NSCニュース No. 128(2020年11月)ビジネスと人権

2020年11月16日グローバルネット2020年11月号

NSC代表幹事
後藤 敏彦(ごとう としひこ)

ビジネスと人権

国連憲章は1945年6月に調印され、同年10月に発効した。55条3項では「すべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守」の促進を加盟各国に義務付けている。

これを受けて国連は1948年12月10日に世界人権宣言を発した。これは法的義務を各国が負うものではなく、義務はその後の条約に委ねられた。

国際人権規約は、1966年12月16日に採択された「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約)、「市民的 及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)、「市民的及び政治的権利 に関する国際規約の選択議定書」と、1989年12月15日に採択された「市民的及び政治的権利に関する国際規約の第二選択議定書」の四つから成り立っている。

日本国は1979年6月、社会権、自由権両規約を批准し、これらは1979年9月に発効したが、二つの選択議定書については、締約国になっていない。

社会権規約は中に労働基本権が入っている。従って国際労働機関(ILO)の労働基本権に関する4重点分野8条約は人権に該当する。4重点分野とは、「結社の自由、団体交渉権の承認」「強制労働の禁止」「児童労働の禁止」「差別の撤廃」である。

自由権規約は、婚姻の自由等12項目が規定されている。

 

「ビシネスと人権」に関する動向

グローバル化により多国籍企業等の人権侵害が多発したことから、2003~04年頃に国連人権委員会の専門家から成る補助機関によって「多国籍企業及びその他の企業に関する規範」と呼ばれるものが起草されたが、加盟国の支持が得られなかった。人権委員会は、新たな取り組みとして、2005年に「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題」に関する事務総長特別代表という役職の設置を決め、事務総長にその役職者の任命を要請した。米国ハーバード大学教授のジョン・ラギー博士が特別代表に任命され、2008年に国連フレームワークを人権理事会に提案し承認された(人権委員会は2006年6月19日に人権理事会が設立され廃止された)。

国連フレームワークは「“Protect, Respect and Remedy” Framework(保護・尊重・救済枠組み)」で、人権を保護する義務は国にあり、企業は尊重する責任、被害者は救済される、というものである。これに基づきラギー博士は世界中で公聴会等を開き、2011年3月に最終報告書「ビジネスと人権に関する指導原則」を提出し、6月に人権理事会で採択された。指導原則については筆者らと一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)で翻訳し、国連広報センターのWEBサイトに掲載されている。

その後2014年に国連人権理事会に「多国籍企業や他の企業と人権に関する無制約の政府間ワーキンググループ(OEIGWG)」が立ち上げられ、2019年7月にはゼロドラフト、2020年6月には第二次草案を発している。この条約案では各国が企業に対して人権デューディリジェンス(含む環境。以下、人権DD)を義務付けることを規定している。

この条約化の動きに対してラギー博士は批判的であるが、欧州各国では国内法で人権DDを義務化する動きもある。また、欧州連合(EU)自体、2020年4月に義務的な「人権・環境デューディリジェンス法」を2021年までの制定に向け検討することを表明している。

人権DDに関して言えば指導原則でも触れられているが、経済協力開発機構(OECD)は2011年にその多国籍企業行動指針を指導原則に沿った内容に大改訂している。その後、人権のみならず環境・経済・社会の主要課題についてのDDを提言し、各種ガイドラインを発行している。

 

国別行動計画(NAP)

2015年のG7サミット首脳宣言で、「国連ビジネスと人権に関する指導原則を強く支持し、実質的な国別行動計画(NAP)を策定する努力を歓迎する」と決議された。これを受けて外務省が窓口となって取りまとめ、2020年10月16日に日本のNAPが公表された。しかし内容については作業部会に参加したすべてのセクターの共通要請事項(第2)というものが6月に提出されており、さまざまな批判もある。従って日本版NAPにとどまるのではなく広く世界の動きをウォッチしていないと大きな痛手を負いかねない可能性を考えておくべきであろう。

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