特集/水Do!フォーラム2019 脱プラスチック、そしてその先へ事例報告

2019年06月14日グローバルネット2019年6月号

 海ごみ問題の深刻化などの影響から、「脱使い捨てプラスチック」への関心がますます高まっています。素材の転換やさらなるリサイクルの推進などの対策はもちろんのことですが、そもそも使い捨て容器・製品の使用を回避するという基本的で最も重要な取り組みを推進する動きというのは、依然限定されています。  本特集では、「脱使い捨て社会」への道筋について議論することを目的に、3 月13 日に東京都内で開催された水Do!フォーラム2019「脱プラスチック、そしてその先へ」での講演と、パネルディスカッションで報告された事例の内容を紹介します。

<事例報告1>
2R型エコタウン・ライフスタイルの構築
~京都におけるリユース食器を活用した協働の実践から~

NPO地域環境デザイン研究所ecotone代表理事、(一社)祇園祭ごみゼロ大作戦理事長
太田 航平(おおた こうへい)さん

ごみが出ない仕組みや仕掛けを

2001年から京都を中心に、脱・使い捨て、持続可能な社会をつくっていくための仕掛けや仕組みづくりを市民の立場から進めています。大きな活動の一つに、お祭りやイベントから出るごみを減らす取り組みがあります。

ごみを拾う活動も大切ですが、そもそもごみが出ない仕組みもつくらなければいけません。人が集まるということは、ごみも集まるということで、イベント主催者には社会的責任があります。しかし、主催者側はごみの持ち帰りを訴えるだけで、最終的に誰かにただ乗りしているのが現状です。

廃棄物が出ないような運営をしているイベントにこそ、人やお金が集まってくるような仕組みもつくらなければなりません。そこで、京都市とともに環境に配慮したお祭りであることを認定する仕組みを2012年に整え、2014年からは認証を取るとリユース食器の利用に必要な費用も助成する(上限50万円)制度もつくりました。

京都市は循環型社会推進基本計画の中で、ピーク時からのごみ半減プランを掲げ、焼却施設を5施設から3施設に減らすこととしました。達成するためには、大量生産・大量消費・大量廃棄が、大量リサイクルに置き換わっただけで、リデュース、リユースについてはマーケットがないことが問題でした。そこで、2015年10月に「京都市廃棄物の減量及び適正処理等に関する条例(愛称:しまつのこころ条例)」が制定されました。

祇園祭でリユース食器導入 対等な付き合いが大切

京都で1,150年以上続いている祇園祭では、150~200万食が提供され、その容器で街中がごみだらけになっていましたが、市民、事業者、行政が連携したごみゼロ運動の成果により、200万食のうち20万食がリユース食器に切り替えられました。地域の方々とごみを出さない方法を話し合う際に、露天商にも呼び掛けたところ、参加してリユース食器も使用してくれました。私有地で出店している焼き鳥屋などにも広がって、今では大阪の天神祭もリユース食器を導入しています。丁寧に話していけば、皆さん、協力してくれるものなのだと感じています。対等に付き合えるかが大切なのです。

コンビニでのマイボトル持参キャンペーン

一方で、祭り自体からごみは出ませんが、祭りに便乗した商売からごみが出てきます。露天商から出るごみは全体のわずか3~4割で、多いのはコンビニエンスストアや自動販売機で購入したごみや持ち込みごみで、そのうち飲料容器は夏場に4割増加します。

そこで2008年に、ローソンと協力してマイボトル持参キャンペーンを実施しました。飲料を持ってきたマイボトルに売ってもらえるインフラが整っていなければ、掛け声だけでは普及しません。そこで、ローソンに直接掛け合って、京都市役所内にコンビニを設置し、ディスペンサーのシェア8割のコカ・コーラのディスペンサーからマイボトルに注いで販売する実験を半年間行いました。お客様がお腹を壊したら、クレームにつながる恐れがあるため、調整は難航しましたが、最終的には行政が責任を取ることとして実現することができました。

NPOだからこそできること

リユース・リデュースの商品・サービスを提供するのは難しいのですが、リユース、リデュースを進めていく上で、NPOだからこそできることがあると考えています。

また、市民だけではできないこともあり、事業者や行政とのパートナーシップをより強化していくことが求められます。

パネルディスカッションの様子(左から中原さん(モデレーター)、太田さん、窪田さん)


<事例報告2>
パッケージなんていらない 裸の商品「ネイキッド」

(株)ラッシュジャパン アースケア スーパーバイザー
窪田 とも子(くぼた ともこ)さん

ラッシュは1995年に英国で設立された化粧品の会社です。本社は英国南西部のドーセット州にあり、世界48ヵ国に約930店舗、うち日本では83店舗展開しています。

ラッシュの信念とミッション

私たちはラッシュの信念に基づいて商品を作っています。新鮮でオーガニックな野菜や果物、エッセンシャルオイルをふんだんに使い、一つひとつ丁寧に手作りしています。そして動物実験に反対していますので、すべての商品は動物の犠牲のない商品です。

また、環境への配慮も私たちの重要な使命の一つです。気候変動などにより環境が破壊されれば、原料を調達することができません。また、私たちのビジネスが拡大することで、環境に深刻な影響を与えてしまうこともあってはならないことだと思います。

私たちは「地球でビジネスをさせてもらっている」ので、地球を守りたいと考えているのです。

パッケージフリーのネイキッド商品の開発

ラッシュではパッケージフリーのネイキッド(裸)の商品を作ろうと取り組んでいます。

パッケージのように使った後はごみになってしまうものはできる限りなくしていくということがラッシュの使命だと考えています。

ネイキッドの商品はもともと他の国ではすでに展開していましたが、ラッシュジャパンでは2016年から展開を始め、2018年7月時点では、全商品ラインナップ中の57%を占めるほどになりました。

また、配送時の梱包も、溶けやすい商品は生分解性フィルムなどで包みますが、オンラインショップの販売商品については、昨年6月から固形商品はすべて順次「個包装なし」に切り換えています。

ネイキッド商品の中でも液体のシャンプーを固形にした「シャンプーバー」は、地球に優しい商品の代表格です。ラッシュの共同創立者のモー・コンスタンテインが1988年に開発しました。

液体シャンプーはプラスチックの容器に入って売られていますが、固形にすることでプラスチックの使用量が削減できます。そして水を一切含んでいないため、合成保存料のパラペンも不要です。また、容器にかかるコストが削減できるので、その分をより良い原料にまわすことができます。さらに、ごみも減らせるという、画期的な商品なのです。

シャンプーバー1個で、250gサイズの液体シャンプーのボトル3本分のプラスチックを削減できると換算されます。昨年1年間で、シャンプーバー87万個を売り上げ、それをプラスチック削減量に換算すると約70t分になりました。

「選べる」という価値を提供していくのが責任

ユニークな商品開発と併せ、環境に優しいライフスタイルも提案しています。昨年の6月にはイタリアのミラノに世界初のネイキッド商品のみを販売するコンセプトショップをオープンしました。また、ネイキッドのスキンケア商品を使ってぜいたくな時間を過ごしましょう、というライフスタイルを提案することで、ごみ削減について考えるきっかけになればと考えています。

お客さまはラッシュの店舗に来ていただければパッケージフリーを選ぶことができます。環境に良いものが欲しいと思ったときに来ていただければ「選べる」という価値を提供していくのが私たちの責任であり、製品を作る者の責任として、その取り組みを続けていくことは重要だと思っています。


<事例報告3>
杉並区のレジ袋削減・マイバッグ推進の取り組みについて

東京都杉並区環境部環境課
髙橋 澄人(たかはし すみと)さん

レジ袋削減の取り組み

杉並区は、2002年3月の「すぎなみ環境目的税条例」の制定を機に同年5月に「杉並区レジ袋削減推進協議会」を設立し、マイバッグ持参率60%を目標に設定してレジ袋削減に取り組みました。2005年7月には35.2%という全国で最も高い持参率に達しましたが、当初の目標の達成は困難でした。

そこで、ドイツや台湾等の海外の先行事例や国内スーパーの実績を参考に、レジ袋有料化がレジ袋削減に有効と考え、レジ袋有料化モデル検討会を設置し、2007年に区内スーパーを対象に有料化実験を実施しました。その結果、マイバッグ持参率は83%に達し、その有効性が確認できました。

実験後の検討会の最終報告書では、対象事業者の範囲について、「多くの事業者が取り組むと最も(レジ袋の)削減効果が発揮される。条例に消極的な事業者を、当初から対象除外とすることは望ましくない。しかし、全ての事業者が区内全域で一斉に実施できるまで検討調整を進めることは、結果的にいたずらに時間を経過することにつながり、せっかくの全国的なレジ袋有料化の気運に水を差すものとなる」と報告しています。報告を受けた区は、2008年3月に「杉並区レジ袋有料化等の取組の推進に関する条例」(以下「レジ袋条例」)を制定しました。対象となる事業者は、①食料品等販売業許可を得ていること ②前年度のレジ袋の使用枚数が20万枚以上であること ③マイバッグ等持参率が60%未満であること、の3点を満たし、対象事業者は、レジ袋削減計画を2年計画で提出し、取り組み報告を区に提出する義務があります。また、条例には、計画書を提出しない事業者等について、区が勧告や公表できる規定があります。

レジ袋削減の現状と今後の展望

「レジ袋条例」の目的は、環境に負荷を与える象徴の一つであるレジ袋の使用抑制を図り、区民のライフスタイルを環境に負荷を与えることのないスタイルに転換し、持続的発展が可能な社会の形成に寄与することにあり、そのため、事業者はポスター掲示、レジ袋不要カードの作成、ポイント付与、レジ袋有料化等、さまざまな手法を駆使して、取り組んでいます。

現在は、レジ袋有料化に対する理解も進み、レジ袋削減が進んできましたが、ここ数年は足踏み状態でした。また、条例制定段階では、隣接する自治体の商店との関係等もあり、一自治体だけでの有料化はなかなか難しい状況でした。こうした中、環境省が検討する全国一律のレジ袋有料化は、スキームについて注視する必要はありますが、不公平感も発生せず、プラスチック使用に関する意識を高めるとともに、レジ袋削減にとって有効な手段であると考えています。

「使い捨てプラ抑制」の視点も加えた普及啓発

一方、区民への啓発活動も重要と考えています。杉並区レジ袋削減協議会の活動を継承した区内の高校生や大学生、団体で組織するマイバッグ推進連絡会を通じ、地域のイベント等で行うキャンペーン等で、普及促進の取り組みを継続して進めています。

今後は、使い捨てプラスチック削減の視点も加えたキャンペーンを展開し、レジ袋削減の推進・マイバッグ運動に重点的に取り組んでいきます。多くの区民がプラスチックを抑制すべきとの意識だけではなく、実際の行動に移せるような、情報の受け手を意識した広報や事業による意識啓発を図っていきたいと考えています。

パネルディスカッションの様子(左から髙橋さん、主催者の水 Do
!ネットワーク事務局長の瀬口さん、ホイトさん)

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