特集/メガスポーツイベントと環境問題メガスポーツイベントと気候変動への取り組み

2019年03月15日グローバルネット2019年3月号

一般社団法人 Sport For Smile 代表理事
梶川 三枝(かじかわ みえ)

今年9~11月にラグビーワールドカップ、来年夏には東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)というメガスポーツイベントの開催が相次いで予定されています。大勢の観客が訪れるスポーツイベントの開催によって、大量のエネルギー消費や廃棄物が発生しないよう、国内では持続可能な大会運営を行い、レガシー(遺産)として広く定着させるための試みが始まっています。本特集では、すでに世界中で始まっている環境対策や取り組みも紹介しながら、今後国内で開催されるメガスポーツイベントでの環境対策のヒントを探ります。

 

世界のスポーツ界では、「スポーツの社会的責任(SSR)」活動の一環として、スポーツ大会の主催団体やプロスポーツリーグなどが主体となって気候変動への本格的な取り組みが始まっている。

メガスポーツイベントの主催者がサステナビリティ戦略を実践

パリ協定以来の重要な節目として注目された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第24回締約国会議(COP24)は、スポーツ界にとっても意義深いイベントとなった。「スポーツを通じた気候行動枠組み(Sports for Climate Action Framework)」を採択し、スポーツ界が一丸となって気候変動対策に取り組むというコミットメントを国連の公式会議で初めて表明したのだ。

中でも、IOC(国際オリンピック委員会)は、グローバルスポーツ界の取り組みをリードすることを公言した。他に、2024年パリオリンピック組織委員会やFIFA(国際サッカー連盟)、世界セーリング連盟、フランステニス連盟などの各国・地域のトップスポーツ機構が署名し、日本からは東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(TOCOG)も名を連ねた。

「スポーツの力」を最大限に活用 ―ファンを動かす―

枠組みの目標は大きく分けて二つあり、一つはグローバル・スポーツ界自身が持続可能な事業運営をすること、そしてもう一つは、「スポーツの力」を活用し、「グローバル市民の気候変動に対する意識と行動をけん引すること」とされている(UNFCCCニュースより抜粋)。この後者の目標が特筆すべき点だ。UNFCCC事務局長も「皆さま(スポーツ界)が全世界でプラスの変化をけん引できるのは、皆さまが世界中で大きな信頼と道徳的なリーダーシップを確立しているからであり、また、スポーツが社会のあらゆる断面に浸透しているからでもあります」(同ニュースより抜粋)、とスポーツの影響力に期待するコメントを述べている。

欧州がリードするスポーツによるサステナビリティ推進活動

COP24以前にも、欧米のプロリーグやチームがサステナビリティを推進する動きは活発に見られた。

例えば、私が15年ほど前にインターンをしていたNBA(米国のプロバスケットボールリーグ)では、数年前からNBA Greenというイニシアチブを立ち上げてファンへの啓発活動を実施しており、人気選手のバブルヘッド(首振り人形)が緑のユニフォームを着てバスケットボールの試合をしながら、地球温暖化防止のために「電気はこまめに消そう!」などとファンに呼び掛けるプロモーションビデオを公開した。

また、アリーナ運営においても、米国カリフォルニア州サクラメントにある、LEED(国際的な建築物の環境性能評価制度)の最高評価レベルであるプラチナ認証を取得している「ゴールデンワンセンター」(写真)は、全米初の太陽光だけで稼働するアリーナで、廃材を使用しての建設というだけでなく、最新の環境テクノロジーを導入し、空調設備から水の使用まで省エネ設計になっている。

米国サクラメントにあるゴールデンワンセンター。5〜6階くらいの高さまで全開閉できる窓がある。

COP24の約1年前には、UNFCCCが主催しFIFAやUEFA(欧州サッカー連盟)などグローバルスポーツ界のトップリーグ幹部が集う気候変動対策のためのワークショップが開催され、日本からJリーグが参加した。

そして、IOCやFIFAなどの国際主要スポーツ団体も設立に関わり新しくできたイニシアチブ「SandSI (Sport and Sustainability International)」の初総会は、2018年5月にオランダでのスポーツとサステナビリティに関する国際会議と同時開催された。Sport For SmileはSandSIに日本から唯一の創立団体として加盟しており私も出席したが、グローバルスポーツ界の気候変動問題に対する大きな「危機感」と「アクションへのコミットメント」を感じた印象的な会議だった。

IOCのサステナビリティ部門トップが自ら登壇し、「サステナビリティを必須事項としてオリンピック大会運営のあらゆる側面で実践していく」ことを明言したり、FIFAのサステナビリティ部門トップは、すでに実践している2022年カタールW杯に向けての組織委員会との具体的な取り組みについて紹介した。

UEFAにおいては、2020年の欧州選手権を観戦するファンの会場への移動時に排出する二酸化炭素(CO2)量の総計をすべて買い取る(推定5,000万円超)と宣言するというレベルにまで到達している。

スポーツだからこそできること

欧米では、なぜここまでのことができるのか。その根底には、SSRへの意識とコミュニティからのニーズがある。実際、欧米のプロチームのほとんどが、従来の慈善活動に加え、気候変動に関する啓発活動や持続可能な試合運営を実践している。

そうすることが、コミュニティから求められており、チーム側も取り組みに対する迷いはない。そして、日本ではとかくコストセンターとして認識されがちなアリーナのサステナビリティ整備も、2年ほど前に取材したNBAサクラメント・キングスのCEOは「長期的には利益を生む投資」と捉えている。

このような動きを加速させるために、プラットフォームの存在は大きい。現時点では、世界で主要なものは、米国ベースでスタジアム・アリーナ運営の気候変動対策に注力する「グリーンスポーツアライアンス」と、先にご紹介した欧州ベースのSandSIの二つだ。前者は全米メジャーリーグのすべてと、各リーグ所属チームのほとんどが加盟しており(2017年時点でNHL(アイスホッケー)とMLB(野球)全チーム、NBA(バスケットボール)、NFL(アメリカンフットボール)、MLS(サッカー)はそれぞれ73%、56%、36%)、後者はオリンピックムーブメントを中心に気候変動以外の人道系も視野に入れてグローバルに活動を展開している。

日本の課題と期待―スポーツ界の団結力を示す機会として―

では日本はどうかというと、TOCOGがオリンピック大会組織委員会として初めて開会式・閉会式の合計4日間のCO2オフセット宣言したこと等を除けば、今回のCOP24での枠組みに署名したトッププロリーグもなく、世界レベルで認められる活動としてはまだこれからという状況は否めない。しかし、例えば、Jリーグの横浜F・マリノスは、WWFジャパンと連携してアースアワーに選手を登場させたりするなど、少しずつ良い動きも出てきている。

ただせっかくなら、粛々と活動するだけでなく、ビジョンを掲げコミットメント(公言)をしてほしい。そして、COP24での枠組みにある通り、「スポーツの力」を活用して、ファンや関係機関のアクションを喚起しながら、スポーツ界が国を超えて一丸となって取り組む姿勢こそが、2020年オリンピック大会の真のレガシーにつながる。

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