特集/未来の在るべきエネルギーの姿とは①~日本の脱炭素実現のための提言~脱炭素社会への自然エネルギー100%の道

2021年01月15日グローバルネット2021年1月号

公益財団法人 自然エネルギー財団 常務理事
大野 輝之(おおの てるゆき)

 昨年(2020年)10月、経済産業省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で、国のエネルギー政策の基本的な方向性を示す「エネルギー基本計画」の見直しに向けた議論が開始されました。東京電力福島第一原子力発電所の事故から今年で10年。原子力を廃止し安全を最優先としたエネルギー政策を進め、真の脱炭素化社会を目指すためには、いかにエネルギー転換を進め、どのようなエネルギーミックスの姿を示す必要があるのでしょうか。  今月号では、これまでの日本のエネルギー政策を振り返り、今後の脱炭素実現のための提言をご紹介いただきます。

 

昨年(2020年)10月26日のカーボンニュートラル宣言は積極的な意義を持つものだが、気候危機の克服を目指すために本当に必要な取り組みが開始されるかは、これからの政策選択にかかっている。

菅首相の宣言に前後して国から発信されるメッセージには、これまで無かったようなポジティブなものもある。電力系統への自然エネルギー電源のノンファーム型接続の全国展開、2040年洋上風力を最大45GWにする目標の発表、更には長年の課題だったカーボンプライシングの導入に向けた検討開始が、その代表的なものである。

こうした積極的な要素はあるが、2050年、2030年のエネルギー政策の方向を議論する国の検討会(総合資源エネルギー調査会基本政策分科会)での国の報告と議論は、原子力発電と石炭火力を含む化石燃料発電への固執を続ける「生半可」と言わざるを得ないものになっている。

自然エネルギー財団(以下、「財団」)では、2050年の脱炭素化とそれに至る2030年までのエネルギー転換を目指す一連の政策提言を行ってきた(※下囲み参照)。これを踏まえ、脱炭素社会の実現にとって重要ないくつかの点を述べる。

※「 脱炭素社会へのエネルギー戦略の提案」2019年4月
※「2030年エネルギーミックスへの提案(第1 版)」2020年8月
※「2030 年エネルギーミックスへの提案-需給モデル・市場分析」2020年12月
※「日本における2050 自然エネルギー100%への経路」2020年12月

 

脱炭素電源をいかに供給するか

脱炭素化を達成するためには、発電だけでなく熱や燃料の利用からの二酸化炭素(CO2)排出も実質ゼロにしなくてはならない。その基本的な戦略は、第一にエネルギー効率化を進め必要なエネルギー需要量を削減すること、第二に熱や燃料需要を脱炭素化が最も容易な電力利用に転換すること、そして第三には、電化できない高温熱需要を脱炭素化するために、CO2を排出しない方法で生産される水素などを利用することである。

財団の試算では、以上の戦略で必要な2050年の電力量は、現在の電力需要の2倍、約2,000TWhである。基本政策分科会で示された資源エネルギー庁の案(以下、「エネ庁案」)では、1,300~1,500TWhという数値が示されている。どちらであっても、すべて脱炭素電力でなければならない。

ここまでのロジックはエネ庁案も財団の提案もほぼ同一である。問題は、脱炭素電力をどのように供給するかという点だ。財団は、日本の豊富な自然エネルギーポテンシャルを活用すれば、太陽光発電、風力発電を中心に自然エネルギーですべての脱炭素電力を供給することが可能という提案を行っている。同時に、海外から自然エネルギー電力で作られたグリーン水素を輸入するケースも示している。この場合には国内で必要な自然エネルギー電力は、約1,400TWhになる。

現実的ではない原子力発電とCCS火力利用の提案

これに対し、エネ庁案は自然エネルギーの供給割合を約5~6割にとどめ、水素火力・アンモニア火力で約1割、残りの約3~4割を原子力+CCS(CO2回収・貯留)付き火力発電で供給する、という提案を示している。エネ庁案は、電力を安定的に供給するためには、調整力や慣性力を確保するために火力発電を残すことが必要、という前提に立っている。しかし、先駆的に自然エネルギーの導入を進めている国々の経験では、電力貯蔵技術、需要管理、広域送電網の活用などで火力発電に頼ることなく、自然エネルギー100%の電力供給を実現することが可能だということを示している。

エネ庁案が示す自然エネルギー電力以外の脱炭素電源のうち、水素火力とアンモニア火力は、その燃料が自然エネルギー電力により生産されるものであるなら、1割かどうかは別として一定の量が利用される可能性はある。問題は原子力とCCS付き火力で3~4割を供給するという提案である。

原子力発電については、梶山経済産業大臣も今後10年程度は新増設や建て替えは進められないとの意向を示している。実際、新設コストがどの電源よりも高くなっている現実、使用済み核燃料の保管場所、最終処分のめどがまったく立たない状況を踏まえれば、安全性への懸念を別にしても、到底、持続可能な電源とはいえない。エネ庁の資料も示すように、既存の原発は仮にそのすべてが60年運転するという極端な仮定に立ったとしても、2060年には956万kWが残るにすぎない。これらの原発をフルに稼働させても、2050年以降に必要な電力の5%前後しか供給できない。福島事故後に定められた40年運転の原則を守れば、2050年時点でも必要電力量の2%程度しか供給できない。どちらにしても、原子力発電は脱炭素社会のせいぜい脇役でしかない。

ではCCS付き火力発電はどうか。エネ庁資料は、CCS付き火力について、課題は示しつつも推進するスタンスを明確にしている。30ページもの資料を提出しつつ、エネ庁が説明していないのは、過去20年余の世界の取り組みにもかかわらず、現在、世界で稼働しているCCS付き火力発電は、世界でただ1ヵ所、カナダのバウンダリーダム火力という12万kWの小規模発電所しかないという「不都合な真実」である。

2020年5月までは、もう1ヵ所米国・テキサスにペトラノヴァ発電所があったのだが、現在は操業停止中である。その理由は原油価格の低迷だ。この二つの発電所は、いずれも回収した排ガスを地中に注入し原油の増産を図る原油増進回収法(EOR)を伴うものだ。CCSのコストの一部を原油の増産で採算を取る、という仕組みである。したがって、原油価格が低迷すれば採算割れしてしまう。

日本には回収したガスを投入して原油を増産するような場所はない。つまりCCSの追加コストを回収する方法がそもそもないのだ。また、それ以前に長期間、安定的に貯留できるような地下空間はなく、国も専ら海底貯留の可能性を探っている。必要になる大量の貯留が可能か、見通しはまったく未知数だ。火力発電所の立地場所から船舶で回収したCO2を輸送することになり、さらにコストがかさむ。

脱炭素化で世界をリードする欧州連合(EU)の2050年戦略では、自然エネルギー電源は81~85%という大きさである。火力発電は2~6%にすぎず、発電目的でCCSを使うことはほとんど想定されていない。CCS付き火力は世界的に見てもあまり利用が見込まれない技術だが、日本での実現はさらに見通しが暗い。

2030年 自然エネルギー45%の実現を

カーボンニュートラルを目指す国の議論で、もう一つの大きな問題は、2030年までの取り組み強化の方向がいまだ不明確なことだ。IPCCの1.5℃特別報告書は、世界の気温上昇を1.5℃以下に抑えるために、2050年の実質排出ゼロに加え、2030年までに2010年比45%程度の排出削減が必要であることを示している。

排出削減の主要な手段はエネルギー効率化と自然エネルギー電力拡大である。カーボンニュートラル宣言以降、日本では革新的技術開発やイノベーションの議論が盛んに行われている。こうした取り組みも必要だが、2050年カーボンニュートラル実現には、まず、今直ちに利用可能な省エネ、再エネ技術を最大限に活用し、2030年までの大幅削減を行うことが最も重要である。欧米の先進国、地域では、2030年の自然エネルギー電力目標として最低でも40%、最高は100%という高い水準を提起している。現在の日本の目標22~24%は、これらの先進的な取り組みに匹敵するまで高めなければならない。財団の研究は、カーボンプラシングの導入などの政策的措置を講じれば、45%以上の導入が可能であり、現在の送電網でも安定的な電力供給が可能であることを実証している。

2030年に自然エネルギー電力40~50%という提案は、いまや経済同友会、全国知事会を含め多くの企業、自治体に共有されるようになっている。30年後の目標だけでなく、2030年までの高い目標を設定するかどうかが、気候危機打開に向けた日本の政策が本当に変わったのかを判定する最大の試金石である。

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