環境ジャーナリストの会のページ「脱プラ」へ動く生活者、地域ESDの現場

2020年02月17日グローバルネット2020年2月号

ニュースメディアライター/博報堂
腰塚 安菜(こしづか あんな)

立教大学ESD研究所(所長・阿部治立教大教授)と日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)は1月17日、同大池袋キャンパスで、公開講演会「脱プラスチック社会を目指して~持続可能な地域づくりと人材育成~」を開き、約200人が参加した。ESDとは、環境教育から発展した「持続可能な社会の担い手を育てる学び」。同研究所は、「国連ESDの10年」が始まった2年後の2007年に設立された。

「脱プラ」や「脱炭素」にビジネスや市民の関心が高まるなか、私たちは何をすべきか。地域ESDの現場ができることは何か。講演会は、さまざまなステークホルダーに考える機会を提供するために開かれた。

 

海洋プラ汚染の脅威と「脱プラ」幻想

基調講演では、プラスチック問題の第一人者で世界のマイクロプラスチックをモニタリングする東京農工大教授の高田秀重氏が、科学的知見に基づいて国内外で進む海洋プラスチック汚染を報告。プラスチックを摂食して死に至る海鳥や海洋生物は200種以上も存在し、生態系を隅々まで汚染する。高田氏の二枚貝や海鳥のヒナを用いた研究では、有害汚染物質が生殖腺や脂肪、肝臓にたまり、海洋生物を食べる間接的な暴露で、マイクロプラスチックの増加で人が食べることの寄与が増える悪影響を明らかにした。

野心的な国際社会の動きに対し、G7サミットで「海洋プラスチック憲章」に署名しないなど及び腰な日本。高田氏は、日本で対策が遅れる要因に「アジア諸国への廃プラ輸出」「焼却処理への依存」「リサイクル万能神話」の三つを挙げ、「脱プラ」に対する日本の「幻想」を強調した。

 

包装産業のプロが捉える「脱プラ」

一般社団法人日本食品放送協会理事長の石谷孝佑氏は、日本の優れた包装技術や廃棄物回収・利用のシステムを切り口に発表。「食品ロス削減の観点ではプラスチック包装は重要な役割を果たし、食品のロングライフ化で輸出の場面などで貢献する」プラスチックのメリットについて紹介した。

「コンビニだけでなく、包装が増え続ける現代社会で『プラスチック・フリー生活』は容易ではない」と、「脱プラ」の難しさについて触れる一方で、ストローやレジ袋以外にも、生活の中に入っている減らせるプラスチック包装材があることを示した。また、企業に提案を募り「どのプラスチックをやめることが可能か」を競わせるというアイデアも披露した。

 

地域ESDが学生と取り組む「脱プラ」

パネル討論では、長崎県の対馬市まちづくり推進部しまの力創生課係長の前田剛氏が、足元の地域課題である海ごみの現状を報告。「海ごみの防波堤」として海外から流れる海ごみで、メディアの取材を受けることも多いという国境離島の対馬。海ごみ回収ボランティアやスタディツアーが実施され、主催した阿部所長のゼミ学生も現地で体験した。前田氏は「対馬の海ごみの将来を非常に危惧している。学生たちに訪問してもらい、確実に意識変化が起きているのを感じる」と話した。

阿部所長は「これまでのシンポジウムで、こんなに若い世代の集まったことは今までなかった。『SDGsネイティブ』とも言われる将来世代は、すぐにSDGsを自分事化できてしまう」と述べ、教育とは学校の中だけでなく、日常的な人との関わりの中で生まれてくるものであることを強調した。

JFEJからは副会長の堅達京子・NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサーが登壇。新著『脱プラスチックへの挑戦 持続可能な地球と世界ビジネスの潮流』の内容に触れ、「『常識を超えるパラダイムシフト』が必要になり、世界のビジネスは急速に動き始めている」と解説。「温暖化の進行など地球の非常事態と、プラスチック問題は関係していることを知ってほしい」と呼び掛けた。

気候正義を呼び掛ける「Fridays for Future」に参加する立教大生からの発言もあった。司会を務めたJFEJ会長の石井徹・朝日新聞編集委員は「メディアを含めさまざまなステークホルダーが現場を知り、垣根を越えて議論することが必要」と総括した。

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