特集/イベント報告 Refill Japan オンラインカフェ Vol.1「水道水に感謝! 蛇口の向こう側、地球の向こう側」琵琶湖の水を守る~大津市のマイボトル活動

2020年08月18日グローバルネット2020年8月号

大津市 企業局経営戦略室
仁志出 彰子(にしで しょうこ)さん

 蛇口をひねれば出てくる水道水は、飲用・生活用水とするほか、とくに今は新型コロナウイルス感染防止のために日々の手洗い・うがいに欠かせないもので、コロナ禍でその価値の大きさに改めて気付かされています。安全な水を利用できることは世界中のすべての人びとの権利ですが、その地域と状況に合う、整った仕組みが工夫・継続されてこそ実現します。
 本特集では、5 月29 日に開催されたオンラインセミナー「Refill Japan オンラインカフェVol.1『水道水に感謝! 蛇口の向こう側、地球の向こう側』」(主催:水Do! ネットワーク)における、安全な水を届けるために国内外で働く3 名による発表の概要を紹介します。

 

 

 

 

琵琶湖の水を飲み、琵琶湖へ水を返す

大津市は、琵琶湖のある滋賀県の県庁所在地で、県の南西部に位置しています。縦に長く、水道管もたくさん張りめぐらされ、六つの浄水場を持っています。

私が所属する大津市企業局は、上下水道の他にガスも経営している公営企業です。私は経営戦略室という所で広報戦略を担当しているのですが、2019 年度に新しい広報戦略を立ち上げました()。現在行っている広報戦略の活動では、1 のC には「マイボトルを持ち歩くライフスタイルを提供する」、2 のA には「水道水のイメージ革命」があります。

この広報戦略についてはすべて、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を意識しています。水の循環というのは、川やダムなどの水を水道水にし、使った後は下水道を通って下水施設で綺麗にされ海に戻り、その海水が蒸発して雨になって山から流れる、というのが一般的だと思います。大津市は琵琶湖に面しているので、私たちの水道水はすべて琵琶湖の水から作られています。そして使った水が返るのも琵琶湖です。つまり、私たちは琵琶湖の水を飲み、琵琶湖へ水を返すという直接的な水循環サイクルの中で生活しているのです。そのような中で、水をいかにきれいに使い、どれだけ水を大切にするかという点で、SDGs に行きついたのは自然の流れだったと思います。

「世界にひとつだけのマイボトル」

しかし残念ながら県がプラスチックごみの調査のために琵琶湖の湖底を清掃したところ、大量のプラスチックごみが出てきました(写真①)。水道水の水源である琵琶湖を守るために、ペットボトルを無くす、プラごみを削減するためには、マイボトルを持ち歩くと言うライフスタイルがいい、ということになり、大津市では少し変わったマイボトル活動を実施しています。

マイボトルを持ってほしいターゲットは誰かというと、子供は多くが水筒を持っているので、便利に慣れてしまった人や、マイボトルを持っていない人たちです。物を大切にすれば、捨てるごみが減って琵琶湖が守られるということがわかっていても、今は使い捨てできる物がたくさんあり、物を大切にする価値観というものが希薄化していると思います。そこで考えたのが、ただのマイボトルではなく、「世界にひとつだけのマイボトル」という活動です。これは、子供たちが絵を描いて手作りしたマイボトルを家族にプレゼントするという活動です。子供の成長に合わせて中の絵を換えることができ、いつまでも長く大切に使い続けることができると思っています。「いつまでもきれいな水道水が飲めるよう、琵琶湖を大切にしてほしい」という子供たちから大人たちへの啓発活動にもなっていると思います。ある幼稚園では、それまでマグカップや写真立てなどを卒園制作としていたのをマイボトルに変えて園児が制作してくれました(写真②)。それは子供たちからプレゼントをもらった大人たちにとって、SDGs の意識を高める良い機会になったのではないかと思います。そして、子供たちのかわいい絵を見ながら水を飲み、体も心も潤う、というのがこの活動のポイントです。

この活動が他のマイボトルの活動と違うのは、無料で配布していないという点です。マイボトルはゴミになる恐れがあるということから、思い入れのある、ごみになりにくいマイボトルを作ろうという考えです。そして、マイボトル制作には、①独自性(どこもやっていない)、②継続性(簡単に誰もができる)、③意外性(直接的な水道水のPR ではない)、④感受性(心が豊かになる)という四つのポイントがあります。

心に響きやすい情報発信を

そして、マイボトルを普及させるだけではなく、広報紙でお茶についての特集を組んだり、「心豊かになるハーブウォーターの作り方を学ぼう」というイベントを実施したりもしています。見た目もきれいで、デトックスになる、などと言うと、水道水を飲み始めてくれる方が増えています。

市民の皆さんには買った飲み物を飲むのではなく、家で作った飲料水を飲む、ということに、まずは慣れていただきたいと思っています。そして、家の水を飲むということは水の地産地消につながる、ということを知っていただきたいと思います。「マイボトルを持ち歩いてください」とか「水道水を飲んでください」と訴えるような啓発や依頼ではなく、「子供にマイボトルをもらった」と自慢しながら拡散したり、「お茶と水道水の相性は抜群」と私たち職員が言うのではなく第三者が言うことによって、共感が生まれやすくなります。このように、水道水に関して心に響き易い情報発信を心掛けています。

当たり前に出る水道水に感謝する

「感謝の気持ちをどう引き出すか」ということを考えて広報活動を行っています。水が蛇口から出るのは当たり前です。でも水道事業に携わっている人たちは、そんな当たり前の生活を守るために使命感を持って働いています。その頑張りをお客様に知ってもらうために、広報がいるのです。そしてお客様の感謝の気持ちを職員にフィードバックさせモチベーションをアップしてもらう、そしてそのモチベーションが技術の向上につながり、より安心、安全な水道水をお客様にお届けすることができるーそのようなサイクルで、持続して発展し続ける仕組みづくりというものを広報では行っています。

新型コロナウイルスの感染拡大により、当たり前の生活がいかに幸せなことか、と感じられたと思います。災害時や非常事態の時だけ感謝するのではなく、毎日、すぐ近くにある水道水についてもう少し知ってもらうために私たちは広報活動を進めていきたいと思います。

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