フロント/話題と人小野 博行さん(尾鷲物産株式会社 代表取締役社長)

2020年03月16日グローバルネット2020年3月号

MSC認証で漁業の町に活気を取り戻す

小野 博行(おの ひろゆき)さん
尾鷲物産株式会社 代表取締役社長

紀伊半島の南部、入り組んだリアス式海岸の中に位置する尾鷲港はかつて、カツオ船や近海はえ縄漁船が大量のカツオ、マグロなどを水揚げし、活気があふれていたという。尾鷲の隣町で育った小野さんは、子供の頃の漁村のにぎわいを「町にはかつお節屋が軒を連ね、新しい漁船が造られるたびに餅まきがあり、お祭りでは船のパレードがあった」と振り返る。

800名だった尾鷲漁協の組合員は今や70名以下となり、40億円あった水揚げ高も5分の1に。他の漁村と同様に高齢化と後継者不足に悩むふるさとの暮らしに活気を取り戻すには、どうしても一次、二次産業を盛り上げる必要がある、と小野さんは考えた。

元はスーパーマーケットの塩干部が独立した企業である尾鷲物産に1983年に入社。2003年に社長に就任して以来、同社の事業を加工品製造からブリやタイなどの養殖事業へと拡大し、2013年には尾鷲で30年ぶりに近海マグロはえ縄船「良栄丸」を新たに造船した。そして、その後造船した第十一良栄丸との2隻によるキハダ、ビンナガ、メバチの3種のマグロはえ縄漁業について、海洋管理協議会(MSC)漁業認証を申請、2020年1月、取得のための本審査に入った。

減少が心配されるマグロ類だが、資源管理をしっかり行ったMSC認証マグロの需要は急速に高まっている。小野さんは「2週間から1ヵ月に一度の良栄丸の尾鷲港入港の際には、港に人が集まり活気が出る。船を4隻まで増やし、毎週一度水揚げができれば、価格も品質も安定し、供給もしやすくなる」と野心的だ。

2018年、70年ぶりに漁業法が改正され、資源管理と養殖の強化がうたわれる一方、巻き網など資源を枯渇させる漁法も続いている。「他国は資源管理に本気で取り組み、もうかる漁業が育ち認証も急成長しているが、日本はまだ遅れを取っている」と感じている小野さんは、主力の養殖業でも、持続可能な養殖のための水産養殖管理協議会(ASC)認証の取得を目指している。漁業の衰退が著しい時代の流れに逆らって漁船を造り、養殖拡大など投資を続け、認証にも取り組む。周囲から「バカ」と呼ばれても、サラリーマン社長の挑戦は続く。(ぬ)

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