フォーラム随想太平洋島嶼国にとっての地球温暖化

2019年02月19日グローバルネット2019年2月号

自然環境研究センター理事長・元国立環境研究所理事長
大塚 柳太郎(おおつか りゅうたろう)

昨年11月、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーでAPEC(アジア太平洋経済協力)の一連の会合が開かれ、日本のテレビでも会議場や街の様子が映し出された。私はかつて、オセアニアの人びとの環境適応の調査のためにパプアニューギニアをよく訪れたので、ポートモレスビーの街は懐かしかった。

日本では、オーストラリアとニュージーランド以外のオセアニアの国々は、太平洋島嶼国と呼ばれることが多い。島嶼という言葉のせいか、これらの国々はどれもすごく小さいと思われているようである。また、どの国も赤道周辺に位置するので、非常に暑いと思われているようである。

しかし、事実は少々異なっている。太平洋島嶼国の面積は千差万別で、おおむね西から東へと小さくなる。14の独立国のうちの九つはサンゴ礁島あるいは環礁島で、1000km2以下と本当に小さい。一方、最西端に位置するパプアニューギニアは、世界で2番目に大きいニューギニア島の東半分と周辺の島々から成り、46万km2と日本より広い。

また、私はパプアニューギニアをはじめソロモン諸島やトンガなどの農村部に長期滞在したが、どこでも、真夏の日本に比べれば過ごしやすかったと感じている。

日本の気象庁と世界気象機関による2018年の気温の観測値から、東京と、私が滞在経験のあるパプアニューギニアのポートモレスビー、フィジーの首都スバ、トンガの首都ヌクアロファを比較してみた。なお、太平洋島嶼国の季節変化は、主に乾季と雨季によっており、気温はそれほど変わらない。

まず、最高気温が30℃以上の真夏日の数である。東京では1年間に68日で、7月と8月はそれぞれ26日と25日であった。言い換えると、真夏の2ヵ月間には8割以上の日が真夏日であった。

一方、3都市の1年間の真夏日は、ポートモレスビーが310日、スバが116日、ヌクアロファが91日であった。これらの日数を6で割り2ヵ月当たりに換算すると、ポートモレスビーは約52日で真夏の東京とほぼ同じものの、スバは約19日、ヌクアロファは約15日とはるかに少なかった。

また、私たちがへきえきする最低気温が25℃以上の熱帯夜の日数は、東京で7月に20日、8月に17日で、3都市の1年間の日数はそれぞれ76日、26日、37日であった。東京では7月と8月の半分以上の日が熱帯夜だったのに対し、ポートモレスビーでは約5日に1日、他の2都市では約10日に1日だったのである。

地球温暖化は、太平洋島嶼国にとって最大の環境問題であり最大の関心事と言ってよい。危惧されているのは海面上昇である。

太平洋島嶼国の海面上昇への危機意識の共有が、彼らの国際舞台への進出を加速させたように思われる。ポートモレスビーでAPECが開かれた前年には、フィジーが気候変動枠組条約のCOP23の議長国を務めたのである。ただし、フィジーにはCOPの参加者すべてを収容できる施設がないため、会議はドイツのボンで開かれている。

フィジーが議長国になったことでよく知られるのが、フィジー語で「透明性・包摂性・調和」を意味するタラノア対話の導入である。タラノア対話は、「自国が決定する温室効果ガス削減目標」を自律的に高めるというパリ協定の精神にかない、実際、パリ協定の実施指針などが採択された昨年末のCOP24まで1年間続けられ、大きな役割を果たしたのである。

また、2015年にパリ協定が採択されたCOP21の会場で、マーシャル諸島を代表してスピーチした若い女性の、「パリ協定を歴史の転換点に」との訴えが広く共感を呼んだことも思い出される。マーシャル諸島は、海面上昇による影響が最も危惧される国の一つで、海面が1m上昇すると国土の80%が沈没すると予測されているのである。

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