特集/環境負荷の少ない飲料容器とは?ライフサイクル思考で見る飲料容器の環境負荷

2020年03月16日グローバルネット2020年3月号

東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻

中谷隼(なかたに じゅん)

海のプラスチックごみ汚染が深刻化し、使い捨てプラスチックに対する議論が高まっています。2019年3月のグリーン購入法の基本方針が改定され、省庁の会議運営でペットボトルなどの使い捨てプラスチック製容器を使用しないことが明記されました。自動販売機で販売する飲料をペットボトルから缶に切り替える企業も出てきており、「脱プラスチック飲料容器」の動きは官民で広がっています。しかし一方で、プラスチック代替素材の使用は環境破壊につながるかもしれないと警鐘を鳴らす報告もあります。本特集では、ライフサイクル全体で飲料容器の環境負荷を減らす最善の方法について考えます。

 

最近、シングルユース(使い捨て)のプラスチック製の飲料容器に関する企業の取り組みについて、多くの記事を目にするようになりました。例えば、オフィスに設置された自動販売機からペットボトル飲料を排除して、アルミ缶や紙製の容器の飲料に置き換えるといった取り組みは、複数の企業で実施されており、マイボトルを全社員に配布したという企業もあるようです。喫茶店やコンビニで提供する飲料容器からプラスチック製のストローの使用を廃止する動きは国内外で見られ、その代わりに紙製のストローを導入したり、ストローレスで飲み口の付いたふたを開発したり、さまざまなアプローチが実践されています。そして、こうした取り組みが報じられるとき、必ず枕詞に「海洋プラスチック問題(汚染)」が付いていることも近年の特徴です。

ライフサイクル思考とは何か

読者の皆さんも、ライフサイクルアセスメント(LCA)については耳にしたことがあると思います。国際規格(ISO 14040)の定義を引用すれば、「製品システムのライフサイクル全体のインプット、アウトプットと潜在的な環境影響を評価」するための手法のことです。ここでのインプットとは天然資源の消費、アウトプットは環境負荷の排出と考えてもらって構いません。筆者は、LCAには三つの意味での視野の広さが求められ、それが「ライフサイクル思考」の要件でもあると考えています。

製品のライフサイクルは、しばしば「ゆりかごから墓場まで」と表現されます。ここに、一つ目の視野の広さが求められています。まず、ライフサイクルの上流(ゆりかご)は天然資源の採取まで遡及する必要があります。例えば、プラスチックの使用量を計測するだけでは不十分で、その生産に要した化石資源の採掘量を算定しなければいけません。また、ライフサイクルの下流(墓場)は廃棄物の最終処分まで追跡する必要があります。廃棄物の量を計測するだけでは不十分で、その中間処理やリサイクル、最終処分の結果として生じる環境負荷を定量化する必要があります。

また、LCAに求められる二つ目の視野の広さは、シングルイシューではなく、さまざまな種類の環境影響を考慮することです。例えば、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量や化石資源消費量という指標のみで評価すると、植物資源の利用に伴う土地利用や水資源の消費の問題を見逃す可能性があります。データの利用可能性が制約となってCO2排出量のみを評価している事例も多いのですが、本来的には、異なる種類の環境影響の間にトレードオフの関係が生じていないか、定量的に示すことが求められます。

さらに、評価対象とする製品や活動に伴って社会に起きる波及的な影響まで考慮しようという、三つ目の視野の広さがLCAに求められるようになってきました。例えば、レジ袋の有料化という政策は、レジ袋の使用量を減らすだけなら良いのですが、実際にはマイバッグの生産量やごみ袋の使用量の増加という反動によって、その効果は目減りしてしまう可能性もあります。こうした波及的な影響を定量的に評価することは非常に難しいのですが、考え方として重要であることに異論はないと思います。

ライフサイクル思考の視点からの評価

以上で述べたライフサイクル思考の視点から、冒頭に例として挙げた飲料容器に関わる取り組み(①自動販売機からのペットボトル排除②マイボトルの配布③プラスチック製ストローの廃止)について考えてみたいと思います。いずれの取り組みにも共通するのは、評価範囲や評価指標に関する視野の広さが欠如していることです。①と②の取り組みではペットボトル、③の取り組みではプラスチック製ストローの使用量を減らすことしか視野に入っていないようです。具体的な例として、あるコンビニチェーンで配布されるようになった飲み口が付いたふたと、それが導入される以前のふたとストロー、ストローの包装(いずれもプラスチック製)の重量を計測した結果、後者の合計が28g、前者が33gでした。つまり、プラスチック製ストローの廃止によって、かえってプラスチックの使用量は増えているという、疑問符が付くような取り組みもあるのです。

また、②の取り組みについては、環境負荷の低減に貢献する可能性もあれば、逆に環境負荷を増やす可能性もあります。マイボトルも、その生産や廃棄に伴って環境負荷が生じることはペットボトルと変わりません。マイボトルが環境負荷の低減に寄与するのは、それを何十回、何百回と繰り返し利用することで、ペットボトルなどのシングルユースの飲料容器の使用が回避され、環境負荷の低減が積み重なるからです。マイバッグでも同じことですが、それらを配布することが重要なのではなく、それらの繰り返し使用を促すような経済的または心理的な動機を与えることが大事です。

結局、海洋プラスチック問題ばかりに関心が集まることで、飲料容器を含むプラスチック全般に対する方向性を見誤っているというのが、昨今の状況なのだと思います。他の種類の環境影響(少なくともCO2排出量だけでも)まで視野を広げれば、例えば①の取り組みを実践するのであれば、その前にペットボトルとアルミ缶や紙製容器の環境負荷を評価しなければいけないことに気付くはずです。各企業がライフサイクル思考を持つことによって、合理性な取り組みが増えることを期待します。

LCAによる環境負荷の評価事例

最後に、LCAによって水を飲むさまざまなパターンの環境負荷を比較評価した事例を紹介します。ここでのポイントは、単なる飲料容器の比較ではなく、「飲む」という行為に着目していることです。水を飲みたいと思った状況ごとに現実的に可能なパターンを考え、それらを比較評価しています。

例えば、では外出先で飲むという状況を想定して、国産または輸入のペットボトル飲料水を自動販売機で購入するパターンと、水道水を冷水機から飲むパターン、マイボトルに入れて家庭から持参するパターンの温室効果ガス排出量を比較しています。

この結果には、ペットボトル飲料水の環境負荷の大きさだけでなく、さまざまな環境負荷の要因が示されています。例えば、自動販売機で消費される電力は、ペットボトル飲料水の生産・流通に伴う環境負荷と比べても小さくありません。ペットボトルをリサイクルしたとしても、ペットボトル飲料水の環境負荷がチャラになるわけではないこともわかります。また、冷水機やマイボトルの場合も、ペットボトル飲料水と比べると桁違いに小さいですが、まったく環境負荷がないわけではありません。

この評価事例を通して筆者が伝えたいことは、ライフサイクル思考で見れば、どのような行為にも環境負荷が伴うということです。その前提の下で、置かれた状況で可能なパターンの中から、どうすれば少しでも環境負荷を減らせるか考えることが重要です。単にプラスチックを減らすための取り組みではなく、その裏で発生している環境負荷にまで視野を広げて、どのように社会全体として環境負荷を減らすかを考えるべきです。

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