特集/イベント報告 Refill Japan オンラインカフェ Vol.1「水道水に感謝! 蛇口の向こう側、地球の向こう側」すべての人に水・衛生を~ウォーターエイドの活動

2020年08月18日グローバルネット2020年8月号

特定非営利活動法人ウォーターエイドジャパン 事務局長
高橋 郁((たかはし かおる)さん

 蛇口をひねれば出てくる水道水は、飲用・生活用水とするほか、とくに今は新型コロナウイルス感染防止のために日々の手洗い・うがいに欠かせないもので、コロナ禍でその価値の大きさに改めて気付かされています。安全な水を利用できることは世界中のすべての人びとの権利ですが、その地域と状況に合う、整った仕組みが工夫・継続されてこそ実現します。
 本特集では、5 月29 日に開催されたオンラインセミナー「Refill Japan オンラインカフェVol.1『水道水に感謝! 蛇口の向こう側、地球の向こう側』」(主催:水Do! ネットワーク)における、安全な水を届けるために国内外で働く3 名による発表の概要を紹介します。

 

 

 

 

ウォーターエイドは1981年にロンドンで設立され、これまで40年にわたり、水と衛生という分野で専門的に活動してきた団体です。現在34ヵ国に拠点を置いて活動しており、日本の事務所は2013年に設立されました。

「すべての人が水と衛生にアクセスできる世界」をビジョンとし、「清潔な水」「適切なトイレ」「手洗いの衛生習慣」を3本柱として活動しています。

水・衛生の危機

清潔な水を使うことができない人たちは世界に約10人に一人に相当する7億8,500万人います。適切な衛生設備(トイレ)を使うことができない人も3人に一人に当たる20億人もいて、実は携帯電話を持っている人の方が多いともいわれています。さらに、世界では今なお40%の家庭でせっけんと水が使える手洗い設備がない。そして深刻なのが、本来感染を防ぐ最前線であるべき病院など保健医療施設の半数近く(43%)がせっけんと水を使って手洗いができない、という状況にあるのです。

なぜ、いまだに水が使えない地域がこんなたくさんあるのかというと、インフラが整備されていないことが最も思い浮かぶかと思いますが、私たちが活動している地域でその原因を深掘りしていくと、実は地域や場所、それから同じ地域に住んでいても人によってその理由がさまざまである、ということがわかります。例えば、すぐそこに水が使える井戸があっても障害者が使えない形状になっていたり、インドではカーストによって、みんなが使っている井戸を使うことを許されない人たちがいます。また、設備があっても維持管理するための料金徴収の仕組みがなかったり、整備する人や技術がある人がいなかったりで、壊れたらほったらかしになってしまっている。料金徴収の仕組みがないので修理代が出せない、また、そもそもその国の中でどこに水が使える設備があって、どれが壊れて稼働していないのかというデータがまったくない。データがないので、水道が通っている場所なのに、異なる省庁が井戸をたくさん造ってしまう、というようなことがあるのです。

「しくみを作る」

問題を解決するためにウォーターエイドはどのような活動をしているのか。最もシンプルでわかりやすいのは、その地域にあった技術の給水設備を設置するということです。しかし、いくら設備を造っても、維持管理のしくみがなければ、それは2~3年たったら動かなくなってしまうかもしれない、そもそもデータがなければ水が使えている場所にも同じような設備を造ってしまうかもしれない、というようなことが起こり得ます。そこで、より持続可能で、その地域の水の課題を本当に解決するために力を入れているのが、「しくみを作る」ということです。

図は、その地域のすべての人たちが水を使えるようにするために、必要ではないか思われる「しくみ」をまとめたものです。日本では、さまざまな人の尽力のおかげでこういった仕組みがすべてきちんと動いているからこそ、私たちは毎日きれいな水を使うことができるのですが、開発途上国ではこういった仕組みのどれかが欠けている。一つだけではなく二つ、三つ、場合によっては全部欠けているケースもあり、その結果きれいな水を使うことができないのです。これらすべてが整って初めてすべての人が水を使えるという仕組みが出来上がり、その仕組みが国や地域の中にできてしまえば、私たちが活動しなくても回っていく、という状況になることを目指しています。

また、途上国の人たちはきれいな水が使えることを当たり前だと思っておらず、井戸が干上がって使えなくなったら、また川まで水をくみに行くようになってしまうこともあります。私たちは、きれいな水が使えることは、本来当たり前であるべきで、人が生きるための権利だということを理解してもらう活動も行っています。

インドでの地下水保全・給水設備整備プロジェクト

その実現のために取り入れた、インドにあるアンドラ・プラデシュ州での活動を紹介します。インドでは、地下水の過剰利用や気候変動による雨量の減少により、各地で水不足が起きています。ここの地域は地下水量が激減しており、1年間で約10mも地下水の水面が下がってしまいました。

この地域の人たちは、地下水を水源とする水道や手押しポンプが付いた井戸を使っていますが、地下水不足により水が出なくなってしまい、遠くの川まで水をくみに行ったり、水が出る井戸を探しに歩き回らなければならなくなってしまいました。さらに、その水道や手押しポンプ式の設備自体も、管路やポンプの不具合によって故障中のものも多いです(写真①)。

さらに深掘りしていくと、インドはモディ首相が2024年までにすべての世帯に水道を通すと宣言し、予算もつけているのですが、現場レベルの村の水衛生委員会があまり機能していません。その結果、県・州の政府はニーズが把握できず、結局散発的なプロジェクトに予算を使ってしまう、という課題があります。

そこで私たちは、①村水衛生委員会とコミュニティボランティアを対象にトレーニングを実施し、②水道や手押しポンプ式井戸など既存の給水設備を修復、地下水涵養+雨水活用設備の導入を実施しています。

①では、村水衛生委員会を対象に、その地域でどこに水がたまっているのか、どこにその水が流れているのか、どこにどのような人が住んでいてどういった設備を造れば水問題を解決することができるのか、住民と一緒に計画を立てるトレーニングを実施しています。それに併せてとくに女性や若者などコミュニティボランティアの人が主導で②の活動を実施できるようにするためのトレーニングも行っています。

また、地下水が減っていることから、地下水だけに依存せずに雨水を活用することも始めました。タンクに雨水をためて飲料や生活用水のための給水設備として使い、大雨が降ったときにはもう一つの地中につながっているタンクにつながり、地下水の涵養ができる設備も導入しています。

これらはウォーターエイドのプロジェクトとしてウォーターエイドの資金で実施しましたが、経験した村水衛生委員会やコミュニティボランティアの人たちが政府にお金を申請して、さらに地下水涵養設備や修理の件数などを増やしていくという仕組みを作っています。

なお、基本的には給水設備の水はその国や地域の基準に合う、そのまま使えるような水質になるように設計しています。煮沸しないと使えない場合、まきを取って来る労力が大変な地域もあり、結局煮沸をやめてそのまま飲んでしまう可能性があります。万が一飲料に敵さない場合は、飲み水は深井戸の安全な水を使って、雨水や浅井戸からの水は農業用水や生活用水に使うなど、段階的な供給をしています。

水と手洗いで感染拡大を防ぐ

最後に、新型コロナウイルス感染症に関連する話なのですが、日本では手洗いとうがいが普通にできるのですが、実はそれは普通ではありません。世界の約40%の家庭、43%の保健医療施設には、水とせっけんを使える手洗い設備がありません。そこで、ウォーターエイドが取り組んでいることの一つが、手洗い設備の設置です(写真②)。保健医療施設や病院のほか、人が集まりやすい街中でも設置をしています。感染を防止するため、今導入しているのが足踏み式です。足で踏むことで水も出るし、ポンプも押されて石けんも出てくるというものです。

また、給水設備では立つ位置に丸を書いて距離を保って列に並んでもらったり、村の水衛生委員会など設備の管理人に井戸のポンプなどを消毒できるように消毒液を配布したりもしています。さらに、正しい手洗いについて説明する看板を載せた車を走らせたりして普及啓発活動も行っています。

各国政府は新型コロナウイルス対策に多くの予算を出すという発表をしています。一方、途上国では手洗いという最前線で防ぐことが大事であるにもかかわらず、手洗いと水があまり重視されていないように感じています。水が大事だというメッセージを是非私たちと一緒に声を上げて発信していただけるととても心強いです。

また、水分野で活動を展開するにあたり、気候変動も大きな影響があります。気候変動に対してとくに危険な西アフリカと南部アフリカで、ウォーターエイドは活動しています。気候変動とコロナは無関係ではなく、例えばインドでは地下水涵養なども始めていますが、これから水不足になる傾向が見えており、水不足になると各家庭が使える水の量が減るので、飲料水を優先せざるを得なくなり、手洗いが十分にできなくなる。その結果、感染予防ができないということがインド以外の他の国でも起きています。そのため、気候変動への取り組みはますます重要になってくると考えています。

私たちの活動状況はWEBサイトで随時更新し、緊急募金も受け付けていますので、ぜひご覧ください。

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