IPCCシンポジウム「気候変動ヘの適応」2006年IPCCガイドラインの2019年改良と衛星等による大気観測データを用いた温室効果ガスインベントリの検証について

2019年04月15日グローバルネット2019年4月号

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、昨年10月に「1.5℃特別報告書」を公表し、今年5月には、京都議定書誕生の地である京都市で、第49回総会を開催します。総会では、パリ協定の実施にとって重要な、各国の温室効果ガス算定のためのガイドライン方法論報告書の改良版が議論される予定です。
本特集では、2019年2月19日に都内で開催されたシンポジウム「気候変動への適応」の基調講演とパネルディスカッションの概要を紹介し、さらにIPCCガイドラインの改良と大気観測データの活用について、環境省・宇宙航空研究開発機構と共同で地球観測衛星プロジェクトを推進している国立環境研究所衛星観測センターの担当者の寄稿を掲載します。

国立環境研究所 衛星観測センター
松永 恒雄、シャミル・マクシュートフ

各国が国連に提出する温室効果ガスインベントリ(以下、インベントリという)は、2006年IPCCガイドライン(2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories)に従い、主に各種産業統計データや排出係数に基づく積み上げにより作成されている。これに対しその精度を担保するため、インベントリとは独立の手法、データによる透明性/客観性のある検証がなされることも強く期待されている。

例えば英国、スイス、豪州では3~4ヵ所の地上観測点の大気観測データから推定された排出量推定値を国連への報告に活用している。英国の温室効果ガスインベントリ報告書(NIR、2017年4月)※1では、同国の気象庁が開発したInTEM(Inversion Technique for Emission Modelling)システムに地上観測点の大気観測データを入力した結果より、インベントリがHFC-134aの排出量を過大評価している可能性があることが述べられている。また、メタンや亜酸化窒素、その他のフロン類についてもインベントリとInTEMの比較結果が示されている。

さらにインドは2018年12月に公表した隔年更新報告書(BUR)※2において、インベントリの品質保証/品質管理(Quality Assurance /Quality Control, QA/QC)の一環として、わが国が2009年に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)のデータを含む温室効果ガスの濃度データを利用している。GOSATや航空機、地上観測点で測定されたメタンの濃度データから大気輸送モデルを使ってインドからのメタンの排出量を月毎に算出し(Ganesan et al., 2017)、その結果がインベントリと誤差の範囲で一致することや、2010~2014年にかけてインドのメタンの年間排出量がほぼ変化していないことを示した※3。また、これらは広く使われている全球インベントリであるEDGAR(Emissions Database for Global Atmospheric Research)と比べて30%程度少ないことも示された。

現在最終段階の作業が進められている2006年IPCCガイドライン2019年改良(方法論報告書)は、主に2006年以降に得られた科学的知見に基づいて2006年IPCCガイドラインを更新・追加・精緻化することを目的とするものであるが、衛星データの利用についても検討されている。とくにVolume 1: General Guidance and ReportingのChapter 6: Quality Assurance/Quality Control and Verificationでは、大気観測データを用いた排出量とインベントリの比較に関する記載等について議論が行われている。

一方、現在ではGOSATに加え、米国のOCO-2、中国のTanSat、欧州のSentinel-5p、そして昨年打ち上げられたGOSAT-2など複数の温室効果ガス観測衛星が運用されており、またこれらの後継衛星のプロジェクトも開始されている。このため2019年5月に京都で開催されるIPCC総会における2006年IPCCガイドライン2019年改良の承認以降、衛星等による大気観測データを用いたインベントリの検証がさらに盛んになるものと考えられる。

本文中で紹介した報告書:

※1: イギリスの温室効果ガスインベントリ報告書(NIR、National Inventory Report、2017年4 月) Annual Report for Submission under the Framework Convention on ClimateChange https://unfccc.int/files/national_reports/annex_i_ghg_inventories/national_inventories_submissions/application/zip/usa-2017-nir-14apr17.zip

※2: インドの隔年更新報告書(BUR、Biennial Update Report、2018 年12 月) Second Biennial Update Report to the UNFCCC https://unfccc.int/sites/default/files/resource/INDIA%20SECOND%20BUR%20High%20Res.pdf

※3: A. L. Ganesan et al., Atmospheric observations show accurate reporting and little growth in India’s methane emissions, Naature Communications, 8, 836(2017).

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