食卓からみる世界-変わる環境と暮らし第14回 焼き畑に支えられる人びとの暮らし~ラオスの「森の民」クム民族の食卓

2019年10月15日グローバルネット2019年10月号

特定非営利活動法人メコン・ウォッチ 理事
東 智美(ひがし さとみ)

「これは“トゥープ”というお米、大きく育った森を開いた農地にまくの。こっちは“イム”。平地にまくのよ。畑にまく籾を選ぶのは女性たち。男は作業するだけよ」。ラオス北部ウドムサイ県パクベン郡の山岳部にあるチョムレンヤイ村で暮らす焼き畑民、クム民族の女性は得意げに焼き畑にまく種籾を見せてくれた。

●ラオスの焼き畑農業

焼き畑は、森を伐採し、火を入れることから、環境破壊の原因とされ、東南アジアでも各国政府は焼き畑を抑制するための施策を取ってきた。一方で、焼き畑耕作は、森林を伐採、火入れをして短期間の土地利用を行った後、極端な土壌流出が起こる前に耕作を放棄し、次の伐採・火入れまでに十分な期間を置いて森林の再生を図ることができる場合には、熱帯ないし亜熱帯の自然によく適応した農耕形態だとされている。

2000年のラオス政府の統計によれば、農村部の人口の25%にあたる15万世帯が焼き畑に従事しており、休閑地も含めれば、農業に使われる土壌の80%以上が焼き畑に使われていたとされ、現在も、とくに山岳部に暮らす少数民族にとって、重要な食料生産手段となっている。

焼き畑では、陸稲のほかに、トウモロコシ、根菜類、豆類など、さまざまな作物を植える。また、焼き畑二次林では、タケノコやキノコなどが収穫され、食料や現金収入源として、人びとの暮らしを支えてきた。

ラオス北部ウドムサイ県の事例では、焼き畑民の一年は毎年1月ごろ、農地の選定に始まる。これは主に男性の役割で、土壌や森の年数、過去の経験などから、より良い収穫が期待できる農地が選定される。2月から3月に草木を伐採し、農地を開拓し、農地が十分に乾燥すると、火入れが行われる。雨季の始まりを待って、籾まきが行われる。土壌や日当たり、傾斜などの条件に最も適している籾を選んで、植え分ける役割は主に女性が担う。冒頭で紹介したパクベン郡の村では、村には少なくとも3種類の早稲、3種類の中稲、12種類以上の晩稲の種が受け継がれている。収穫期の異なる米を植えることで、天候の変化などによる収穫不良のリスクを分散する。種子は長期保存できないため、毎年すべての種類の米を植え、種子を残してきた。9月から12月ごろの収穫を終えると、畑は7~8年、ある程度植生が回復するまで放置され、再び新たな農地として開かれる。

焼き畑には米だけではなく、トウモロコシ、根菜類、豆類など、さまざまな作物も植えられる。また、焼き畑耕地から二次林へと移行する休閑期間には、地域や森の年数によってさまざまな植物や野生動物が育まれる。二次林で採れる林産物は、時には米に代わる代替食として、時には現金収入源として、村人の生活を支えている。焼き畑の二次林にしか育たない植物もあり、二次林は焼き畑によって作られ、焼き畑民の暮らしを支える「里山」だといえる。

●「森の民」クム

ラオスは多民族国家であり、50の民族が国家によって認定されている。モン・クメール系の言語グループに属するクム民族は、その中でも、現在のラオスに最も古くから住んでいる先住民族だといわれている。クムの人びとの一般的な生活は、焼き畑での稲作を中心とする農業を基盤とし、森での狩猟や採集によって支えられている。クム民族は、ラオス北部に暮らす人びとの中でも、森に対して豊かな知識を持ち、焼き畑耕作の歴史も長いといわれている。また、焼き畑二次林から積極的に林産物を採取してきた。

●焼き畑と村人の食卓

焼き畑で暮らすチョムレンヤイ村の村人たちの食卓をのぞいてみよう(写真1)。この日のメインは、焼き畑に仕掛けたわなで捕らえたタケネズミの炭火焼きだ(写真2)。タケネズミは焼き畑の稲や野菜を食べる害獣であるが、一方で食料として村人のタンパク源ともなっている。ヒョウタンの蔓のスープは、味付けは塩だけで、薬味のショウガとネギが香る。具材のヒョウタンの蔓、ショウガ、ネギは、村から2~3㎞の所にある焼き畑で栽培したもの。主食はもちろん蒸したもち米で、焼き芋が添えられていた。この日の料理に使われた食材のうち、塩とうま味調味料以外は、すべて焼き畑で収穫・採取されたものだ。

写真1 夕食の光景。当時は、まだ村に電気が来ていなかったため、懐中電灯で照らしながら食べている(2011年11月、筆者撮影)

写真2 メインのタケネズミの炭火焼き(写真左上)、ヒョウタンの蔓のスープ、焼き芋、もち米

次に紹介するのは、焼き畑での共同作業のお礼に振る舞われるごちそうだ。この地域では、籾まきや米の収穫といった農作業は、村人たちの共同で行われる。村から歩いて30分ほどの焼き畑の米の収穫作業のために集まった16家族に対し、収穫の最終日となるこの日、畑の主は昼食にごちそうを準備した。

メインとなる牛肉の煮込みは、牛肉を少量の水、塩で煮込み、米くずでとろみとコクを付ける。焼き畑で採れたインゲン豆などの野菜を加え、ケーンの実で胡椒のような香りを、トウガラシで辛みを加える。野菜のスープには、焼き畑で収穫したばかりのマクトゥーン(サトイモ科のクワズイモ)とインゲン豆、家の前の菜園で栽培した青菜が使われた。焼き畑に植えたレモングラス、ショウガで香りを付け、塩で味を整える。他の村人から購入しておいた牛肉、村の商店で購入した塩とうま味調味料以外の食材は、焼き畑や家庭菜園から収穫された農作物と、焼き畑二次林で採取された非木材林産物だ。

どちらの事例でも、料理の食材のほとんどは、焼き畑、家庭菜園、焼き畑二次林で収穫・採取されたものだ。焼き畑と焼き畑二次林が、村人の食卓を支えていることが垣間見える。

●変わりゆく焼き畑民の暮らし

ラオスでは、人口増加や換金作物栽培への転換といった村の内部の要因と、政府による焼き畑抑制政策、村落移転政策、大規模インフラ開発、産業植林といった外的な要因によって、地域住民の土地利用は大きく変化しつつあり、焼き畑に使える土地が減少することで、持続的な焼き畑を営むことはますます難しくなってきている。ラオス政府は、自給的な焼き畑農業から換金作物栽培への転換を奨励しているが、市場価格の変動や天候による収量の増減、将来の土壌劣化といったリスクを考慮せずに、換金作物への転換を図れば、地域住民の食料安全保障は大きく脅かされることになる。

一方で、地域住民にとって現金収入の必要性が高まる中で、換金作物栽培を完全に否定することはできない。焼き畑農業を継続するにしても、他の土地利用を取り入れるにしても、適切な情報に基づいて、住民自身が地域に適した土地利用を選択できるようになることが重要である。現実的な方向性としては、米を中心とする自給用作物の栽培のための焼き畑を一定程度は維持しながら、現金収入を得る手段としての換金作物栽培などの土地利用をいつでも後戻りできる形で導入していくことが、焼き畑民の持続的な土地利用とフードセキュリティの確保を実現するために必要なのではないだろうか。

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