ホットレポート②EUにおける環境団体の役割とその支援策

2020年02月17日グローバルネット2020年2月号

大阪大学教授 
大久保 規子(おおくぼ のりこ)

欧州における環境団体の位置付け

欧州において、環境団体は経済団体・労働団体と並び、環境政策の重要なパートナーとして認められている。環境利益の代表者として、①情報を収集・発信し、②政策を政府等と協議し、③とくにコミュニティレベルで政策の実施を担い、④政策を評価・モニタリングし、⑤アドボカシー活動を行うという公益的機能に鑑みて、環境団体に対するさまざまな支援が行われている。

環境団体に対する公的支援は1970年代にさかのぼることができるが、国際法上重要なのは、1998年に国連欧州経済委員会の枠組みで採択されたオーフス条約である。この条約は環境分野の市民参加条約であり、①環境団体を適切に承認し、支援すること、②環境団体訴訟を認めること等を定めて、環境団体の役割を重視している。オーフス条約には、欧州連合(EU)および全EU構成国が加盟しており、EUおよび各国レベルで環境団体の支援制度が設けられている。

EUのLIFEプログラム

EUでは、1992年から「LIFE」と呼ばれる環境・気候行動プログラムが実施されている。LIFEに関するEU規則では、NGOのインボルブメントとすべてのレベルのガバナンスの向上が、目的の一つとされている。その前身は1970年代の自然保護団体助成にさかのぼるが、LIFEの助成対象には、NGOだけではなく、公的機関や民間事業者も含まれる。第4期間終了時(2013年)までに3,954件のプロジェクトに対し総額31億ユーロ(約3,700億円)の支援がなされた。現在のプログラム期間(2014~2020年)の予算総額は34億ユーロであり、さらに、次期(2021~2027年)は54.5億ユーロへの増額が予定されている。

LIFEは、個別の活動助成とNGOの運営助成という二つの柱から構成される。運営助成は、環境団体の政策参画機能を担保するためのものであり、支援対象は、EU各国のNGOをメンバーとし、主にEUレベルで活動するNGOの連合体である。環境利益をEUの政策に適切に反映させるためには、NGOがネットワークを形成し、その主張を集約することが重要である。しかし、個別のNGOが日常的な活動に加えて意見調整の事務局機能を担うことは人的にも財政的にも容易ではない。運営助成では、事務所の賃料・管理費、スタッフの人件費、意見調整会議の旅費等を賄うことができ、極めて重要な役割を果たしている。

運営助成の総額は、LIFE予算全体の最大19%とされ、また、一団体当たりの助成額は、当該NGOの総予算額の60%未満とされている。具体的な助成先はは、EEB(European Environmental Bureau)、WWF欧州政策オフィス(WWF European Policy Office)、バードライフ・ヨーロッパ(Birdlife Europe)等であり、毎年約30団体に、総額約1,000万ユーロ(約12億円)の運営助成がなされている。例えば、欧州で最も古い環境NGOのネットワーク団体であるEEBには140団体(会員総数約1,500万人)が参加しているが、2017年度の年間予算383.5万ユーロのうち運営助成は70万ユーロであり、その他のプロジェクト助成を合わせると、EUからの助成が37%(141.9万ユーロ)を占めている。

ドイツの環境団体支援策

ドイツには、環境団体に公的助成を行う多様な機関がある。例えば連邦レベルでは、ドイツ連邦環境基金、連邦環境省、連邦環境庁、連邦自然保護庁等による助成が行われている。この中には、ソーシャルビジネスの支援を主たる目的とするものから、途上国の開発援助に関するものまで、さまざまなものが含まれている。

これらのうち、予算規模が最も大きいのは、国際気候保護イニシアチブ(IKI:Internationale Klimaschutzinitiative)である。IKIは、2008年に発足した気候変動対策プログラムであり、NGOの助成自体を目的とするものではないが、NGOも応募することが可能である。IKIにおいては、重点テーマと重点国が設定されており、2008~2019年10月までの累計予算額は約36億ユーロ(約4,300億円)である。NGOの予算枠が定められているわけではないが、例年、おおむね約1割が環境NGOの事業に充てられている。社会変革を推進するために、IKIの1件当たりの事業規模は20~30億円程度と比較的大きい。しかし、小さな団体の参加を促進するために、途上国のNGOに対する直接的な小規模助成や国内NGOを対象にした中規模助成プログラムも設けられている。

また、連邦・州政府による助成のほかに、各州の環境財団による助成も重要である。例えば、ノルトライン=ヴェストファーレン州には、自然・郷土・文化保全財団(1986年設立)と環境・発展財団(2001年設立)という二つの財団がある。前者は宝くじ収入、後者はカジノ収入等を安定的な財源として、合計年間約18億円の助成を行っている。ナショナルトラスト活動のような土地の買い上げや組織の基盤強化(環境団体職員のキャパシティビルディング等)も助成対象となることが特徴である。

さらに、ドイツ国内にも、EU同様に、制度的助成と呼ばれる運営助成が存在する。具体的には、環境NGOの連邦ネットワーク団体であるドイツ自然保護連合(DNR)に対し、連邦政府による助成が行われている。DNRは1950年に設立され、ドイツ環境・自然保護連合(BUND)、ドイツ自然保護連盟(NABU)等、85の環境団体が会員となっており、DNRの予算の約半分が制度的助成である。DNRはEEBのメンバーでもあるから、ドイツの州レベルからEUレベルに至るまで環境NGOが組織化され、公的資金により、ネットワークの運営基盤の安定性が確保されているといえる。

個々の環境団体に対する助成は活動助成であり、基本的に運営助成は存在しない。ただし、その場合でも、一定の間接経費が認められている。BUNDやNABUをはじめ、大規模な環境団体は、通常、連邦組織と各州の組織から構成されている。例えば、NABU全体の2016年度の予算総額は約4,500万ユーロ(約60億円)であるが、その最大の収入源は会費(約2,000万ユーロ)であり、公的助成の割合は約2割(約920万ユーロ)である。活動助成は使途が個々のプロジェクトに限定されているから、会費収入は活動の柔軟性や事務所の賃料等を確保する上で不可欠である。また、活動助成にあたっては、一定の自己資金の確保が要件とされることが多く、事業が採択されるかどうか不確実であることから、各NGOは、寄付や民間機関からの助成も含め、収入源の多様化に力を入れている。

日本への示唆

日本でも、地球環境基金や自治体等が環境団体助成を行っているものの、最大の公的助成機関である地球環境基金の助成総額も年間約6億円にとどまっている。これに対し、欧州では、安定した原資が確保され、日本よりもずっと大規模な助成が行われている。

注目すべき点は、第一に、日本では、委託方式により一定の公的資金が環境団体に流れているのに対し、欧州では基本的に助成方式が採用され、活動の独立性・独自性が尊重されている。第二に、日本では、環境団体の自立促進のために「過渡的な」財政支援が必要であるといわれることがあるが、EUの助成は、環境団体にその公益的機能に見合った財源を付与するべきであるという考え方を基礎としている。そのため、自立を促すために最長助成期間を設けるといった発想はあまり見受けられず、活動助成であっても、例えば、自然調査については継続性を重視するなど、活動の性質に応じたメニューが用意されている。第三に、環境団体の参画はグッドガバナンスに不可欠の要素であるという共通認識があり、その実効性を担保するための運営助成が法制化されている。第四に、例えば、ドイツでは、市民が最長2年にわたり宿泊・食事の無償提供や小遣いの支給を受けて、ボランティア活動に参加できる制度が設けられており、個人の意識啓発を環境団体活動につなげる施策の重要性が認識されている。日本でも、環境団体の公益的機能を適切に認識し、これに応じた総合的な支援策を検討すべきであろう。

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