INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第60回 2ヵ月半遅れで全人代開催

2020年06月15日グローバルネット2020年6月号

地球環境研究戦略機関(IGES)北京事務所長

小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

全人代ようやく開催

5月22日、今年の全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)がようやく開催された。例年3月5日から10日間程度の会期で開かれるが、今年は新型コロナウイルス感染症流行の影響で延期され、流行がほぼ鎮静化してきた5月下旬に厳重な感染防止対策の下で開催された。期間も7日間に短縮された。短くなったのは会期だけでなく、冒頭に李克強国務院総理が読み上げる政府活動報告(施政方針演説に相当)も大幅に圧縮された。私が入手した日本語版(注:開会当日朝に世界の主要言語に翻訳された政府活動報告が配布される)では、昨年は本文36ページであったが今年は約半分の20ページであった。感染予防のため、会場の人民大会堂での配布を止め、WEBサイト上での配布になった。

今年の報告で開会前に最も注目されたのは国内総生産(GDP)の成長率目標であったが、大方の予想どおり設定が見送られた。現下の状況では誰でも、どの国でも確実性のある予測や目標の設定は困難であろう。報道によれば、全人代の内モンゴル自治区代表団分科会に出席した習近平国家主席は、感染症の流行前には6%程度の成長率目標を想定していたと発言したということだが、仮にこのまま設定したとしても今年第一四半期がすでにマイナス6.8%成長であったことを勘案すれば、挽回(達成)はほぼ不可能な数字であった。

生態環境保護に関する報告はどうだったか?

黄潤秋 生態環境部長

さて、私の連載での主たる発信は環境政策の動向であるが、今年の政府活動報告をざっと眺めた限りでは注目すべき新しい内容は何もなかった。もともと2020年は第13次五ヵ年計画(2016~2020年)の最終年であり、この計画の目標達成に向けて全力を挙げるということくらいしか目玉はない。この目標達成に関連して少し具体的に紹介したい。全人代の会場で5月25日に行われた生態環境部長(大臣)の記者会見では、4月29日に就任したばかりの黄潤秋部長(写真、2016年から副部長)は第13次五ヵ年計画の環境関連の拘束性目標(強制的かつ固定的な目標で、国のマクロコントロールの意図を示しており、達成が義務付けられた目標)を9項目紹介し、このうちの7項目は2019年末までに前倒しで達成されたが、2項目はまだ未達成であると紹介している。表は黄部長の会見での発言内容をもとに私が整理したものである。

ところで、今年の政府活動報告の中で生態環境保護に関してどのように言及しているのか、生態環境部のWEBサイトを参考にポイントをまとめてみた。最初に報告が大幅に圧縮されたと指摘したが、環境保護関連の報告内容も大幅に減っている。

1.生態環境が全体的に改善

汚染対策が持続的に推進され、主要汚染物質の排出量が引き続き減少し、生態環境が全体的に改善した。

2.引き続き削減

単位GDP当たりのエネルギー消費量および主要汚染物質の排出量を引き続き削減し、第13次五ヵ年計画期の目標・任務の完遂に努める。

3.汚染対策堅塁攻略戦

「青い空、澄んだ水、きれいな土を守る戦い」に勝利し、汚染対策堅塁攻略戦の段階的な目標を達成しなければならない。

4.法に基づく科学的で的確な汚染対策

生態環境対策の効果を高める。法に基づく科学的で的確な汚染対策を際立たせる。重点地域の大気汚染対策の難関攻略を深化させる。

5.大保護への共同取り組み

長江経済ベルト大保護の共同取り組みを推進する。黄河流域生態保護および質の高い発展計画要綱を策定する。

6.強化、加速、成長

汚水・ごみ処理の関連施設の整備を強化する。危険化学品生産企業の移転・改造を加速する。省エネ・環境保護産業を大いに成長させる。

7.クリーンで高効率な石炭利用

クリーンで高効率な石炭利用を推し進め、再生可能エネルギーを発展させる。

8.厳罰

野生動物の違法捕獲・殺傷・取引行為を厳しく処罰する。

9.生態文明

重要生態系の保護および復元に向けた重要プロジェクトを実施し、生態文明建設を促進する。

新型コロナウイルス感染症流行の余波

今回の全人代とは直接関係しないが、感染症対応をめぐる人事関連の話題について少し紹介しておきたい。昨年末から今年初めにかけて湖北省武漢市で新型コロナウイルス感染症が発生した。流行の兆しを見せた頃の武漢市や湖北省の初期対応に中国国内からも強い批判があったことは承知のとおりである。これに対して中国共産党中央は湖北省と武漢市のトップ2名(党委員会書記)を同時に交代させた。後任の湖北省のトップには上海市長であった応勇を充てた。応勇の後任には山東省長を異動させ、山東省長の後任には生態環境部長(部党組書記)だった李干傑を異動させた(注:異動の時期はそれぞれ少しずつ異なる)。そして、李干傑の後任の生態環境部党組書記の座に新彊ウイグル自治区党委員会副書記であった孫金龍を充てたが、孫は部長(大臣)には任命されず、4月29日に全人代常務委員会は黄潤秋を副部長から昇格させて生態環境部長に任命した(部長の任命権は全人代)。孫金龍は副部長になった。

通常、中央政府の部長(大臣)はその党組織の書記が兼ねるが、今回の生態環境部の人事では党組織のトップと行政組織のトップが異なるという珍しいケースになった。どちらが上かという議論になるが、生態環境部のWEBサイトでは孫金龍書記が上に載せてある。通例では書記の方が行政組織のトップよりも上になる。しかし、少なくとも外交関係では副部長よりも部長が上になることは明らかだ。

このような人事になった背景としては、黄部長は非共産党員であったことが関係するだろう。九三学社という少数政党に所属している。中国で非共産党員が大臣まで昇格する例は極めてまれでこれまで数例しかないということだ。黄部長は非常に優秀な人物であるということだろう。私も何回か会ったことがあるが、温厚で非常に謙虚な人柄であったのが印象的だった。

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