特集/未来の在るべきエネルギーの姿とは①~日本の脱炭素実現のための提言~再生可能エネルギーと地域再生

2021年01月15日グローバルネット2021年1月号

京都大学大学院 経済学研究科/地球環境学堂 教授
諸富 徹(もろとみ とおる)

 昨年(2020年)10月、経済産業省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で、国のエネルギー政策の基本的な方向性を示す「エネルギー基本計画」の見直しに向けた議論が開始されました。東京電力福島第一原子力発電所の事故から今年で10年。原子力を廃止し安全を最優先としたエネルギー政策を進め、真の脱炭素化社会を目指すためには、いかにエネルギー転換を進め、どのようなエネルギーミックスの姿を示す必要があるのでしょうか。  今月号では、これまでの日本のエネルギー政策を振り返り、今後の脱炭素実現のための提言をご紹介いただきます。

 

自治体・地域にとってのエネルギーの重要性

筆者は、地域再生を図る上で、エネルギーが決定的に重要だと考えている。それは、①都市・地域を経済的な意味で豊かにし、②再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の振興を通じて環境を改善し、さらに、③エネルギーを地域で事業化することで自治体の財源を豊かにできるからである。

ところがこれまで、エネルギー事業は国や民間の電力・ガス会社が担うものであって、自治体や地域が関与するものではないと考えられてきた。

だが、東日本大震災がこうした事態を大きく変えた。福島第一原発事故による電源不足や計画停電、節電などを経験した自治体にとって、エネルギー供給の確保は住民の生命を守るために欠かせない仕事となった。2018年9月に地震を原因として起きた、北海道全域のブラックアウト(全停電)、そして2019年9月に関東地方を襲った台風15号による千葉県の大規模停電など、電力供給の途絶が頻繁に起きるようになっている。こうした事態も、災害時の電源確保のために、自治体がエネルギー政策に関わらざるを得ない要因となっている。

2012年に導入された「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)」と、ほぼ同時並行で進められた電力自由化は、自治体がエネルギー政策に関与する上での制度的基盤を整えた。電力事業のうち発電事業と小売事業は自由化され、電力会社以外の事業主体の参入が可能になった。地域で企業や住民が新しい電力会社を創設したり(「地域新電力」)、自治体自らが電力事業に参入することすら可能になった(「自治体新電力」)。

再エネを通じて「地域経済循環」を促す

再エネは、原子力発電や火力発電などの「集中電源」と異なって、「分散電源」としての性質を持っている。資源を海外から輸入し、大規模な発電設備で発電しなければならない前者と異なって、後者の再エネは太陽、風、水、バイオマスなど、基本的に日本全国どこでも手に入る資源を用いて発電を行えるというメリットがある。このため、再エネの発電に占める比率が6割に達するデンマークや同比率が4割を超えたドイツでは、電力システム全体が「集中型」から「分散型」へと移行し始めている。日本もFITのおかげでこの比率が18%程度まで上昇してきたが、まだまだ伸ばす余地がある。

分散型電力システムへ移行するということは、地域で自分たちがエネルギーを生産し、消費することが可能になることを意味する(「エネルギーの地産地消」)。東日本大震災前までは、こうした展望を持つことは想像すらできなかった。

ところで、「エネルギーの地産地消」がなぜ重要なのか。それは、「地域経済循環」を促進するからだ(諸富編 2015;諸富 2018,第3章)。これまで電力やガスの供給を、電力会社やガス会社に頼っていたことによって、私たちの支払う電気代やガス代は、電力会社やガス会社の本社立地都市、つまり大都市地域に流出し、果ては、中東など海外に流出していた。例えば、滋賀県湖南市の場合、地域総生産(GRP)のうち8.3%が電気・ガスなどのエネルギー代金支出として域外流出していることがわかっている。他の都市でも同様の計算をしてみると、地域総生産のだいたい1割近くがエネルギー代金の支出という形で域外流出していることが判明するはずである。この所得部分を、地域でエネルギー生産を行うことで、取り戻すことはできないだろうか。

一つの可能性として、「シュタットベルケ」(都市公社)がいま注目されている。これは、ドイツで上下水道、公共交通、エネルギーなどあらゆるインフラを手掛ける自治体100%出資の公益事業体を指している。日本の地方公営企業に似ているが、シュタットベルケはエネルギー事業が中核事業であるのに対し、日本の地方公営企業はエネルギー事業をほとんど手掛けていないという違いがある。ドイツのシュタットベルケは、自治体が全面的に関与する形で、エネルギー事業で大きな収益を上げ、それを財源に公共交通ほか他のインフラ事業の赤字を賄い、支える機能を果たしている。

「シュタットベルケ」という仕組み

シュタットベルケ(Stadtwerke)とは、地域の所得をせき止め、それが域外流出しないよう循環させる制度的基盤だとお考えいただきたい。現在、ドイツには約900のシュタットベルケが存在しているといわれ、電力、ガス、熱供給といったエネルギー事業を中心に、上下水道、公共交通、廃棄物処理、公共施設の維持管理など、市民生活に密着した極めて広範なサービスを提供している。これらのサービス提供を可能にするためのインフラの建設と維持管理を手掛ける、独立採算制の公益的事業体が、シュタットベルケである。

シュタットベルケのビジネスモデルの大きな特徴は、「エネルギーでもうけて、その他の公益事業を支える」という点にある。ドイツのシュタットベルケのエネルギー事業はたいてい黒字を計上しており、それを元手に公共交通など、赤字を計上している他の公益的事業を支援している(諸富 2018,168~173頁)。上下水道など、日本の地方公営企業は人口減少時代に、その経営の持続可能性への不安が高まっている。ドイツのように、「エネルギー事業で稼いで、公共インフラを維持する」といったビジネスモデルを導入できないだろうか。

人口減少時代の地域課題と「日本版シュタットベルケ」

日本でも、再エネの促進と電力システム改革というエネルギー政策の大きな構造転換の中で、シュタットベルケへの関心が高まり、「日本版シュタットベルケ」が次々と創設されつつある。筆者の知る限り、全国ですでに50ほどの設立事例があり、さらに今後も増加していく予定である。

これからの日本が本格的に迎える人口減少時代の都市/地域は、地域再生のために以下の三つの大きな課題にチャレンジしていかねばならない。第一は上述のように、地域経済循環を促進することで、経済的に持続可能な発展を図ることである。

第二に、老朽化する社会資本の維持更新、そして地域福祉を賄うための財源調達にめどを付けることである。もはや、莫大な借金を抱える国からの税源移譲は望めない。エネルギー事業を地域で手掛けることで収益を獲得し、税収を上げることができれば、自治体の財政の持続可能性の向上に大きく寄与できる。

そして第三に、パリ協定後の「脱炭素」へ向けた国際的な潮流の中で、各都市/地域で「脱炭素」に向けた取り組みを進めていく必要がある。域外で生産されたエネルギーが化石燃料由来であれば、それを地域の再生可能エネルギーで置き換えれば、脱炭素化に向けた貢献になる。

われわれが、ドイツのシュタットベルケという仕組みに注目するのは、それがエネルギー事業を通じて、①地域経済循環を促し、②高い収益を上げることで、他の公益事業に再投資するための財源を生み出し、さらには、③再エネを伸ばすことで温室効果ガスの排出削減に寄与し得るからである。

筆者も、地域経済と地方財政の在り方に関心を持って、地域再生のカギとなる要素は何か、調査研究を重ねてきた。その結果、到達した暫定的な結論は、エネルギーこそが地域再生を図る上で最も重要な基盤となり得る、というものである。これまでにも農林業、観光、福祉などの重要性が指摘されてきた。だが、ドイツの経験からエネルギーこそが最も着実に収益を上げ、貴重な財源を地域にもたらしてくれる事業領域であることがわかってきた。さらにそれが、これからの脱炭素社会との構築と整合的であるならば、着手しない手はない。日本でも多くの自治体・地域がこの課題にチャレンジされることを期待したい。

    <参考文献>
     諸富徹(2015),『「エネルギー自治」で地域再生! ―飯田モデルに学ぶ―』岩波ブックレット.
     諸富徹編(2015),『再生可能エネルギーと地域再生』日本評論社.
     諸富徹(2018),『人口減少時代の都市』中公新書.
     諸富徹編(2019),『入門 再生可能エネルギーと電力システム』日本評論社.
     諸富徹編(2019),『入門 地域付加価値創造分析』日本評論社.

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