EUの「持続可能な消費」21世紀の新環境政策論~人間と地球のための持続可能な経済とは第38回 若者の政治参加と社会の持続可能性を考える

2019年11月15日グローバルネット2019年11月号

千葉大学教授
倉阪 秀史(くらさか ひでふみ)

持続可能性を確保するために必要なこと

学生時代の友人が「自分はどうせ死ぬのだから、世界の終わりを見たい」と言っていました。論理的に反論できなかった記憶があります。世界を持続させることは当たり前のことではなく、そのように思う人が社会の大部分を占めてこそ正統性を持つことなのです。

経済学者のケネス・ボールディングは、1966年に公表したエッセイ「来たるべき宇宙船地球号の経済学」において、なぜ、持続させなければならないのかということを自問し、将来世代もわれわれと同じコミュニティの一員であるから、将来世代も生きられるようにしなければならないという考え方に行き着きます。過去から将来に続くコミュニティの一員として、自らを位置付ける人が社会の大部分を占めて初めて、社会全体の持続可能性が確保されることになるのです。

とくに、地球温暖化や人口減少下の社会の持続可能性といった、次の世代での悪影響が問題となる課題について、高齢の世代は自分事として認識することがなかなか難しいところです。将来の社会を担っていく若い世代が発言していかないと、これらの課題について十分な対応が行われなくなる懸念があります。

また、高齢の世代は、自分の成功経験を基に判断を行いがちです。その成功経験は、現在のニーズに適合しているとは限りません。オリンピックを開催し、万博を開催し、リニアをつくって、カジノを誘致しても、将来の世代が直面する危機の解決につながるとは思えません。持続可能性を重視する社会の構築には、今後の社会を担う若い世代の政治参加が必要です。

若者の政治離れはどうして起こるのか

しかしながら、近年、若い世代の投票率が低下してきています。

図は、近年の国政選挙の年代別の投票率の推移です。2016年の参議院選挙から18歳投票権が実現しました。10代の投票率は、最初の国政選挙こそ、46.8%と比較的高くなりましたが、次第に低下し、2019年の参院選では、32.3%と20歳代並みになってしまっています。最も投票率の高い世代は60歳代であり、若い人ほど投票に行かないという傾向が定着してきています。

若い人ほど投票に行かないという傾向は、若年層が社会的な課題に対して意見を発信することへの否定的な言説と表裏一体だと思います。

今年9月にニューヨークで開催された国連気候アクション・サミット2019で、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが、気候変動に関する科学的見解がないがしろにされていることへの憤りを激しい言葉で述べたことに対して、日本のSNS上では否定的なコメントが多く述べられました。いわく、表情が気に入らない、16歳だから学校に行け、誰かに操られているのではないかといった反応です。

以前、2015年から2016年まで、特定秘密保護法の際に活動したSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)のメンバーも、SNS上でさまざまな否定的な反応を受けています。

若い世代が政治的な発言を行うことは、彼らにとって高いリスクを引き受けることを意味するようになってしまっているのです。とくに、匿名で否定的な言説を簡単に発信することができるようになっている現在、政治的な発言を行う若者を誹謗中傷することが簡単に行えるようになってしまいました。

さらに、情報を自分で入手するコストすら払わない若い世代が増えているのではないかと懸念しています。全国大学生協連合会の2018年の調査によると、まったく読書をしない大学生は48.0%と、約半数に達しています。この数字は2012年まではおおむね35%程度でした。近年、まったく読書をしない大学生が増加しているのです。

このような学生は、主にインターネットを通じて情報を入手していると考えられます。SNSには、若者の政治的発言に対する、前述のような匿名の否定的な言説があふれています。さらに、リスクを引き受けない若者が増加していくことでしょう。

千葉大学法政経学部でのアンケート結果から

私は、千葉大学法政経学部において、1年生必修授業の際に、政治参加に関するアンケートを継続して実施しています。

2016年と2019年の参院選の前の5月に行ったアンケートでは、「次の国政選挙の投票に行くかどうか」聞きました。また、アンケートでは、さまざまな項目についても併せて聞いて、どのような学生が投票に行くと言えるかについて解析しました。

法政経学部の学生は、比較的投票に行くと回答した比率が高くなっています(2016年57.7%、2019年65.8%)。そして、どのような属性の学生が投票に行くかという点について、2016年と2019年の調査に共通して以下のことが言えることがわかりました。

まず、住民票を移していない学生は投票に行かないことです。また、何か社会のために役立ちたいと思うほど、また、自分の1票が社会を変えるかもしれないと思うほど、投票に行きます。さらに、この一年間家族と政治について話をしたことのある層ほど、また、社会情勢を入手する手段として新聞・雑誌・書籍など紙媒体の手段のいずれかを選んだ層ほど、投票に行きます。

一方、2回の調査ともに半数以上の回答者は、政治に不満を抱いていました(2016年66.0%、2019年56.0%)が、政治に不満を抱いているかどうかは、投票行動に有意に影響しないことがわかりました。同様に、社会の現状に不満を抱いているかどうかも、投票行動に影響しないこともわかりました。

このことから、政治に不満を抱いていても、自分の一票が変えることはないと諦め、家族と政治に関する会話もせず、ネットから流れてくる情報に頼って、自ら情報を収集する努力を怠っている若者が投票に行かないという状況が浮かび上がったと考えます。

若者の政治参加を促進するために

昔の日本では、男子は15歳までに元服して、成人と見なされていました。中高生の世代は、十分な判断能力をすでに持っています。私が進めている「未来ワークショップ」は、中高生などの若い世代に未来市長になって現市長に政策提言を行うという試みです。中高生は、まだ、自分の将来に自由度があり、どこかに所属していない存在です。未来ワークショップでは、所属にとらわれないさまざまな意見が出されます。

また、大学生になると、十分なモチベーションさえ与えることができれば、企画・立案・運営の各能力において、社会人と同じレベルの能力を期待できます。たとえば、千葉大学では、2004年以来、国際規格ISO14001に沿った形で環境マネジメントシステムを運営していますが、法規制順守の手続きと苦情処理と環境負荷データ管理を除く、すべての活動の企画・立案・運営を学生にまず委ねています。

若者の政治参加を促進し、公共的に行動する若者を育てていくためには、若い世代にまず任せてみることが必要です。たとえば、選挙権は18歳まで引き下げられましたが、被選挙権は引き下げられていません。20歳になったら立候補できる社会になれば、何か変わるかもしれません。社会制度として、まだ何かに属していない若い世代に特別の役割を与えて、その意見を聞くことが必要だと思います。

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