ホットレポート①レジ袋の有料化で脱使い捨てプラスチックは進むのか

2020年02月17日グローバルネット2020年2月号

環境ジャーナリスト
服部 美佐子(はっとり みさこ)

7月1日から、国内すべての店でレジ袋の有料化が義務付けられる。かつて業界の強い反対で見送られたレジ袋の有料化が、今回異例の早さで制度の指針をまとめられた背景には、使用規制が進む諸外国に後れを取った焦りも見え隠れする。

汚名返上のプラスチック戦略

「レジ袋の有料化」をめぐる議論は今に始まったことではない。2006年に改正された「容器包装リサイクル法(1995年制定、容リ法)」の審議では、コンビニなどの業界が強く反対。国も「独占禁止法に抵触する恐れがある」などとして義務付けを見送った。

この間に世界中で「ノーレジ袋」が加速した。欧州18ヵ国、アジアでも韓国や中国などが有料化しており、使用禁止などと合わせ国単位での規制は65ヵ国以上に上る。一方、1人当たり1日1枚もレジ袋を使うといわれる日本は、地域やスーパーなどあくまで限定的な有料化に甘んじてきた。

ここに来て、なぜ有料化が再燃したのか。2018年6月のG7会議で「海洋プラスチック憲章」に署名せず批判を浴びた政府は、翌年6月大阪で開かれたG20会議寸前の5月に「プラスチック資源循環戦略」を策定。「2030年までに、ワンウェイ(使い捨て)プラスチックを累積25%排出抑制する」という目標(マイルストーン)を達成する取り組みの一つとして「レジ袋の有料化」を盛り込んだからだ。

小売事業者の意向で、施行は7月

こうして始まった、経済産業・環境両省の合同会合は2019年9月からパブリックコメントを挟んで計4回、わずか3ヵ月で合意に至った。

事務局が提示した制度の骨子(案)は次の通り。消費者が商品購入の際に持ち運びに用いるプラスチック製の袋をすべて対象とする▼「容器包装リサイクル法」の省令改正によって、業種、企業規模に関係なく、全国での有料化を義務付ける▼魚介類などの生鮮食品を包む持ち手のない「ロール袋」、海洋生分解性プラスチック製、バイオマスプラスチック製、一定以上の厚みがある袋は義務付けの対象外とする▼レジ袋の価格設定や売り上げの使途は事業者が判断する。

フランチャイズチェーン協会はヒアリングでこう発言した。「コンビニエンスストアは有料化に全面的に賛同しております」。容リ法改正時には先陣切って反対したことを知る身には隔世の感があるが、いずれの事業者も今回は「全国一律一斉に実施を求める」と、口をそろえた。

ただし、「無料の紙袋に移行することで終わってしまうと、辞退率の向上につながらない」(百貨店協会)、「袋入りで販売する場合もある」「個人事業者が多い」(食品産業センター)、「料理品や汁物などマイバッグに適さない商品が多い」「券売機は10円以上でしか対応できない」(フードサービス協会)など、業態の内情を打ち明けた。

いずれも有料化を免れる理由にならないが、「仕様変更などのため猶予期間を」という事業者側を考慮し、施行時期は7月に落ち着いた。

削減効果が得られるレジ袋の価格

レジ袋の価格は辞退率を左右するが、安ければ消費者は買って済ませてしまう、高いレジ袋は「客離れ」を恐れる事業者が二の足を踏む。「サイズや用途、仕入れ主体や方法などでさまざまなケースが考えられることから、事業者が自ら設定する」とした政府案に、「価格の最低ラインを決めるべきでは」(高村ゆかり委員、東京大学教授)、「価格は一律に設定してほしい」(商工会連合会)など意見が相次ぎ、パブリックコメント(168件)では「脱法的な低価格を排除すべき」といった指摘もあった。

ガイドライン(案)には、「1枚当たり1円未満になるような価格設定、複数枚提供する際に1枚目を無料配布するなどは、有料化には当たらない」とし、5円で96.8の辞退率といった参考事例も載せているが、実効性は今のところ不透明だ。

先行事例として審議に参加した富山県は、2008年から県内全域でレジ袋の無料配布廃止をスタートした(写真)。レジ袋の価格はおおむねスーパーは1枚5円、クリーニング店は1枚10円と高めだ。収益の使途も事業者判断とする指針と異なり、環境保全活動に活用されている。マイバッグ持参率は95%、11年間で累計約15億7,000万枚ものレジ袋削減は、消費者団体、事業者、行政の三者が協定を結んで、10年以上取り組んだ成果といえよう。

1枚5円でレジ袋が販売されている富山県内のスーパー。収益金は環境保全活動に活用される。

植物性や海洋生分解性プラスチックは対象外

富山県と政府案の違いはそれだけではない。レジ袋はすべて有料の県に対し、指針ではバイオマスプラスチック(トウモロコシやサトウキビなどの植物由来)の配合率が一定以上(施行当初は配合率25%以上)▼繰り返し使用が可能な厚さが0.05㎜以上(推奨することを表示)▼微生物によって分解される海洋生分解性の買物袋は、対象外だ。が、バイオマスプラの袋はコストがかかる。店頭では含有量の判別や、一定の厚みがある袋の判別は難しい。

合同会合では、「用途とか成分によって例外を作るという、消費者にわかりにくい例外設定は避けるべき」(高村委員)、「バイオマスプラスチックも海洋汚染は起こす」(大塚直委員、早稲田大学大学院教授)など、反対意見が占めた。だがフランチャイズチェーン協会は「おでんやカップラーメンなどは、マイバッグがレジ袋の代用にならない。安全性や衛生面が担保できない」と、強く無料袋の導入を求めた。

「抜け道を作らない。抜け駆けは許さない」と注意喚起した富山県のほか、19県が事業者と協定を結ぶなどしてレジ袋削減を進め、新制度より踏み込んだ対策を講じている地域も多い。ガイドラインではそれらの取り組みを「妨げない」としたが、「(対象外は、)環境価値に応じた価値付け等を進めていく…適正な価格が支払われることが期待される」とお茶を濁した。

削減効果はプラごみのわずか2%

こうして短期間で大団円を迎えた合同会合。唯一異を唱えたのは日本ポリオレフィンフィルム工業組合だ。常任理事で国内で初めてレジ袋を発明したという中川製袋加工(株)の中川兼一社長は「時代のニーズに合わせ、経済を下支えしてきた。薄肉化を進め、バイオマスプラスチックやリサイクル原料を活用したレジ袋なども開発している。容リ法改正で業界の組合員数は廃業倒産で3分の2に減少した。今回の義務化は国産メーカーの販売規制、生産規制につながるものと見て、強い危機感を持っている」と訴えた。

「今なぜまずレジ袋なのか」(中川常任理事)。確かに年間約900万トン発生するプラスチックごみの数%にすぎないレジ袋の削減だけでは抜本的な解決にはつながらない。ペットボトルや食品、日用雑貨の容器包装など使い捨てプラスチック製品は山ほどある。

石川雅紀委員(神戸大学名誉教授)はこう話す。「レジ袋はそれさえ対策すればいいというほどのものではない。量的にも、単品では目立つがごく一部。ライフスタイルの変革のための象徴的なもの。まだやるべきことがある」。環境省の担当者は「法改正という意見も出たが」と前置きし「効果が発揮されるかどうか、施行状況を踏まえて検討したい」という。昨年6月、G20サミットの議長国として、政府は2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにするという「大阪・ブルーオーシャン・ビジョン」を取りまとめた。脱使い捨てプラスチックへ、手をこまねいている時間はない。

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