USA発サステナブル社会への道―NYから見たアメリカ最新事情第21回 米国の州や自治体の気候変動対策

2019年09月17日グローバルネット2019年9月号

FBCサステナブルソリューションズ代表
田中 めぐみ(たなか めぐみ)

米国では、気候変動対策に消極的な連邦政府を尻目に、昨年から今年にかけて多くの州が野心的な気候変動対策法案を可決している。

これまでのところ、温室効果ガス削減目標を法で定めている州は22州とワシントンDC、RPS(Renewables Portfolio Standard/再生可能エネルギー利用割合基準)の制定により電力会社に対して電力源の再生可能エネルギー(再エネ)比率を規制している州は29州とDCである。このうち、電力源の100%を再エネにすることを義務付けている州はこれまでハワイのみだったが、昨年DCが2032年までに再エネ100%へとRPSを改訂、今年に入りメイン州もハワイと同様に50年までに再エネ100%と改訂した。

●クリーンエネルギー100%へ

これら小規模な州では今世紀半ばまでの再エネ100%は十分に実現可能と見られるが、人口や経済規模の大きな州では、容量や安定性等の面から実現は難しい。そのため、RPSに加えてCES(Clean Energy Standard/クリーンエネルギー基準)で100%目標を定める州が増えてきている。

CESは電力源におけるクリーンエネルギー比率の規制で、再エネだけでなく、原子力等の炭素排出量が少ない電力源の利用や炭素貯蔵、排出権取引等によりオフセットすることで、電力における炭素排出量を削減し、最終的にネットゼロにすることを目指す政策である。これにより、コストを抑えてより広範な方法で大きな排出削減効果を生み出すことが可能になる。

最初にCES100%目標を制定したのはカリフォルニア州である。昨秋、RPSの改訂とともに2045年までにクリーンエネルギー源の電力を100%にする法案が可決した。これに倣い、今年に入ってからニューメキシコ、プエルトリコ、ネバダ、ワシントン、コロラド、ニューヨークで、40年から50年までにクリーンエネルギーを100%にする法が制定された。イリノイ、ミネソタ、ウィスコンシン、マサチューセッツ等でも100%に向けた法整備が進められている。

●先行するカリフォルニアの対策

経済規模で全米最大、国家レベルでも英国を抜き世界5位のGDP(国内総生産)を誇るカリフォルニア州は、環境政策においても突出しており、他州の手本となっている。

同州は、温室効果ガス排出量削減目標を制定した「地球温暖化解決策法」を2006年に制定、16年に改訂し、20年までに1990年と同レベル、30年までに90年比で40%削減、50年までに同80%削減することを義務付けている。20年目標は4年前倒しで16年に達成しており、翌17年には排出量がさらに前年比1%削減する一方でGDPは3.6%増加し、デカップリングを実現している。また、昨秋改訂されたRPSでは、30年までに電力源における再エネ比率を60%とすることが義務付けられ、同時に45年までにクリーン電力を100%にする目標が定められた。

18年時点で再エネ比率は32%、クリーン電力比率は53%に達しているが、これまでの排出削減実績は主に化石燃料から低炭素電力源への転換によるものであり、30年目標を達成するには、排出源の40%以上を占める輸送セクターをはじめ、電力以外の領域においてこれまで以上に果敢な対策が必要となる。

すでに、キャップ・アンド・トレード方式による大規模発電所や工場向けの炭素排出規制、輸送用燃料業者への排出規制、無・低公害車の導入促進、輸送システムの改良、公共交通における排出規制、建物のエネルギー効率向上、農業や廃棄物産業におけるメタン排出規制、製油所の排出規制等の政策が施行されているが、今後はさらに規制を強化するとともに、農地や森林での排出規制等の新たな対策も加わる予定である。

●ネットゼロを目指すニューヨーク

国内GDP3位のニューヨーク州も、7月に気候変動対策法「気候リーダーシップ・地域保護法」を制定した。全米一厳しい環境目標とうたわれる同法では、50年までに温室効果ガス排出量を90年比で85%削減、残りの15%を森林・湿地の再生や炭素貯蔵等でオフセットすることにより、ネットゼロを目指すとしている。中間目標として、30年までに温室効果ガス排出量40%削減、電力源の70%を再エネ、40年までに電力システムからの排出ゼロを掲げている。

しかし、同州の温室効果ガス排出量削減率は16年に90年比で13%、電力源の再エネ比率は昨年27%(原子力を含めたクリーンエネルギーは59%)であり、目標達成には大胆な政策を要する。同法では、35年までに9ギガワット(GW)の洋上風力、25年までに6GWの太陽光、30年までに3GWのエネルギー貯蔵を実装することで目標達成を促すとしており、具体策は、来秋までに作成する。州知事は法案署名と同時に計1.7GW容量の二つの洋上風力発電プロジェクトを承認し、目標達成への意欲を示した。

●洋上風力の攻勢

洋上風力は、技術発展により低コストで大容量の発電が可能になったことから、老朽化した原発や石炭発電所の代替電源として東西海岸の州を中心に全米で注目が集まっている。

エネルギー省の試算によると、技術的に国内で導入可能な容量は2千GW以上、発電量は年7,200テラワットに上る。州政府の期待は高く、ニューヨーク以外にも、マサチューセッツやニュージャージー、コネチカット、メリーランド等の主に東海岸の州が大規模洋上風力発電の設置を公約している。現在稼働しているのはロードアイランド州の5機30メガワットの発電所のみだが、他に15のプロジェクトが内務省海洋エネルギー管理局の認可を得て開発を進めており、合計容量は21GWに上る。

●再エネ市場を支える共和党地盤の州や自治体

こうした野心的な政策を掲げている州のほとんどは民主党地盤だが、共和党支持州でも化石燃料から低炭素電力源へのシフトが進んでいる。ただし、気候変動対策はうたっておらず、規制には消極的であり、専ら経済性や地の利など市場原理によるものである。

風力発電が最も盛んな州は、テキサス、オクラホマ、アイオワ、カンザスといずれも共和党地盤であり、この4州で全米の風力発電量の52%を占めている。太陽光でも、発電量1位のカリフォルニアを除き、ノースカロライナ、アリゾナ、ネバダ、テキサス、フロリダと上位を共和党州が占めている。また、水力発電が盛んなアイダホ、サウスダコタ、モンタナ等の共和党州では、水力を含めた再エネ比率がおのおの82%、70%、47%に達している。再エネ市場の隆盛を裏で支えているのはこれら共和党州ともいえる。

自治体レベルでは、オハイオ州クリーブランドやシンシナティ、ミズーリ州カンザスシティやセントルイス、ジョージア州アトランタやオーガスタ、フロリダ州オーランドやタラハシ、ユタ州ソルトレイクシティ、アイダホ州ボイシー、サウスカロライナ州コロンビア、アーカンソー州フェイエットビル等、共和党州内の多くの市や町が、自主的に再エネやクリーンエネルギー100%の政策を掲げ、対策を進めている。

しかし、たとえ自主規制や市場原理による排出削減が進んでも、パリ協定目標の実現には連邦規制が不可欠であり、気象災害に脆弱で適応策に追われている自治体にとっては党派間争いに興じている場合ではない。

海面上昇により今世紀末までに水面下に沈むと予測されるフロリダ州マイアミビーチでは、沿岸部の堤防や高架道路の建設が急ピッチで進められている。豪雨による川の氾濫で洪水被害が頻発するテネシー州ナシュビルやネブラスカ州ビートリスでは、度重なる被災家屋の補修や再建を諦め、自治体が家屋を買い上げて洪水緩衝地区へと転換する政策に切り替えている。

気象災害に直面した共和党支持者や将来的な影響に気付いた若年層が、来年の選挙で意義ある一票を投じれば、政争に明け暮れる政治家をいさめ、両党が力を合わせて人類に必要な政策の実現に取り組めるようになるだろう。

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