特集/イベント報告 Refill Japan オンラインカフェ Vol.1「水道水に感謝! 蛇口の向こう側、地球の向こう側」大阪市の水道事業の概略

2020年08月18日グローバルネット2020年8月号

NPO法人水政策研究所 理事
北川 雅之(きたがわ まさゆき)さん

 蛇口をひねれば出てくる水道水は、飲用・生活用水とするほか、とくに今は新型コロナウイルス感染防止のために日々の手洗い・うがいに欠かせないもので、コロナ禍でその価値の大きさに改めて気付かされています。安全な水を利用できることは世界中のすべての人びとの権利ですが、その地域と状況に合う、整った仕組みが工夫・継続されてこそ実現します。
 本特集では、5 月29 日に開催されたオンラインセミナー「Refill Japan オンラインカフェVol.1『水道水に感謝! 蛇口の向こう側、地球の向こう側』」(主催:水Do! ネットワーク)における、安全な水を届けるために国内外で働く3 名による発表の概要を紹介します。

 

 

 

 

NPO法人水政策研究所は、「水は公共財である」ということを市民の方々にわかっていただくため大阪を拠点に活動しています。2004年4月に設立され、河川流域の現状を調査・把握し、問題点を明らかにしながら、改善策を研究していくとともに、河川の清掃活動や、シンポジウムや学習会など水道事業や河川の環境保全などに関するさまざまな活動を行っています。

大阪市については人口約274万人、世帯数143万世帯で(いずれも2019年10月現在)、市内に働きに来る人が多くいるため、昼間の人口が約354万人で昼夜間の人口率は131.7(2015年)、政令指定都市に東京特別区(23区)を加えた21大都市の中で最も昼夜の人口比率が大きいのが特徴です。

大阪市の水道事業

大阪市水道事業は1895(明治28)年から始まりました。市勢の発展とともに、数回の拡張事業を実施してきましたが、戦後の急速な水需要の増加に対処するため、1957年には庭窪浄水場を、さらにその翌年には豊野浄水場を新設しました。そして、引き続き水需要の増加と淀川の水質悪化に対処するため、拡張事業を進め、三つの浄水場で給水能力は一日当たり243万tという規模になっています。1973年頃からは人口の減少傾向や高度成長期の終焉、また節水という意識の普及などの社会・経済情勢の変化により、水需要が減少してきたことで、1975年には拡張事業の中断が決定され、現在は渇水や地震など異常時においても必要な水の供給が確保できるよう、安定性・安全性の高い施設を目標に、施設の維持を主眼に置き、浄水施設や排水管など水道施設全体を計画的に整備してきています。

また、高度成長期に大阪市の水がめである琵琶湖の富栄養化や淀川水系の汚染などによって、水道水にかび臭などの異臭味がすると多くの市民から苦情がありました。そこでそれを解決するため、1992年度からオゾンと粒状活性炭による処理工程を加えた高度浄水施設整備事業を実施し、2000年3月には市内全域において高度浄水処理水の供給を開始し、より安全でおいしい水をつくることができるようになっています。

水源は淀川です。三つの浄水場から市内全域に給水しています。最も大きく最も古いのが柴島浄水場で、給水能力は日量118万tの規模で、敷地面積は約46万m2と、阪急電鉄の三つの駅にまたがるほど広大です。市内の中・北・西北部に給水しています。そして庭窪浄水場は上流部の守口市に位置しており、給水能力は日量80万t、もう一つの豊野浄水場はそれより上流部の寝屋川市にあり、日量45万tの浄水場です。

浄水場というのは、川の水を水道水に変えるのが役割です。川の水というのは本来ならきれいであってほしいのですが、昨今のように集中豪雨や台風などによって汚れることもありますし、上流部の開発によっても川が汚れるということもあり、日々表情を変えています。この水をおいしく安全な水道水にして市民に送るというのが浄水場の役割であり、一日24時間、一年365日、絶やすことなく水を作り続けるという使命を帯びています。

のように、まず取水塔や取水口から淀川の水を取り入れ、沈砂池で、粗いごみや砂を沈めて取り除き、沈砂池の水をポンプでくみ上げ、着水井ちゃくすいせいで水の水位を調整します。凝集沈殿池で、大阪市では凝集剤として「硫酸ばんど」という薬品を入れ、かくはんして細かい混ざり物などをフロック(塊)にして下に沈め、きれいにします。その後、オゾン処理で有機物の分解・消毒を行い、最後に粒状活性炭で有機物質の吸着や微生物による分解除去を行います。塩素処理をして配水池にため、それをポンプで各家庭に送るという流れになっています。

高度浄水処理と配水施設

かび臭いにおいや、浄水場で塩素を使うことによってできるトリハロメタンという物質などを取り除き、より安全で良質な水を作るために、これまでの浄水処理方法にオゾンと粒状活性炭による処理工程を加えたものが高度浄水処理というシステムです。どこの浄水場でもやっている方法ではありません。

これにより、かび臭などの異臭味は完全になくなり、トリハロメタンも大幅に減少させることができるほか、クリプトスポリジウムなどの病原性微生物に対する安全性の向上が期待できるなど、総合的な水道水質の改善を図ることができます。

また、配水施設については、大阪市には柴島浄水場行内の排水施設のほか9ヵ所の配水場、1ヵ所の給水塔そして7ヵ所の加圧ポンプ設備があり、配水池の全容量は66万5,500m3です。また、配水管は26条の配水幹線をはじめ市内に網の目のように布設されており、総延長は2018年度現在、導・送水管も合わせると5,227kmとなっています。

当たり前に水が使える水道の有難みを再認識して水道に興味を

水の都と呼ばれる大阪は、淀川をはじめとする河川の水に恵まれ、水道ができるまでは川の水を生活用水として利用していました。しかし、明治初期にコレラなどの伝染病の流行や大火災が続発したことにより、衛生面・防火面から水道布設を望む声が高まったことがきっかけで、1895(明治28)年に大阪城内の配水池から自然流下により給水が開始されたのが大阪市の水道普及の始まりです。そういうことで言うと、水道のいちばんの目的というのは衛生に寄与するということかと思います。

現在、新型コロナウイルスの感染が拡大している中、手洗いの大切さが言われていますが、それには安全で清潔な水が各家庭に届くことが前提となります。ですので、当たり前のように水が出て当たり前のように水を使えるという水道の有難みというのを改めて認識し、水道に対し日頃から興味を持ってもらうというのはとても重要なことだと思っています。

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