ホットレポート「Society5.0」と「循環経済」に立脚した地域循環共生圏の構築新しい時代の環境政策を環境事務次官が寄稿

2019年03月15日グローバルネット2019年3月号

環境事務次官
森本 英香(もりもと ひでか)

環境問題が地域から地球へと大きく転換した昭和、平成の時代に、環境基本法の策定、環境省の発足、京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締約国会議の議長秘書官など、環境政策の重要な節目で要職に携わった森本英香環境事務次官に、新たな時代の「環境と経済の好循環」をベースにした国づくりについて寄稿していただいた。森本次官は環境問題の解決を主流にした地域循環共生圏の構築により、生活の質を向上させる新しい成長が実現するとしており、環境省のトップが描く青写真には新時代の環境政策の希望を見ることができる。

「環境問題」という地球の危機への対処~「地域循環共生圏」の実現~

環境問題は社会・経済の変容と表裏一体です。今日では「環境と経済の好循環」という発想の下で環境政策をデザインすることが不可欠となっています。とりわけ、高度情報化の進展、資源大量消費構造の限界を背景に、「Society 5.0」(科学技術基本法に基づく未来社会の姿。後述)、「循環経済」が提唱されており、両者を積極的に取り入れた環境政策を展開する必要があります。

その実現のためには、まず現場となる「地域」に着目する必要があります。地域の多様な資源を生かし、資源循環・自然共生・脱炭素の統合的実現と地域の経済・社会問題の同時解決を図ることが必要です。

これが、「地域循環共生圏」です。すでに各地で萌芽といってもいい取組が広がっています(「平成30年版環境・循環型社会・生物多様性白書」)。

自立・分散型の「地域循環共生圏」群が互いに交流・補完し、支え合うことで、環境・経済・社会問題の同時解決とともに「強靭で多様性に富んだ社会」を実現することが可能となると考えています。以下では、なぜそう考えるか、また、その実現のために何が必要か考えてみたいと思います。

地球の自己修復能力を超えた人間活動

数十億年をかけて地球は進化してきています。今日の人類を含め生物が生存し得る環境を形作ったのは、他ならぬ植物を筆頭とする生物自身です。

しかしながら、人間の活動は、この精妙な地球の生態系バランスを崩しています。地球の持つ自己修復能力を測る概念として「環境容量」という考え方がありますが、今日、すでに人間の活動は環境容量を超えています。

昨年の夏、皆さんも実感されたと思いますが、温暖化の影響は100年後ではなく目の前のものになっています。風速50mを超える台風、米国で50℃を超える猛暑など、被害も大きくなってきています。ダボス会議(世界経済フォーラム)でもここ数年、気候変動は最大のグローバルリスクと認識されています。

海に目を転じると、年間800万t以上のプラスチックが海に放出され、北極海・南氷洋を含む世界中の海がいわば「プラスチックの海」と化しており、魚、カメ、クジラなどの生き物の生命を脅かしています。

生物多様性は非常に広範な課題です。地球上には500万から3,000万の種がいると言われていますが、現在は「第6の大量絶滅時代」と呼ばれるほど絶滅の速度はどんどん加速しています。

それでは、これらの問題にどのように対処していけばいいでしょうか。

もともと、環境政策は、「人と環境を守る」を基本とし、環境問題に起因するさまざまなリスクから社会を守る「リスク管理」を任務としています。

1971年に環境庁として出発して、当初、「公害規制」を基調とした行政を進めてきました。これは、当時の公害等の状況や社会状況を反映しています。「四日市ぜんそく」や「水俣病」など特定の地域で人の命や健康に関わる問題があったからです。

今日、環境問題の質は大きく変化しました。地球温暖化問題を代表に、地球規模の危機として捉えられる問題が増え、また、多くのステークホルダーが加害者として、また被害者として関わり、経済社会構造に関わり、また、世界規模で取り組まなければ解決することができません。

社会状況も大きく変化しています。世界では人口増による環境圧力は引き続き高まるとともに、経済のグローバル化が進む一方で、保護主義・一国主義の台頭による紛争の拡大が見られます。日本では人口減少、高齢化、過疎化と国力を減ずるファクターが増えています。

また、IoT(モノのインターネット)、AIに代表される高度情報化、バイオ技術の進展による遺伝子改変という人間の尊厳に関わる技術の進展もあります。

脱炭素社会に必要な持続的な社会変革

こうした今日の問題構造や経済社会の状況、さらには科学技術の状況を踏まえ、巨大化、激甚化した環境問題に対処していく必要があります。今日的状況に応じた環境政策の「デザイン」が重要です。

社会はどんどん変化する「動的」なものだと思います。とりわけ、情報化、インターネットの登場以降その変化は加速し、変貌の幅は大きくなっています。この社会の自律的変化、流れに合わせて、さまざまな取組を通じて「目標」(環境問題の解決という目標)に接近する必要があります。

「脱炭素社会」を例に取りましょう。今日の温暖化の危機的状況から、世界全体で化石燃料の使用を劇的に減らして原因物質である二酸化炭素の排出を「実質ゼロ」にする「脱炭素社会」を実現する必要があります。

「脱炭素化」は一朝一夕ではできません。2050年までに80%削減というわが国の目標は一種の社会変革です。社会全体の変化を「持続」させていくことでしか達成できません。そして、変化を持続するためには、環境問題と経済社会問題の同時解決(人を生かしている環境、生物圏を含む環境にとってプラスのものとし、人の生活の質も高める「新しい成長」)を実現することが必要です。

社会が急速に変貌するダイナミズムをしっかりと観察し、さまざまなツールを動員して、関係するステークホルダーが「脱炭素化」という目標の達成に向けてたゆまぬ変革に参加するように誘導しなければなりません。脱炭素化に向けた環境政策をそういうものとして「デザイン」する必要があります。

高度情報化を通じて環境問題の解決を図る社会を目指す

今日、ますます便利な社会になっています。情報化の進展は驚異的です。IoTの普及により、あらゆるモノがインターネットにつながるとともに、AI等の発達によりモノや技術、能力や潜在的価値などに関する大量の情報を瞬時に解析することが可能となりました。

しかし、高度情報化「だけ」では、貧富の差は拡大する可能性が高くなります。情報化が進み便利になることが、社会を豊かにする、生活を豊かにすることにつながるわけではありません。

わが国は「Society 5.0」を提唱しています。「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステム」により、「経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会をつくる」ものとして提唱しています(図1)。

図1:Society5.0 とは

「高度情報化」はツールであってツールに過ぎません。ただ非常に強力なツールでもあります。これまでできなかったことを可能にするとともに、多くの時間と労力を要したものを瞬時に実現する力もあります。このツールも活用し、人類の英知を結集して、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を「つくっていこう」という能動的な「危機意識」が、Society 5.0の根底にあります。

今日の環境問題はこの「社会的課題」の最たるものです。17ある持続可能な開発目標(SDGs)の多くが環境問題に関するものです。Society 5.0は、高度情報化を通じて環境問題の解決を図る社会を目指すものでもあるのです。

新たな資源に依存しない循環経済システム

循環経済(サーキュラー・エコノミー)は、既存の製品や遊休資産を活用することなどによって、できるだけ新たな資源に依存しないようにする経済システムです。

リサイクルやリユースだけでなく、カーシェアリングなども循環経済の技法に含まれます。細かく分けると、「原材料の循環」「資源再生」「製品寿命の延長」「所有からシェアへの転換」、そして「製品のサービス化」が循環経済の技法に含まれます。

重要なことは、循環経済は、こうした技法を使って「資源を大量に使って製品を作り、消費し、廃棄する」という従来のモデルから、「環境容量を超えない活動を通じて持続的な成長を実現する」新しい成長モデルへの転換を目指していることです。

循環経済の普及は、IoTの普及やAI等の発達と密接に関係しています。たとえば、循環経済の一類型であるシェアリング・エコノミーは、「個人等が保有する活用可能な資産等(スキルや時間等の無形のものを含む)を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動」であるとされていますが、まさにこの実現は、IoT、 AIの存在によって可能となったものです。

Society 5.0の目指す「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と循環経済の目指すところの「競争力向上と資源多消費型経済からの脱却」は非常に近い関係と考えます。

環境問題という地球の危機への対処 地域循環共生圏の実現を閣議決定

環境と経済の好循環、環境と経済・社会問題の同時解決、生活の質を高める「新しい成長」をどのように実現していけばよいでしょうか。「Society 5.0」や「循環経済」が提示するさまざまな技法も導入して、環境問題の解決に資する社会の変革に接近するにはどうしたらよいでしょうか。

環境省では、「地域」に着目して、新しい概念として「地域循環共生圏」(Circulating and Ecological Economy(Localizing SDGs))を打ち出しました。閣議決定もされています。

「地域循環共生圏」は、環境施策のあらゆる側面(資源循環、自然共生、脱炭素)を統合し、合わせて地域の経済・社会問題の解決に資することを通じて、生活の質を向上させる「新しい成長」を目指す概念です。具体的には、各地域が、それぞれ固有の資源(風や太陽光、森林や生物、人や文化、歴史や景観等)を生かし、また、IoT、AIといった最先端の情報技術を駆使することで、持続的に循環する、自立・分散型のエリア(地域循環共生圏)を形成することを目指します。

そして同時に、そのようにして形成された「地域循環共生圏」群が、互いに交流・補完し、支え合うという「強靭で多様性に富んだ社会」づくりを目指すものです。

かなり欲張りな概念ですが、その根底には、環境問題を含むさまざまな問題が今日では絡み合い関係し合っているという認識、地球の限界を示す今日の環境問題への対処を通じて持続可能な経済社会を構築することが、人間の尊厳を回復し生活の質を向上させるという確信があります。そしてその実践のためには「地域レベル」、すなわち、足元から考え始めることが現実的であると考えています。

「地域」「圏」というと、閉じた空間、「自立的」というと独立、孤立という誤解を生むことがあります。しかし、「地域循環共生圏」は個性、自律性を生かしつつ、広く世界とフィジカルにもサイバー空間でもつながっていることが、極めて重要な要素です。エネルギー、物流、人流、そして情報等さまざまなものが自由に行き交います。自立しつつ、補完して交流することが「地域循環共生圏」の基本となるコンセプトです。

地域にある潜在的資源を活性化させ、経済的価値と雇用を生み出し持続的な成長につなげる

地域に着目して、「地域循環共生圏」の形成に着手するとき、

  1. 地域にあるさまざまな資源を持続的かつ最大限活用するという視点
  2. IoTやAIといった最先端であって機能的にも資源効率的にも画期的な能力を有するノウハウを活用する視点
  3. サイバー空間・フィジカル空間を通じた、密なコミュニケーションが「共創」関係をもたらすという視点

が重要です。

そしてそれらを可能にする、容易にする技法として、IoTやAIは極めて重要です。Society 5.0が言うところの「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステム」が、さまざまな可能性を発現し、さまざまなイノベーションを連鎖的に進め、「地域循環共生圏」の形成に大きく寄与します。

また、「地域循環共生圏」は、地域にあるさまざまな潜在的資源(言い換えれば「無駄」)を活性化させ、かつ、経済的価値と雇用を生み出し、持続的な成長につなげるというコンセプトです。言ってみれば「循環経済」の考え方を地域で実践するものと考えることができます。

「循環経済」におけるシェアリングに代表される「共有」「協働」「共創」といった考え方は、地域におけるコモンズ( 入会いりあい)の考え方にも通ずるものでもあります。

Society 5.0と循環経済の技法を活用した「地域循環共生圏」のパワーアップ

すでに各地で、環境対策を出発点として地域の経済社会問題の解決にチャレンジしている、地域循環共生圏の萌芽といえるさまざまな取組が始まっています(事例を環境白書に掲載)。

地域循環共生圏は「循環経済」の地域実践編であり、「Society 5.0」の地域づくりにも当たります。いずれも自然発生的にできるものではなく、「経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」の実現という明確な目標を持ち、しっかりしたストーリーの実現に向けてまい進する、わくわくする「ものがたり」を描いて初めて、多くのステークホルダーの参加を得て取り掛かることができるものです。

さまざまな特性を有した地域の取組が、「Society 5.0」や「循環経済」の技法も活用して、今後、どのように発展するか、想像してみましょう。

〈再生可能エネルギーを出発点に〉

これまで各地で、太陽光、風力、バイオマスエネルギーを活用し、地域主体で出資して「地域エネルギー会社」を設立し、融資を得て、発電し、電力を販売あるいは自家消費し、燃料代を節約している例が増えています。これを出発点として、自律的スマートグリッド(AIを使って電気の需給全体をコントロール)を形成する、電気自動車(EV)も動く「蓄電池」として活用したネットワークを構築することが考えられます。

さらに、このようにネットでつながっていれば、EVのシェアリングも可能であり、自動走行技術を使えば買い物難民を支援できます。また、出資住民への配当は地元産品の生産に役立ち、地域会社のもうけは地域還元、高齢者、子育て支援へとつないでいくことができます。

〈バイオマス利用を出発点に〉

森林バイオマスを出発点として考えると、広大な町有林を60年間で循環利用するために60分割し、毎年60分の1を計画的に伐採、植林し、木材のカスケード利用(注:建材等の資材として利用した後、ボードや紙等の利用を経て、最終段階では燃料として利用すること)に加えバイオマス発電熱供給を行い、市街の中心地の地域熱供給を軸にしたコンパクト拠点にキノコ工場を作っている北海道下川町の例があります。

さらに、緩やかな集住化を環境負荷の小さい手法で実現する一環として、市街地から離れて住む高齢者にドローンを活用して日用品を配送したり、インターネットを活用した遠隔診療を導入したり、太陽光・風力+蓄電池を活用したグリーン自動モビリティで中心地にオンデマンドで送り迎えすることが考えられます。また、コンパクト拠点に診療所、コンビニ、介護施設を集め、離れて住む高齢者の「第二の自宅」を造って、集住化のインセンティブを付けていくことが考えられます。

〈資源循環を出発点に〉

すでに、食品ロスをなくす観点も入れて、「子供食堂」や「地域食堂」の取組があります。子供のケアをしたい人の活躍の場ともなり、貧困あるいはネグレクトされた子供の面倒を地域で見る場、コミュニケーションの場にもなっています。これをさらにサイバー空間を活用して発展させれば、不要品の効率利用、貢献できるスキルのある人の活躍の場を提供することができます。

さらに、地域農業で出た、出荷しない野菜や果物の活用による地産地消、洋服や児童書、おもちゃなどの個々人の需要にきめ細かく対応したリユース。時間に余裕がある大学生や定年後のボランティアが子供の勉強を見るなど、地域学習や地域コミュニティの復活も考えられます。

〈生態系保全を出発点に〉

トキの保護のように、「自然環境への放鳥」のために、低農薬導入、畔の除草剤不使用、冬水田んぼなどの努力が進められました。ブランド化(トキ米認定)が進む効果も出ていますが、さらに負担を減らしメリットを高めるために、里地・里山の管理にIoTやAIを導入することが考えられます。たとえば、日立製作所の神奈川県秦野市のプロジェクト(日立ITエコ実験村)では、農産物の生育環境管理をITで行い、米の生産管理、水管理、生き物の生息環境管理や鳥獣被害対策にIoTシステムを開発し実用化しています。

こうした情報集積は、生態系管理の高度化、農業生産の効率化に役立つとともに、Eco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)、つまり生態系を活用した防災地域づくりにも役立ちます。

「地域循環共生圏」はさまざまな文脈で有用です。環境政策の文脈で言えば、脱炭素、循環、共生の3分野の「統合」による地域づくりを進めるものです。

それだけではありません。環境対策を進めることが出発点となって、

  • 自律分散型で天災リスクに柔軟に対応できるタフなエネルギーシステム
  • 地域の経済・社会問題の解決にも役立つ多様なビジネスの創出
  • 人に優しく魅力ある交通・移動システム
  • 健康で自然とのつながりを感じるライフスタイル
  • 自然生態系の力や地域伝統の知恵も活用した災害に強いまち

といったことを一体的に進めることで新しい価値を生み出すとともに、地域課題の解決がビジネスを生み、新たな成長をもたらします(図2)。

図2:地域循環共生圏の超概略図

地域循環共生圏の実現による社会構造の多様性・強靭化の確保

こうした方向性に共鳴して、環境金融、ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業への投資)を呼び込むことも考えられ、現在、地域における環境金融の投資先が限られる中、こうしたビジネスが投資先として台頭することで真の経済循環を実現できます。

科学技術との関係で言えば、技術の便利さに踊らされるのでなく、社会問題の解決に役立つようなデマンドサイドの技術(「Society 5.0対応技術」)を開発していく必要がありますが、その絶好の技術ニーズを示すものと言うこともできます。

もちろん、地域循環共生圏が実現すれば、結果としてSDGsの実現が可能となります。SDGsというのは達成しようと思ってもできるわけではなく、こうした具体的・包括的・包摂的な構想の実現によって、結果として実現できるものだからです。

地域レベルで熟成されたニーズに対応した技術・ビジネスパッケージは、非常に付加価値が高く、同様の課題を有する海外でもこうした経験を基に地域課題解決ビジネスを進めることで大きなビジネスチャンスが生まれます。

「地域循環共生圏」については、「こうあったらいいな」という将来像を示すと同時に、「こういった地域づくり、社会づくりをしなければ人類の存亡に関わる」、必ず実現しなければならないものと考えています。

その理由は次の通りです。

今日、気候変動を筆頭とする地球環境問題のリスクが高まっています。また、グローバル化とともに高度情報化が進む結果、社会はどんどん均一化し、また、相互に大きく影響し合うことになってきています。端的に言えば「不安定化」しています。

こうした地球環境問題やグローバル化の進展に伴う不安定化等のリスクに耐え得る強靱な社会構造を目指すためにはどうすればいいでしょうか。

一言で言えば「社会構造の多様性」が必要です。各地域を、固有の資源を持続的に活用し、またIoTなど高度技術も活用して、それぞれの個性を生かして「自立的(できるだけ域内循環)」で「(環境負荷も含めた)外部に負担をできるだけかけない」ものとすること、そうして構成された多様な「地域循環共生圏」群が、さらに全国・世界と「サイバー空間とフィジカル空間で」支え合うことで、さまざまなリスクにしなやかに対応する「多様性を持った社会構造」を形成していくことが可能となります。

さまざまな分野の人びとが共通の思いを持って社会システムの絶え間ない前進を図る共創が必要

「地域循環共生圏」という概念は生まれたばかりです。実践事例も、その萌芽という段階です。今後さらに深化し、実装されていく途上にあります。

深化、実装してくためには、地域課題やその要因を「見える化」していくこと、「見える化」した課題とそのソリューションであるテクノロジーやビジネスとのマッチングを図ることが必要です。また、新しいビジネスや地域ビジネスの隆盛のためには働き方や雇用形態、その他の社会変革も同時に進めていく必要もあります。

この取組が、脱炭素、資源循環、自然共生という三大目標に向けて、さまざまな社会課題の解決にも向けて、持続的に進化する地域社会像であるという確信、「多様性を持ち強靱な社会」の構成要素であるという確信を持ちますが、その着実な実現のためには、それをトレースする指標、物差しが必要です。 

また、その実現に向けて取り組む人たちを支える羅針盤となるガイドラインも必要です。もとより、実装されるニーズに対応した技術や社会システムの開発を支援する資金や研究も重要です。

今日の危機的状況にある環境問題に対処するには、「地球規模で考え地域レベルで行動する(Think Globally Act Locally)」という、いわば当たり前のことを実践するしかありません。「地域循環共生圏」というのは、まさにそのための活動であると同時に、「Society 5.0」と「循環経済」のクロスロード、地域での実践にも当たります。

そして、その実現には「オープンなコミュニケーション」、言い換えると、行政、住民、企業、NGOに加え、研究者、技術者、投資家などさまざまな分野の人たちが共通の思いを持って事例を積み重ね、技術や社会システムの絶え間ない前進を図っていく、持続的な発展を進めていく「共創」が必要であると考えます。

森本 英香(もりもと ひでか)さん

大阪府出身。東京大学法学部卒。1981 年に環境庁入庁。公害対策基本法から環境基本法への改正作業に加わり、環境アセスメントの新規導 入に尽力。環境省と国連大学が共同で運営する地球環境パートナーシッププラザ(東京・青山)の設立を推進。NGO 活動を支援する地球環境基金の創設にも関わるなど、民間団体との交流に積極的に取り組む。

 原子力規制庁次長、環境省大臣官房長などを経て2017 年9 月より環境事務次官。環境省が全省で取り組む「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトの推進役を果たしている。

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