ホットレポート資源循環から考える地域でのSDGsの実現

2019年04月15日グローバルネット2019年4月号

ジャーナリスト
服部 美佐子(はっとり みさこ)

エコタウン、地域循環圏から地域循環共生圏へ

2018年4月に閣議決定された「第五次環境基本計画」で打ち出された環境施策である「地域循環共生圏」。地域の活力を最大限に発揮し、環境で地方を元気にしていくとともに、持続可能な社会をつくることが狙いだ。これをテーマに今年2月、環境省主催のシンポジウムが開かれた。

同省環境再生・資源循環局は「入り口は資源循環だった」として、「1990年代からゼロエミッションと地域活性化を目的として各地で『エコタウン』の取り組みが始まり、20年の実績がある。2000年からは未活用の循環資源を最適な規模で循環させる『地域循環圏』の取り組みに着目してきた」と振り返る。

エコタウンの延長線上にある地域循環共生圏は、「地域資源の活用を促進することで、温室効果ガスの排出抑制や資源採取に伴う生態系の損失防止など、低炭素社会、自然共生社会の形成につながる」。

国立環境研究所社会環境システム研究センターの藤田壮センター長も「エコタウン、地域循環圏、地域循環共生圏は一体」と話す。「エコタウンに26の都市が指定され、これだけの集積は世界に類を見ない。経済産業省が行ったエコタウン施設(24都市60施設)の調査によれば、600億円の補助事業に対して1,650億円の投資効果がある」。

地域でのSDGsに向けた取り組み

廃棄物の発生抑制やリサイクルの推進を通じ資源循環型社会の構築を目的とするエコタウン事業。1997年、川崎市とともにその第1号に選ばれた北九州市(人口約94万人)は「市の認定基準に合う事業者を支援し、市内全体に26社が27の多種多様なリサイクル事業を展開している」と話す。

響灘地区に事業者が集積したことでリサイクル残渣を他の工場で資源として活用したり、技術を共有したりできる。地域経済の活性化だけでなく、年間43.3万tの二酸化炭素(CO2)削減という環境効果も見逃せない。

さらに大量に発生するものや未利用のものの資源化に取り組む。その一つが市中央卸売市場から出る青果物残渣のリサイクルだ。2017年度環境省の「低炭素型廃棄物処理支援事業」として、可燃物として焼却処理していた市場・場外の廃棄物のうち、青果物残渣を分別して、たい肥化装置で一次発酵し、たい肥化業者である楽しい(株)で、二次、三次発酵する。完熟たい肥で作る農産物は市内で販売されている。2018年度からは市内59事業者が参画し、5,840tの食品廃棄物をリサイクル、250tのたい肥を製造しており、福岡全域での展開を検討中だ。他に古着を自動車内装材にリサイクルし、九州の主要自動車メーカーに供給する取り組みなど、環境技術が集まる北九州市ならではだ。「グリーン成長都市」を掲げる市は、低炭素で安定したエネルギー供給を地域で実現するため、響灘地区の特性を生かした風力や高効率火力発電を柱に、地域エネルギーの拠点化も進めている。

北九州市と対照的な小規模自治体の鹿児島県大崎町(約13,000人)は住民参加による低コストのリサイクル事業(大崎システム)に取り組む。2004年頃満杯になるはずだった市の処分場は、資源分別により、埋め立て量が1998年4,382tから2017年708tと84%削減、まだ40~50年余裕がある。

11年連続全国1位、83.4%のリサイクル率は、住民、企業、行政の連携の賜物だ。加入率90%の自治会を中心にした27品目分別により処理経費を削減。全国平均1人15,326円(2016年度)に対し、大崎町7,550円と、約2分の1に抑える一方、総額1億3,000万円もの資源ごみ売買益をもたらした。近隣自治体合わせ10万人分の資源ごみを扱う「(大崎町)そおリサイクルセンター」では40人ほどの雇用が生まれている。またJICA事業として、インドネシア3地域に大崎システムの支援を行っており、資源の売却、雇用創出、住民主導の資源分別や安否確認などと合わせ、17の持続可能な開発目標(SDGs)の視点から再定義できる。町は第2回「ジャパンSDGsアワード」の副本部長(内閣官房長官)賞を受賞、今年1月SDGs推進宣言も行った。

SDGsを実現するための地域循環共生圏

ただし今の制度のままではエコタウンには限界がある。「地域循環共生圏には循環品を受け入れる生産、資源の地産地消、地域ごとのグリーン調達など、総合的な生産・消費システムが求められる。つくる責任つかう責任だけではなく、経済、気候変動、パートナーシップ、エネルギーなどシナジー効果を発揮すればSDGs的になる」と藤田センター長は言う。

SDGs的な政策を取り入れることで人口減少が止まるなど社会的価値が生まれるか、「見える化」も重要だ。例えば川崎市は市内のさまざまな工場が持つボイラーや発電所を使うと、人口の約半分の電力が地産地消できる。藤田センター長は「電気事業法など制約はあるが、(環境省には)エコタウンの工場から植物工場や地域住民に熱を供給する地域循環共生圏の新しいエネルギーの仕組みを作ってほしい」と要望する。

早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科の小野田弘士教授は「電力は遠くへ運べるが、熱は近くで使うのが効率的、循環資源は質と量によって違う。さまざまなエネルギーを効率的に組み合わせることが重要」と話す。

例として、産学官が連携した生ごみのメタン発酵プロジェクトを紹介。発酵液処理は自治体の下水処理施設を活用、廃プラスチックや汚泥はセメント工場で受け入れるといった産業間連携インフラを使った実証実験を経て、2018年埼玉県ふじみ野市で事業化した。

図 地域循環共生圏の概念

地域循環共生圏を目指す事業者

具体的な取り組みは他にもある。産業廃棄物処理業者(株)富山環境整備(富山市婦中町)の松浦秀樹代表取締役社長はこう切り出した。「処分場建設時(1986年稼働)は地元の住民とは膝詰めで話し合って理解を得たが、次の処分場は困難。できる限り資源化したい」。同社は約75haの敷地に処分場ほか、焼却施設(廃棄物発電)や破砕・選別施設、プラスチックのマテリアルリサイクル施設を有する。敷地内ではプラスチックの再生樹脂を利用したパレットや敷板の製造、廃棄物発電の電力を利用したハウス栽培事業も行っている。

「中山間地で稲作農家は高齢化している。廃棄物由来のエネルギーを有効活用して付加価値のあるものを探した」と松浦社長。従来のものより栄養価の高いトマトの出荷額は1億5,000万円に上る。規格外のトマトをパンに練り込んで販売するなど、関連事業で約100人もの地元雇用を創出。未利用農産物を利用したナノナノ複合材を東京大学や民間企業と共同研究しており、ゆくゆくは施設園芸に利用する予定だ。

2018年8月操業開始の(株)JバイオフードリサイクルはJR東日本とJFEエンジニアリングが共同出資し、駅ビルなどから大量に排出される食品廃棄物をメタン発酵する。蔭山佳秀社長は「食品製造など川上は肥飼料化に適しているが、包装材の混入がある小売りや外食産業のリサイクル向上策としてメタン発酵が有効」と話す。処理能力は1日80t、発電能力は約1,100万kWh、年間5,500tのCO2削減効果がある。まだ目標件数に到達していないが、「廃棄物が電気になって戻ってくる仕組みを広めたい」と意気込む。

松浦社長は「異業種との連携を加え、SDGsの8目標と関わりがある。これを進めていけば地域に必要とされる企業になれる」と話す。地域循環共生圏は循環分野におけるこれまでの積み重ねの先にある。

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