特集/メガスポーツイベントと環境問題自然にやさしいトライアスロン大会

2019年03月15日グローバルネット2019年3月号

世界トライアスロンシリーズ横浜大会組織委員会 事務総長
大久保 挙志(おおくぼ きよし)

今年9~11月にラグビーワールドカップ、来年夏には東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)というメガスポーツイベントの開催が相次いで予定されています。大勢の観客が訪れるスポーツイベントの開催によって、大量のエネルギー消費や廃棄物が発生しないよう、国内では持続可能な大会運営を行い、レガシー(遺産)として広く定着させるための試みが始まっています。本特集では、すでに世界中で始まっている環境対策や取り組みも紹介しながら、今後国内で開催されるメガスポーツイベントでの環境対策のヒントを探ります。

 

2009年、横浜開港150周年を迎えることから、これを記念して世界トライアスロンシリーズ(WTS)横浜大会を開催することが2007年に決定しました。日本ではあまり例のない都市型のトライアスロン大会の開催ということで注目を浴びましたが、その当時、横浜港の水質は赤潮や降雨により水質が悪化することもあり、スイム競技を横浜港で行うことに不安を持つ方もいました。

そのため、大会組織委員会では横浜港の水質改善に向けた取り組みを、市民・行政(横浜市)・企業・大学等と一体となり協働で進めてきました。

しかし、海域環境改善の取り組みを進めた結果、現在では、国際大会を開催できる水質レベルとなったこの横浜港を市民の誰もが財産と感じています。

海域環境改善の取り組み

2009年の大会開催に向け、水質環境の改善に取り組んできました。2007年から、汚濁防止水中スクリーン設置による実証実験を繰り返し行った結果、大会開催に伴う水質基準をクリアし、2009年に初めて、山下公園前海域において、2009WTS横浜大会でのスイム競技が行われました(写真①)。

 

写真1:水中スクリーン設置による実証実験を行った
山下公園前海域で行われたスイム競技

その後2010年には、公共下水道事業はほぼ100%となり、汚水の高度処理の導入により、水質環境は改善しましたが、降雨時の濁水等の影響もあり、状況は横ばい状態でした。

2013年から現在においては、市民・行政・企業等と連携した「きれいな海づくり事業」に取り組み、海域の生き物が持つ浄化能力に着目し、改善に取り組んだ結果、遊泳ができるまでに水質環境が改善し、大都市横浜における自然の海でのトライアスロン競技の継続開催が可能となりました。さらに、官民が一体となって山下公園前面海域の浅場を利用し、試験的に鉄鋼スラグを原料とする再生資材を用いた生物の生息環境を備えました。その結果、貝類や水中生物の増加が見られ、水質環境の改善が図られることが判明しました。現在も、範囲を広げて実証実験を継続しています。

グリーントライアスロン(大会1ヵ月前イベント)の開催

「自然環境にやさしいトライアスロン大会」を目指して、市民や環境団体とともに本大会のメイン会場となる山下公園内の清掃活動やスイム会場となる山下公園前面海域の海底清掃を実施するほか(写真②)、海の魅力をPRする海中映像実況中継や、貝による水質浄化デモンストレーションなど、トライアスロンを通じて環境に配慮した取り組みをより多くの方へ発信し、地球環境への意識を高めることを目的として継続的に開催しています。

写真2:スイム会場となる山下公園前面海域の海底清掃によって集められたごみ

水源林間伐材の有効活用

横浜市の貴重な水源の一つである山梨県道志村の水源林の保全に寄与する取り組みを行いました。「自然環境にやさしいトライアスロン大会」を目指して、入賞者等への記念品として、道志水源林間伐材を有効活用した、ヒノキ香る木目が一つひとつ異なる「世界にひとつだけの木製オリジナルメダル」などの作製・配布を通じて、水源林の保全の重要性および自然環境の保全の大切さを発信しています。

横浜ブルーカーボン事業との連携 参加選手自らが環境活動へ参画

本大会では、大会の運営者や参加者の会場までの移動により生じる二酸化炭素(CO2)の排出量を金額に換算し、参加者からの環境協力金でCO2をオフセットする取り組みを行っています。

併せて、ワカメの栽培等による藻場・海中林(海の森)を育成し、水質改善に努めるとともに、地産地消によるCO2削減効果に着目した「完走(乾燥)わかめ」の配布など、地球温暖化対策と海域環境の向上につなげる取り組みを行っています。

この目的は、大会の実施に不可欠な「きれいな海」を確保し、競技環境の向上につなげるとともに、環境活動に参加しているという選手自らの意識・満足度向上などが挙げられます。

なお、配布する「完走わかめ」は、水質改善が実現・実証された横浜の海で育った横浜産のワカメです。

国際標準規格(ISO20121)の認証取得

2012年大会において、イベントマネジメントの国際標準規格ISO20121(イベントの持続可能性マネジメントシステム)を国内で初めて認証取得し、環境への配慮・地域貢献(社会性)・地域経済への波及効果(経済性)等の影響に配慮したサステナビリティ(持続可能性)の高いイベントを実施し、環境と社会へ貢献しています。

また、認証取得により、各スポンサーにおいては、この大会へ参画することにより、環境へ配慮した企業とのイメージが定着し、さらに、CSR活動(社会貢献活動)の一環として横浜大会を取り上げ、スポーツを通じた社会貢献・環境活動について社員への広報活動も活発化しました。

日本初、アジア・オリンピック評議会「スポーツと環境賞」受賞

2018年8月にインドネシア・ジャカルタで開かれた第18回アジア競技大会OCA(アジア・オリンピック評議会)総会で、新たに創設された「スポーツと環境賞」において、日本オリンピック委員会より、アジア競技大会へ推薦され、「ITU世界トライアスロンシリーズ横浜大会」の環境活動の取り組みが評価され受賞しました(写真③)。

写真3:「スポーツと環境賞」をOCA会長から授与された
西山横浜市市民局スポーツ統括室長

SDGs未来都市「横浜」を目指して

これまでの水質環境の改善に向けた取り組みや、自然環境にやさしい大会運営における実績から、「トライアスロン・パラトライアスロンの街、横浜」が10年の歳月をかけ、定着しました。

今後も多くの市民・企業等と協力して、環境などの持続可能な開発目標(SDGs)への意識を高める取り組みを進めてまいります。

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