USA発サステナブル社会への道―NYから見たアメリカ最新事情第26回 新型コロナウィルスがもたらす米エネルギー産業の変革

2020年07月15日グローバルネット2020年7月号

FBCサステナブルソリューションズ代表

田中 めぐみ

アメリカでは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出規制により人びとの生活スタイルが大きく変わった。それに伴い、エネルギー需給パターンにも変化が起こっている。

最も顕著なのは輸送用燃料である。人びとが外出や旅行を控えるようになり、車や飛行機の利用が減ったため、ガソリンやジェット燃料の消費量が激減した。米エネルギー情報局(EIA)によると、4月後半時点でジェット燃料供給量は外出規制施行前と比べて62%減、ガソリンは40%減、ディーゼル燃料は20%減となった。4月後半から一部の州で、5月中旬からは全州で段階的に経済活動が再開されているが、当面この傾向は続くと見られている。

顕在化する石油業界の問題

需要の減少とともに、国内産油量も減っている。規制前の3月には日量平均が1,300万バレルを超えていたが、6月には1,050万バレルまで下がっている。テキサス州とニューメキシコ州にまたがる国内最大油井パーミアン盆地では、稼働している国内石油リグ(掘削装置)数が3月から5月の2ヵ月間で56%減少し、次いで大きい二つの油井地域でも64%減、69%減と記録的に低い値となった。

しかし、石油業界の問題は感染拡大以前から山積していた。シェールオイルブームにより2000年代後半から多くの企業がシェール開発業に参入し、18年に米国はサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国となった。当初は投資家の期待が高く、新規事業者でも容易に資金調達できたが、生産コストが高く財務業績が上がらない業界に失望した投資家が貸し渋るようになり、企業は負債の返済に苦慮していた。その上今年に入って原油価格が下落し、小規模な石油会社は風前のともしびとなっていた。油井は一度生産を止めると再開するのに多大なコストがかかる上、再開後に産油量が減り事業の継続が難しくなる可能性もある。そのため、価格が下がっても企業は操業を停止せず、供給量は増え続けていた。

そして3月初旬、世界的な供給過剰に対処するため、OPEC(石油輸出国機構)とロシア等の産油国を含むOPECプラスが協調減産に向けて協議したが、物別れに終わり、その後サウジアラビアが報復として増産に踏み切ったため、原油価格は急落した。そこにウイルスによる需要減少が追い打ちをかけ、原油在庫が増加、貯蔵施設の能力が限界に近づき、4月にはNY原油先物市場で価格がマイナスになるという前代未聞の事態が起こった。これが決定打となり、多くのシェール企業が操業を停止し、破産法適用を申請し始めた。

6月中旬時点で、原油価格は3月初旬時と同程度に戻っている。今後も産油量の減少は続くものの、来年春頃に増加に転じ、同年末まで微増が続くとEIAは予測している。一方、これまでささやかれてきたシェールの限界が現実となり、これを機にアメリカが脱オイルに向け代替燃料輸送への移行に動き出すとの見方もある。

変化する電源構成

電力消費も外出規制により減少したが、輸送燃料ほど大きな影響は見られていない。在宅勤務やホームスクールの導入により、商業・産業需要の減少分を家庭需要が補填したためと見られる。EIAによると、電力需要の半数以上が家庭であるフロリダ州では、規制前後で電力需要の変化は見られなかった。一方、産業需要の多い中部は規制後に9~13%減、電力需要の半数以上が商業でウイルスの被害が全米最大だったニューヨーク州では11~14%減少した。需要減少傾向は今後も続き、今年年間の電力需要は前年より5.7%減るが(商業9.1%減、産業6.7%減、家庭1.5%減)、21年は回復し1%増と予測されている。

一方、電源構成はコロナを機に改変が起こっている。EIAによると、ウイルス感染に伴う世界的な製鉄・発電両需要の減少により石炭生産量は昨年比25%減となり、電源シェアは昨年24%から今年17%と原子力より低くなるという。ただし、21年は天然ガス価格が上昇するためシェアは20%に回復する。天然ガスは昨年37%から今年41%に増加するが、今年後半から来年にかけて価格が上昇するため、来年は36%に減少する。原子力は供給量は変わらないものの電力総量が減るため、シェアは昨年20%から今年22%に増えるが、21年は21%に減る。再生可能エネルギー(再エネ)は今年も来年も風力と大規模ソーラーの新設が続き、昨年17%から今年21%、来年23%に増加する。つまり、来年再エネシェアが2位に躍り出ることになる。

終焉に向かう石炭発電

石炭業界では、外出規制により多くの炭鉱が閉鎖に追い込まれ、破産申請する企業が増えている。とはいえ、同業界の窮状は今始まったことではない。近年の天然ガス価格の下落と再エネコストの減少により、石炭火力発電の価格競争力が低下し、需要は減少傾向にあった。昨年の石炭発電量は前年比16%減と史上最大の下げ幅となり、1976年来の最低値を記録、1885年以降初めて再エネ電力消費が石炭を上回った。ニューヨーク州では今年3月に最後の石炭火力発電所が閉鎖され、ウィスコンシン州でも22年に石炭発電がゼロとなる。閉鎖された発電所の跡地にはソーラーや風力発電所が新設され、喪失分が補填されている。政治的な理由で石炭産業の延命が図られているが、市場原理の面でも環境面でも業界の縮小は不可避であり、コロナにより多少時期が早まったに過ぎない。

石油と連動する天然ガス

天然ガスはシェールオイル掘削の副産物でもあるため、石油の動向と連動している。近年のオイル開発の増加に伴いガス生産量は増加傾向にあり、過去2年間史上最高を記録したが、供給過剰により価格が下落し、業界は疲弊していた。そこへパンデミックが起こり、需要が減少。原油ほどではないものの価格が急落し、ガス井やシェール油井が操業停止を強いられ、多くの企業が破産申請した。今後は在庫量が適正に向かい、今秋から価格が上昇すると見られている。生産量は今年3%ほど落ち込むが、来春には価格上昇を受けて再び増加すると予想されている。これまでの尋常でない状態からあるべき様に戻るということだろう。

価格を武器に躍進する再エネ

再エネ業界は、外出規制により風力やソーラーの建設・認可作業の遅延、労働者の解雇、海外からの部品送付の遅延等の影響が出ており、とくに家庭用ソーラーパネル設置業者の損失が大きかったが、影響は最小限にとどまると見られている。経済活動再開後、大規模ソーラーや風力の建設・認可は堅調に進んでおり、再エネ容量の増加は今後も続くと予想されている。

風力とソーラーは近年発電コストが大幅に下がっており、石炭や天然ガスとの価格競争力が増している。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、技術改良や規模の経済、競争の激化、開発企業の経験値向上等により、太陽光発電コストは2010年より82%減、太陽熱は47%減、陸上風力は39%減、洋上風力は29%減となっており、19年に新設された大規模再エネ容量の56%は化石燃料より発電コストが安かったという。

カリフォルニア大学バークレー校は、再エネコストの低下により、電力料金を上げずに2035年までに全米でゼロカーボン電力90%、45年までに100%の実現が可能になったとする調査報告書を発表した。このシナリオでは、ガス火力発電の新設は不要、35年までに石炭火力発電はゼロとなり、電力卸価格は現在より13%低くなるという。ただし、連邦政府による政策が不可欠であり、連邦クリーン電力基準の設定やクリーンエネルギーへの投資、税控除、インセンティブ、石炭産業への損失補償等の政策が挙げられている。

電力会社も投資家も、天然ガスや石炭より、運営コストが安く景況に左右されにくい再エネを好んでおり、今秋天然ガスの価格が上がればこの傾向は一層強まるだろう。コロナを契機に、化石燃料から再エネへ、エネルギー転換の実現が近づいている。

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