重要なプロセスになっています。ただし、日本企業での導入と活用はまだ緒に就いたばかりです。

NSCのステークホルダー・ダイアローグはステークホルダー・エンゲージメントプロセスを体験する試みです。今年度は横浜国立大学ビジネススクール生と八木研究室の院生が参加し、企業人、コンサルタント、公務員、元CSR担当者、留学院生などの多様なメンバーとNSC会員との間でダイアローグを行いました。参加企業は毎年ダイアローグの成果を翌年の報告書に記載し、意見に応える対応策を提示しています。なお、ビジネススクールからは、サステナビリティ・マネジメントの講義を履修する現役生に加えて、サステナビリティ領域に関心を抱く修了生も多く参加しています。

ダイアローグと第3者意見書

当日は、参加企業である東洋インキSCホールディング株式会社(以下、東洋インキ)からCSR報告書に基づきながら約90分のプレゼンテーションがあり、その後、約30分間活発に意見交換され、参加者からは後日、報告書とプレゼンについての第3者意見書が東洋インキに提出されました。東洋インキはダイアローグ開始当初から連続して参加している企業であり、院生たちも報告書や取り組みの進化を体感することができました。ディスカッションでは、経営戦略とCSRの関連性、CSVへの展開、CSR活動を浸透発展させる上での工夫や苦労話、国際的な展開などさまざまな観点から意見交換が行われました。

第3者意見書では、長期構想や中期経営計画の中でのCSRと経営戦略との統合、中期経営計画における重要課題と実行項目の位置付け、五つの重要課題とSDGsの関連性の明示、マテリアリティ分析とその策定プロセス、課題解決に向けた社会的価値を生み出す製品群、社員への配慮、協働を通じたサプライチェーンとの共存共栄、水リスク評価、社会との関わりを明確にした戦略や製品開発、報告書としてのデザイン性などを高く評価する意見が多く見られました。また、海外も含めたバリューチェーンでのサステナビリティ情報の把握、TCFDなどの新たな国際的動向への対応などについて、東洋インキのさらなる進化への期待が寄せられました。

エンゲージメントの重要性

SDGsの登場で、アウトサイドインアプローチによって企業にサステナビリティ目標を導入する重要性がさらに高まってきました。企業は同アプローチとインサイドアウトアプローチの二つのアプローチを用いて社会的課題を把握して自らの経営課題との関係性を把握する必要があります。ステークホルダー・エンゲージメントはそのために不可欠なマネジメントツールであり、その重要性は今後も高まっていくことが予想されます。大学とのダイアローグが、企業がエンゲージメントに取り組むためのパイロットプロジェクトになれるように、NSCでは今後も取り組みを進めていきます。

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